Data.57 弓おじさん、人馬の試練
とりあえず、乗る馬を選ばないと始まらない。
なんたって流鏑馬だからな。
走る馬に乗りながら弓を構えて的を射るという、とんでもない芸当をやってのければならない。
チャリンの話では、大体200メートルちょっとの直線コースに的が3つ並べられているとのこと。
今度は点数制ではなく、的の中心に描かれた円の中に矢を当てれば合格だ。
しかし、3つのうち1つでも外したら再チャレンジを要求される。
事前に的のレプリカを見せてもらったが、合格となる中心の円はさっきまで狙っていた点数制の的の100点部分よりかは広い。
つまり、狙う的自体の難易度は上がっていない。
ただ、馬に乗りながら撃てるかが未知数なのだ。
「うーん、馬ってあんまり詳しくないし、どの子が速いのかまったくわからないなぁ。いや、速いと揺れそうだし、遅い子の方がいいのか……?」
ええい、こうなったら直感だ。
目と目があった栗毛の馬を選択する。
茶色っぽくて、馬っぽい馬の色をしている。
馬屋から出した時点で馬具は装着されるので、プレイヤーはそのまま乗ればいい。
乗り方を知らなくても説明が書かれたウィンドウが展開されるため、それに従いなんとか乗ることはできる。
説明には馬の機嫌を損ねると攻撃されるとか書いてあったが、どうやらこの栗毛の子は大人しい性格らしい。
さて、試練の前に練習といくか。
「えっと……進め!」
リアルと違い、言葉での命令を理解してくれる。
馬はトコトコと歩き出した。
この時点で結構揺れるし、お尻にくるな……。
「は、走れ!」
馬は全力で駆け出す。
俺も全力で揺さぶられる。
一歩走るたびに尻が馬の背中に打ち付けられるようだ……!
これじゃ弓を構える余裕もないぞ……!
『脚でしっかりお馬の体を挟んで、腰を使って上半身を安定させるにょん!』
「りょ、了解……!」
脚にグッと力を入れて馬の体を挟み込む。
こうすれば確かに体は揺れにくくなった。
でも、弓を構えて狙いをつけるには程遠い。
揺れる馬に合わせて腰を動かし、上半身だけでもブレにくいようにする。
よしよし、マシになってきてる。
今度は弓を構えるんだ。
弓は専用の和弓であり、ゲーム内の弓の中でも大きめの部類に入る。
しかし、俺が普段使っている『風雲弓』も和風の装備だから、和弓に限りなく近い見た目をしている。
持ち替えてもさほど違和感はない。
矢も多少デザインは違うが問題にはならない範囲だ。
つまり、問題は本当に乗馬だけだ。
『そろそろ一回本番に挑戦してみたらどうだにょん? 何度でも挑戦できるから、まずは感覚を掴むためにも気軽にやってみるにょん!』
それもそうだな。
やってみたからこそ見えてくるものもあるだろう。
チャリンに挑戦をお願いし、大きな木製の門の前で待機する。
門の向こう側は見えないが、きっとこの先にコースが広がっているのだろう。
『開門まで10秒前!』
9、8、7……とカウントダウンが進み、緊張が高まる。
落ち着け、これはあくまでもお試しだ。
失敗しても何度でもやり直せばいいんだ。
『ゼロ! 開門!』
門が開くと同時に馬が全力疾走を開始する。
ちょちょちょ、練習の時よりずっと速いじゃないか!
「あ、キタキタ!」
「弓おじさんのお通りだ!」
「一発合格期待してまーす!」
「今まで合格した奴はいても、一発はいなかったからなぁ!」
コースの柵の外に観客までいるんだが……。
でも、流鏑馬って儀式や式典で披露されることが多いから、ある意味これが正しい姿なのかも?
とはいえ一発合格期待してるなんて、なかなか言ってくれるじゃないか……!
意識せざるを得なくなった……!
1つ目の的がぐんぐん迫ってくる。
普通の的当ての時より的の距離は近い。
体を安定させて……撃つ!
