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After Data.26 弓おじさん、不死鳥再び

 翌日――。

 買い出しを済ませた俺は、火山と雪山に潜む最後のボスを倒すべくNSOにログインした。

 やるべきことを済ませた後というのは気分が良い。

 本日は感覚が冴え渡っている……ような気がする。


「よし、まずは火山に向かおう」


 スタート地点は火山に近い村なのだが、そもそも火山はかなりの奥地にあるため、一番近い村からでもそこそこ距離がある。

 まずは森に囲まれた細い街道を進もう。

 街道というのはプレイヤーに歩きやすく舗装された道で、モンスターの出現率も低いというのは周知の事実だろう。

 しかし、大きな街から遠くなれば遠くなるほど街道は細くなり、地面も微妙に荒れてくる。

 こうなるとモンスターも強力な個体が出現しやすくなるので、フィールドの奥地を冒険するのは常に危険が付きまとう。

 今現在、俺が歩いている街道の状態は……お世辞にも良いとは言えない。

 こりゃ、何が出てきてもおかしくないなぁ。


 ガサガサ……ガサ……


 いや、もう出ている。

 『何が出てきてもおかしくはない』の『何』にあたる部分が……!


 コソ……コソコソコソ……


 そいつは木の幹に隠れながら俺についてきている。

 体の大きさは平均的なプレイヤーと同じくらい。

 二足歩行でカラーリングは赤と黒。

 動くたびに腰にぶら下げた武器がカチャカチャと音を立てる。

 そう、銃と刀が合わさった奇妙な武器が……。


「ネクスか……」


 生まれたばかりのNSO公式AI、それがネクス・ネクスタリアだ。

 彼女とは共に冒険した経験もあるのに、なぜ隠れてついてくるんだ……?

 なにか事情があるのかもしれないが、もうじき火山のふもとに入る。

 そこには隠れられる木なんて生えていない。

 姿を晒さずについてくることは出来ないが……。


 俺は装備している『Aイエティガントレット』を鏡の代わりにして背後をうかがう。

 ガントレットの表面はピッカピカなので綺麗に景色を映し出せるのだ。

 ……あたふたしてるなぁ、ネクス。

 これはこちらから声をかけた方がいいのか?

 えーと、なんて声をかけようか……。


「ネクス、いるんだろ?」


 さも気配を察知したかのように言ってみる。

 本当は目と耳でしっかり存在を把握しているけど。


「ふっ、気づかれては仕方がない」


 ネクスがホッとしたような表情で俺の前に現れる。

 やはり俺に気づいてほしかったようだ。


「これからまた火山に向かうようだが、あれからどれだけのボスを倒したのだ?」


「2体だね。火山と雪山のボスをそれぞれ1体ずつ」


「ほう……確かに装備が新たに2つ増えておるな」


「ああ、これでまだ手に入れていない装備は『頭部』と『武器』。つまり、残るボスも2体というわけさ。俺の予想、良い線いってるんじゃない?」


「うむ! あっ、そうではなく、まあ、良い推測なのではないか?」


 正解を言いかけてあわててごまかすネクス。

 まあ、今回の予想はほぼほぼ正解に近いと思っていたので、少し意地悪な質問になってしまったかな。


「ネクス、イベントの方はもういいのかい?」


「ああ、ふれあいイベントは無事終了した。ただ、皆の者がなぜ生まれたばかりの私にそこまで会いたがるのかはわからんままだ。特に思い入れもないだろうに」


「うーん、それはもっともな疑問かも……。でも、結成したばっかりのアイドルグループにも少なからずファンはいるし、デビューしたての子を応援したいみたいな人は一定数いるんじゃないかな? それにネクスの場合はすでに多くのファンがいるNSOというゲームの顔としてデビューしたわけだから、それだけ気になっている人が多いんだと思う」


「なるほど、私が私だから会いたいのではなく、NSOが生み出した新たなAIだから見てみたいというだけのことなのだな」


 そう言われるとかなり冷たい物言いな気もするが、実際のところそれが事実に近いか……。

 虫が光に集まってくるように、人も新しいものに集まってくる。

 それがすでにブランドを確立したところが出した新しいものとなれば、集まってくる人の数もそれだけ多くなる。


「でも、それも最初だけさ。時間が経てばネクスがネクスだから会いたいって人も増えて来るよ」


「減っていくかもしれんがな」


「それは……」


「別に悲観しているわけではない。これからも皆の者に必要とされるかどうかは私次第だということを理解しただけだ。同時に誰かに必要とされる喜びも少しだけわかった。『あの者』が優れたAIである理由は、人が好きだからなのだろうな」


「あの者……チャリンは確かに話していて人が好きなことが伝わってくるけど、最初からそうだったとは限らないさ。結構苦労したみたいな話も聞くし、ネクスも徐々に慣れていけばいいと思う」


「うむ、そうだな。まずは当初の予定通り戦闘経験を積んでいくとしようか」


「じゃあ、これからのボス戦に一緒に来るかい? 正直、激戦の予感がするけど……」


「ふふっ、望むところだ」


 これで俺、エイティ、ネクスの3人パーティとなった。

 前衛と後衛に加えてもう1人が自由に動ける3人パーティは痒い所に手が届く。

 パーティ人数が増えるとそれだけボスも強く調整されるが、それを考慮しても大人数の方が戦いやすいように作られているのがMMORPGというものだ。

 たとえ最後のボスがこれまでより強くとも、有利に戦いを進められるはずだ。


「まずはこのまま火山を登ってボスを倒す。その後、雪山のボスも今日中に倒す予定さ」


「うむ! 間違いなく今日中に倒すことになるだろうな」


 この時、俺はネクスの『間違いなく今日中に倒すことになるだろうな』という言葉を『そなたならば1日で2体のボスを倒すことなど容易だろう』みたいな励ましの言葉だと受け取っていた。

 もちろん、そういった意味も含まれていたと思う。

 しかし、この言葉にもう1つの意味があったことを、俺はすぐに知ることになる……。

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