Data.46 弓おじさん、鏡の迷宮
まさかモンスターの持ってる鏡の中に世界が広がっているとは……。
【ワープアロー】は毎回俺に驚きを提供してくれるな。
普通のゲームだったら不具合の温床になっているスキルだろう。
運営はよくやってると思う。
ただ、今回に関しては別に裏ワザというわけではなさそうだ。
『鏡石の洞窟』はあまりにも何もなさすぎた。
おそらく、この鏡の中の世界こそが本命なんだ。
あの鏡を持った亡霊『ミラーゴースト』は、洞窟を探索している時には出てこなかったモンスターだ。
これも想像だが、こいつは何らかの条件を満たさないと出現しない。
その条件は……洞窟内のすべてを探索すること。
俺がすべてを調べ終えて帰ろうとしたところに現れたのだから、その可能性は高いと思う。
何はともあれ、まったく事前の情報なしでここに来られたのは幸運だな。
ありがたく冒険させてもらおう。
だが、その前に……。
「ガー坊を一回戻して……出す」
鏡の外に置いてきたガー坊を一回引っ込めてから召喚する。
ユニゾンはいつでも任意で引っ込めたり出したりできるはずだが……果たして。
「ガー! ガー!」
よし、上手く呼び寄せることができた。
現在地は部屋の中。外への扉もあるし、ベッドや机まである。
赤白の派手な色合いを無視すれば、生活感があって今までのフィールドやダンジョンとまったく異なる雰囲気だ。
サイズ感も普通の家よりは少し豪華な程度。十分に動き回れる広さはない。
弓矢の射程を生かせないかもしれない。
ガー坊には頑張ってもらわないとな。
さて、扉を開けて部屋の外へ。
……長い廊下だ。
やはり、大きな屋敷の中という感じか?
廊下を歩いていくと、さっきまでいた部屋と同じような扉がいくつもある。
相変わらずどれもこれも色合いは赤白だ。
鏡の中、赤と白、メルヘンチックな雰囲気……。
このキーワードから連想されるのは『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』。
ごっちゃになりがちだが、アリスの物語は2つある。
俺も最近知った。
鏡を通り抜ける要素以外、この空間は不思議の国の要素が強い……気がする。
実は本編の内容にはあまり詳しくない……。
あらゆる作品に『アリス』は出てくるし、キャラだけではなく物語そのものが影響を受けている作品も多い。
俺もゲーム作りに役立つかと思って原作に挑戦しようとしてみたが……ちょっと難しかった。
あまり活字を読まない性分というのもあるけど、それ以上に昔のファンタジー小説って詩的表現が多い。
今の時代の事実を淡々と述べる小説と少し違った。
ということで今も俺の中での『アリス』の印象は、エプロンドレスを着た金髪の美少女が出てくる作品で固定されたままだ。
案外、みんなそうなのかもしれないけど。
クス……クスクス……
少女の笑い声だ。
自分の思考を笑われた気がするのは、自分で笑われるようなことを考えていた自覚があるからだな。
それにしても、歩いても歩いても、階段を上っても下りても、同じ景色が広がっている。
エントランスや玄関も見つからなければ、屋上に出ることもない。
いくつか扉をあけてみても、最初にいた部屋と変わらぬ内装の部屋があるだけ。
クス……クスクス……
そして、たまに少女の笑い声が聞こえる。
演出かと思ってたが、これが脱出のヒントになっているのか?
耳をすませて声のした方向を探る。
近くの扉の向こうからだ。
警戒しつつ扉を開ける。
……少女はいない。
ただ、テーブルの上にトランプが置かれていた。
スペードのエースだ。
裏面にはカギをモチーフにしたエンブレムが描かれていた。
なるほど、わかりやすいな。
すべてのトランプのカード……は多すぎる。
おそらく4枚のエースを集めれば、それが脱出のカギになるという意味だろう。
そして、ヒントは少女の笑い声だ。
声をたどって部屋に入れば、そこに次のカードがあるはずだ。
「ん……? 隣の本に何か書いてあるな」
このゲームで読める本に出会ったのは初めてだ。
建物の中に本棚が置いてあることはあったが、そこに並んでいる本は読めない以前に本棚から引き抜くことすらできない。
「えっと……血濡れのブラッディ・マリー、鏡の中に住む亡霊……」
これは出てくる敵の情報か?
いや、ここまで鏡の中に敵が出てきたことはない。
ということは脱出の時に戦うボスのことか?
どちらにせよ、警戒して探索を進めた……い……。
「…………」
廊下に出ると、血濡れの女が立っていた。
俺を見つけると、ゆっくりと歩き始めた。
彼女がブラッディ・マリーか。
カードを一枚でも入手すると現れるように設定されていたのだろう。
なんにせよ危なかった。
事前に情報を得て、どこかで出くわす覚悟が出来ていなかったら、恐怖のあまり叫んでいただろう。
俺、ホラーゲームだけは本当にダメなんだ……!
特に反撃できない敵に追われる系は本当にダメ。
だが、今の俺には弓矢とガー坊がいる!
攻撃は可能だ!
「弓時雨!」
最強の奥義で早めに消えてもらう!
見た目からして怖い……!
「…………」
しかし、無数の矢はすべて彼女をすり抜けてしまった。
ま、まさか……本当に逃げるしかない系の敵……?
勘弁してくれ……。
「ガー! ガー!」
ガー坊が【オーシャンスフィア】を展開しつつ、【赤い流星】を発動する。
流星のごとく繰り返される突進もすべてすり抜ける。
やはり逃げるしか……ん?
なぜかブラッティ・マリーがずぶ濡れになっている。
血濡れでずぶ濡れで大変な状態だ。
ここまでくると恐怖も薄れる。
しかし、なぜ【オーシャンスフィア】が生み出した海の影響は受けたんだ?
同時に発動した【赤い流星】は確実に効いていないのに。
「まさか……!」
武器を切り替える。
『風雲弓』から懐かしの『スパイダーシューター』に。
そう、こいつの武器スキルは……。
「ウェブアロー!」
粘着質の網を打ち出すことができる。
狙い通りブラッディ・マリーはベタベタの網に絡めとられ前に進めなくなった。
彼女はダメージを伴う攻撃はすべて無効化できるが、そうでないただの妨害スキルは食らってしまうようだ。
「今のうちに行くぞ、ガー坊」
「ガー! ガー!」
ガー坊には助けられたな。
【オーシャンスフィア】を使ってくれてなければ、弱点を知ることなく逃げ回っていたかもしれない。
ただ追われる立場では冷静な判断はできない。
脱出にはさらに時間がかかっていたことだろう。
とはいえ、まだ油断はできない。
ブラッディ・マリーのパワーは凄まじく、ブチブチと絡まった網を引きちぎっている。
網の粘着力も彼女から流れ出る血が染み込むと失われるようだ。
ずっと足止めすることは不可能と考えた方が良さそうだ。
ならば、さっさと残り3つのエースを集めるのみ。
クス……クスクス……
次はここか……!
勢いよく扉を開き、中に転がり込む。
「あ」
「あ」
部屋には先客がいた。
しかも、このゲームで数少ない顔見知りで、浅からぬ因縁がある少女だ。
今は爪を外し、手には2枚のエースを持っている。
ネココ・ストレンジ。
まさか、こんなところでまた出会うとは……。
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