キリリリリ……シュッ!
少し撃つのが遅れて、それをカバーするために体が後ろに反ってしまった。
落馬しなくてよかったが、ちゃんと的に当たったのかわからない。
そうしている間にも次の的が迫る。
今度は早めに……撃つ!
キリリリリ……シュッ!
よし、タイミングは良い。
的に当たったのも確認した。
しかし、喜ぶのはまだ早い。
3つ目の的を外したら台無しだからな。
落ち着いて……撃つ!
キリリリリ……シュッ!
当たった……!
あとは全部の矢が合格の円の中に入っているのを願うだけだ。
『結果はっぴょーう! 今回のキュージィさんの挑戦はぁ……』
チャリンがもったいぶる。
実は……観客の反応でちょっと察してるんだよなぁ……。
『全発命中、大合格だにょん!!』
「ふぅ……。良かった」
みんなの期待に応えられて良かったというのもあるが、もう俺の尻と腰は限界だった。
今回の挑戦でダメだったら、しばらく時間を置かないと再挑戦できなかっただろう……。
でも、もう少し馬に乗ってみたかったという気持ちもあるから、人の心って複雑だ。
『ではでは! あなたほど似合う人はいない、いて座のメダルをプレゼントだにょん!』
いて座メダルも表には星座が描かれ、裏面には上半身は人間、下半身は馬の伝説上の生き物ケンタウロスが弓を持った姿で描かれている。
『そして、こちらはご褒美! 『星の矢』だにょん!』
これまたわかりやすいアイテムが来たな。
『星の矢』ということは、【スターアロー】みたいなスキルが手に入るんじゃないか?
……あれ? このアイテムは『使う』ことが出来ない。
俺にもガー坊にもだ。ただの素材アイテム……なのか?
そうとは思えないが、今は大事に保管しておく他ないだろう。
さて、得意分野だからササッと終わらせることができて良かったな。
ある意味一番緊張したけど……。
太陽はまだまだ高い。次の迷宮も今日中にクリアしてしまおう。
「順番通りに行けばさそり座の天蝎迷宮だけど、サソリか……。あまり良い予感はしないけど、どんな迷宮なんだろう……」
「天蝎迷宮はこことは違い、純粋なダンジョン攻略が試練さ。特殊ルールはただ1つ、4人パーティで攻略しなければならないこと。ソロで入ってもランダムマッチングで他のソロプレイヤーと組むことになるのだよ」
「あ、あなたは……ハタケさん?」
「なぜ疑問形なんだい? あの頃と見た目は変わっていないよ、おじさま」
第3職『旗の魔法使い』のハタケさん。
実質的に一回イベントで関わっただけなのだが、忘れることができないほど強烈なキャラをしている、いろんな意味で厄介な人だ。
彼がなぜここに……。
「恥を忍んで言おう。ギルドの仲間と迷宮に挑戦していたのだけれど、ボクだけ失敗してしまった。仲間たちはクリアしたけど、めんどくさいから再度潜りたくないと言っているのだよ……」
あ、そういうことか……。
おおよそ彼が次に言うことを察してしまった。
「頼む! 天蝎迷宮を共に攻略してくれないかい!? ボクはバフ要員だから、味方が強くなければ意味がないのだよ! キミくらいなのだよ! ギルド以外の知り合いは!」
ハタケさんは口こそ必死だが、決して頭を下げない。
いや、頭を下げろと言っているのではない。
この勢いで頼みこんできても、背筋がピンと伸びている彼の姿勢に感心しているのだ。
俺なら思わずペコペコしてしまいそうだ。
そうだよな、ゲームを一緒に遊んで欲しいというお願いに頭を下げる必要はない。
そして、迷宮を1つ攻略するくらいなら協力してもいいと思う。
見知らぬプレイヤーと組むよりは俺も助かる。
でも、ギルドに入ってくれと言われたら……断るけど。








