表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/281

Data.56 弓おじさん、射的場に現る

 来てしまった……いて座の試練会場に。

 場所はだだっ広い草原。

 そこにありとあらゆる飛び道具の射的場が設置されている。

 出店が射的場だけの祭りのようだ。


『さあさあみなさん! お好きな武器を手にとって、自由に的当てを楽しむだにょん!』


 ここのチャリンは袴を穿()いて和弓を持った弓道部スタイルだ。

 とはいえ金髪は変わっていないので、部活というより観光に来た外国人感はある。


 試練の内容は射手座にちなんでシンプルな的当てだ。

 銃は当然として、弓矢、吹き矢、手裏剣、ブーメラン、短剣、手斧、手槍、石ころに至るまで、プレイヤーは自由に選んで的当てに挑むことができる。

 選ぶ武器によって的の配置やルールに多少の差はあれど、基本的には的の真ん中に当てれば高ポイントだ。

 何回か射撃または投擲を繰り返し、最終的なスコアが合格ラインを越えればいて座(ザジタリウス)メダルが手に入る。


 ご褒美に関しては、この合格ラインを越えた者だけに解放される高難易度ステージをクリアする必要があるらしい。

 まずは深く考えず真ん中を狙っていけばいい。


「さて、武器は何にするか……」


 悩むまでもなく弓だろう。

 むしろそれ以外何を使うんだ。

 ということで、弓の射的場の列に並ぶ。

 的は横一列にたくさん並んでいるため、複数のプレイヤーが同時に試練に挑戦できる。


 しかし、今は的以上にプレイヤーが押しかけているので多少の待ち時間が発生している。

 なんだか懐かしいな。

 お祭りの射的なんかは常に人気でみんな並んで待っていたものだ。


「あの……もしかして、キュージィさんですか?」


「はい、そうですが」


 まあ、声をかけられるよな。

 弓を使うか一瞬悩んだのは、弓の列に並べば確実に騒がれると思ったからだ。

 複数の武器が選べるこの試練で、簡単そうな銃や石ころ投げを選ばずに弓を選択する人というのは、普段から弓を使って冒険している可能性が高い。

 同じ弓使いとして、俺のことを把握してる人も多くなるだろうと思った。


 これが手斧投げとかなら、弓自体に興味がなくて俺のことを忘れている人や知らない人が多かったかもしれない。

 話題になった陣取りのイベントも結構前の出来事だからな。


「きゃあっ! 本物なんですね! ご活躍はかねがねお聞きしてます!」


「ははは、そりゃどうも」


「最近は海で起こった大型スクランブルのモンスターをソロで討伐なされたとか……!」


「いやいやいや! 誰ですかそんなこと言ったの!? 流石に誇張されすぎですって!」


「またまたご謙遜を!」


 あれは他のプレイヤーや蒼海竜の協力あっての勝利だった。

 とても自分だけで勝ったとは言えない。

 どこでどう話がすり替わったんだ……?


「あっ、私なんかがキュージィさんの前に並んでるのは失礼ですよね! お先にどうぞ!」


 女性プレイヤーはサッと列の外に出る。

 すると、さらに前に並んでいるプレイヤーも俺の存在に気づいた。


「わっ、弓おじさんだっ! お先にどうぞ!」

「うおっ! 本物だ!」

「ネットで見たことある人だ! 実在したんだ!?」

「上手い人に自分が撃つところを見られるの恥ずかしいんで、どうぞ抜かしてください!」


 あれよあれよという間に、列に並んでいたすべてのプレイヤーが俺に順番を譲ってしまった。

 中には『こんなおじさんのこと知らないけどノリで譲っとくか』って人もいるだろうな……。

 まあ、ありがたいと言えばありがたいことなのだが……流石に素直に受け取るわけにはいかない。


「俺のことはどうぞお気になさらず。みなさん順番通りにいきましょう」


 俺の言葉は通じたようで、みなサッと列に戻った。

 もしかして、一種のサプライズ的なネタだったか……?

 どちらにせよ、これ以降は少しお話をする程度で平和に進み、ついに俺の順番がやって来た。


 自分が狙う的の前に立ち、呼吸を整える。

 モンスターとの戦闘中は撃たなければやられるという緊張感の中で射撃を行っているから、こういう安全な的当てはまた感覚が違うな。

 だが、動く的であるモンスターよりは絶対に簡単なはずだ。

 いつも通りにやれば問題ない。


 的は60メートル先、大きさは直径100センチ程度。

 撃てる矢の数は4本。

 得点は真ん中が100点、そこから中心を離れるごとに点数が下がっていく。

 合格ラインは合計280点以上。

 つまり、1回の射撃ごとに70点以上取れれば無理なく合格できる。


「よし……いくか!」


 キリリリリ……っと弦を引き、シュッと放つ。

 するとストンッと的の真ん中に矢が収まる。

 これを4回繰り返す。間に休憩はいらない。

 呼吸をするように淡々と当てる……。


「……おお、意外と外さなかったな」


 慣れない環境で撃つと狙いがブレると思ったが、すべて真ん中に命中していた。

 自分でも理由はわからないが、やはり弓矢は体に合っている。


「すごーい! 流石キュージィさん!」


「え、えっ!?」


 射的場全体から拍手が起こる。

 どうやら、みんな撃つ手を止めて俺の射撃を見ていたらしい。

 集中していたからか、音の変化に気づかなかったな……。

 周りの変化に敏感に反応できないとは、まだまだ未熟だ。


「あ、ありがとうございました!」


 称賛されることに慣れてない俺は、とりあえず手を振ってその場を後にした。

 アイドルじゃないんだから変な気もするが、黙って去るのも申し訳ない。

 後で思いだして恥ずかしくなる気もするけど……まあ、たまにはいいだろう。おじさんがアイドルでも。


『流石だにょん! 弓を扱ったら右に出る者はいないにょんね!』


 チャリンが虚空から現れる。

 あれ、俺のことを認識している?


「ありがとう。覚えてくれたんだ、俺のこと」


『AIだって人間と同じで、印象に残るプレイヤーは覚えてしまうものだにょん! 各迷宮にいる私は全部繋がってるからなおさらだにょん!』


 そうか、すべてのチャリンは同一人物だった。

 それなら俺みたいな変な遊び方してるプレイヤーは覚えてしまうだろうな。


『さて、メダルをプレゼント……の前に、ご褒美を賭けた高難易度ステージに挑むにょんね?』


「ああ、もちろんさ」


 メダルはご褒美と一緒に受け取るとしよう。

 すべて終わった後に受け取る方が気分も良い。


『では、高難易度ステージにご案内だにょん!』


 チャリンに導かれてやって来たのは……馬屋だった。

 ま、まさか……。


『お察しの通り、このステージでは流鏑馬(やぶさめ)に挑戦してもらうにょん! まさに人と馬! 人馬の試練の最後を飾るのにふさわしい内容にょんねぇ~』


 ヒヒィーーーンッ!


 チャリンの言葉に同意するように馬たちがいなないた。

 俺、馬なんて乗ったことないぞ……!


 いや、ある……か?

 あれは……陣取り合戦の時だ。

 ハタケさんから借り受けた『マッハホース』というウマ型モンスターに乗ったことがあったな。

 貸してくれたハタケさんの印象が強すぎて忘れていた。


 しかし、リアルで馬に乗ったことがない人間が言うのもアレだけど……『マッハホース』は馬に乗っている感が皆無だった。

 あのモンスターの乗り心地はとにかく快適だった。

 それこそ並の自動車より速いのに、揺れがほとんどないのだ。

 滑るように大地を駆け、俺を自軍本拠地まで連れて行ってくれた。

 その後は普通に自分の足で立って射撃を行っていたので、馬上で弓を撃った経験は本当にない。


 今回もそんな快適な乗馬体験が……待っているわけないよなぁ。

 NSOのことだ。多少リアルより簡単にしつつも、限りなくリアルに近い乗馬体験を用意してくれていることだろう。

 俺、リアルで馬なんて乗ったことないぞ……!

※1/7追記

ご指摘の通りキュージィはData.32でウマ型モンスターに乗ったことがありました!

そのことについて言及するシーンを本話の最後に追加しました。

ストーリー自体に大きな変更はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンガBANG!様でコミカライズ版が連載中!
コミックシーモア様でも配信開始!

下の画像をクリックかタップでコミックシーモア様の販売ページにジャンプ!

89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_c

オーバーラップノベルス様より書籍版『射程極振り弓おじさん』全3巻が発売中!

表紙の画像をクリックかタップしていただくと各巻の紹介ページにジャンプします!
WEB版と合わせて書籍版も応援よろしくお願いします!


89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_ckr8eal78d7hhgjduiu2zgr7t2g0u_3ne_go_mu_a89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_c

ツギクルバナーcont_access.php?citi_cont_id=845389662&s
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] めっちゃ揚げ足取りみたいなのになってしまうかも知れないけど、イベントの時畑くんから馬渡されて乗ってたくね?
[一言] 流鏑馬ですか 早足じゃなくて駆け足すると落馬こわいですね 馬に乗るまで左手で弓もって 座って馬が立つまで右手で手綱操り 手綱を腰ひもに通して外れないようにしてから 1射目は矢をつがえたまま…
[一言] ここはいっそのこと、ガーくんに跨る選択肢も(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