After Data.25 弓おじさん、噴火力爆発
「ここもいつものボス部屋ではないな……」
というか、部屋ですらないぞ！
見渡す限り壁や天井はなく、ただひたすらに森が続いているように見える。
足元には雪が積もっているが、木々は凍っていない。
それどころか、青々とした葉が茂っている。
なんとも不思議な空間だ……。
「ん？ 待てよ？ 壁や天井がないなら、ボスは一体どこから出てくるんだ……？」
まさか、ここに来て壁画からではなく普通に出てくるのか？
それとも不具合で出現していない？
ボスを倒さないと出られない部屋にボスが出てこないのは洒落にならないが……。
「いや、流石にそんなミスはしないか！」
足元の雪が淡く発光し、その光が何かを描いていく。
いるんだ……！ この雪の下の地面に壁画のモンスターが！
グゴゴアァァァァァァァァァッ！！
雪を震わすような鳴き声をあげながら雪の中から飛び出して来たのは、巨大な拳を持つ毛むくじゃらのモンスター！
その名も『白雪壁画獣Ａイエティ』！
特徴はなんといっても巨大な拳！
本来のイエティに拳が大きいなどという特徴はないが、ビッグフットとの差別化を図るため、このようなアレンジが加えられているのだろう。
見た目通り握力は相当強いようで、今は木の枝を掴んで空中にその巨体をぶら下げている状態だ。
おそらく猿のように枝から枝に移動することも可能と見た。
地上に降りてもらわねば、あのコンボを当てるのに苦労しそうだな……。
「エイティ！ 頼んだ！」
「ヴルル……ッ！」
エイティとイエティ……。
いきなりややこしい対決になってしまったが、これも覚悟の上だ。
これからNSOをプレイしていくうえで何度もイエティ系モンスターと戦わなければならない場合はかなり面倒なことになるが、そんな機会はそうそうないだろう。
ゆえに問題はなしだ！
「ムーンキャノン！」
エイティの放った光の砲弾がイエティに迫る！
イエティは素早い身のこなしで次の枝へと飛び移ろうとする。
だが、その行動は読めている！
放たれた２つの砲弾のうち１つは、その飛び移ろうとするであろう木を狙っていたのだ。
砲撃を受けた木は粉々に吹き飛び、イエティは掴むものがなくなり地面に落下する！
ここがチャンスだ……！
「噴火力充填！」
俺の体を紅蓮のオーラが包み込む！
これで次の攻撃に噴火属性が付与され、同時に攻撃の威力が５０％アップする！
「南十字星型弩砲・大噴火！」
放たれた十字の刃はいつもと様子が違う。
燃え盛るオーラをまとい、紅く輝いている！
凄まじい火力を予感させるが、同時に反動も凄まじく、発射の瞬間に照準が上にブレてしまった！
厚く降り積もった雪のせいで、発射台を上手く地面に固定出来なかったのも原因か……！
このままでは、せっかくの最強コンボが外れてしまう……。
どんな攻撃でも当たらなければどうということはないのだ。
せ、せめて端っこの方にカスってくれ……！
ジュ……ッ！
おおっ！ 本当に刃の端っこがイエティにカスった！
しかし、相手はボスモンスター……。
苦手属性かつミラクルエフェクトとはいえ、これでは大したダメージにはならな……。
グゴアァァァーーーーーーッ！？
イエティが叫ぶ！
ＨＰゲージが一気に赤く染まりゼロになる！
ま、まさか、カスっただけで倒してしまったのか！？
……そのまさかだ！
ＨＰを失ったイエティは雪の塊になり、粉々に砕け散った。
そして、その破片が集まり、地面に小さなかまくらを作る。
かまくらを手で掘ってみると、中から金属の小手が出てきた。
白と水色の爽やかなカラーリングと相反するガッチリとした武骨な形状が特徴的だ。
「両腕装備『Ａイエティガントレット』か……」
正直、【南十字星型弩砲・大噴火】の威力にビックリしすぎて、装備を手に入れた喜びが薄れている。
そもそも【南十字星型弩砲】の時点で過剰なまでの高火力だったのに、さらに火力をアップさせればああなるか……。
いや、いかんいかん。今は装備にチェックに集中するんだ。
◆Ａイエティガントレット
種類：両腕<ガントレット> 防御：８０ 魔防：２０ 固有：２０
武器スキル：【ブリザードストリーム】
【ブリザードストリーム】
溶けにくい雪の混じった風を勢いよく噴射する。
ＭＰを消費し続けることで連続噴射が可能。
ふむ、Ａシリーズは防御重視の装備なんだな。
確か『Ａビッグフットブーツ』も『防御』のステータスが一番大きかった気がする。
武器スキルは……これエイティの【ブリザードブレス】と被ってないか？
吹雪をわざわざ『溶けにくい雪の混じった風』と言い換えているのは気になるが……。
あと、説明文は『雲穿の弓懸Ｇ』の武器スキル【ブラックスモッグストリーム】に似ている。
ただ、この効果によって連続噴射している間は腕を前に向け続ける必要があるから、弓との相性は良くないんだよなぁ。
なにはともあれ、実際使ってみるしかないか！
「ブリザードストリーム！」
両腕のガントレットから雪の混じった風、要するに吹雪が噴き出す。
うーん、【ブリザードブレス】と大差ないように思えるが……。
なにか応用が利くかもしれないし、結論を出すのはまだ早いが、この単純な効果で応用というのもなかなか難しい気もするんだよなぁ。
「とりあえず、これで雪山の装備は２つ目だ」
火山で２つ、雪山で２つ、合わせて４つ。
シリーズ装備は６つの装備で構成されているので、残る装備は２つ……！
それぞれの山にあと１つずつだ！
今日はエイティの装備を選ぶ時間もあったし、１日でギリギリ２体のボスを倒せればいいと考えていたけど、思った以上にテンポよく攻略が進んだな。
おかげで時間はたくさん余っている。
このまま次なる火山のボスに突っ込んでもいいが……予想だと次のボスが火山の最終ボスなんだよなぁ。
なんか、勢いで突っ込むのは怖い気もする。
いつも勢いのまま進んでる気もするが、今はクールな雪山にいるので判断もクールだ。
今日のところはログアウトして、余った時間でリアルの買い出しに行こう。
そして明日は火山と雪山のボスを両方一気に倒す！
