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Data.22 弓おじさん、ちょっと頼られる

 現在地は砦をぐるりと囲う防壁の中だ。

 防壁もまた石造りだが、魔法や強力な物理攻撃に耐えられそうかと言えば……少し頼りない。

 これを強化するには、イベントマップ内に存在するモンスターを倒してコストを入手する必要がある。

 また、敵陣営のプレイヤーを撃破しても手に入る……はずだ。


 ルールを見直そう。

 ウィンドウを開けばいつでも見られる。

 うむうむ、敵プレイヤーを倒しても手に入るということで間違いないな。


 しかし、開幕早々攻めてくる陣営はいないだろう。

 今は砦周辺を探索し、モンスター討伐による戦争費用(ウォーコスト)、略してWCを稼がないと……。


『イベント開始より一時間の間は全体マップを表示します。期限を過ぎると、このマップは見られなくなります。その後は各自で戦況を把握してください』


 目の前にマップが展開される。

 砦の分布は綺麗に三等分された円グラフを思い浮かべるとイメージしやすい。

 俺たち赤い猪『レッドボア』は現在マップの下10個の砦を占領している。

 左上は青い鹿『ブルーディアー』、右上は緑の蝶『グリーンバタフライ』だ。


 気になる点と言えば……俺たちのいる砦が『ブルーディアー』の砦と隣接していることだな。

 隣接と言っても距離はかなりある。

 すぐに攻めてくるとは思えないが、警戒はしとかないとな。

 陣地の内側の砦よりハードな展開が待っているのは間違いない。


 なおさら早くWCを稼がないと……。


「どうやら、この砦にいる第3職(サード)はボクだけのようだね」


 一人のプレイヤーが手に持った旗を天に掲げる。

 風もないのにはためく旗は、キンキラな糸で繊細な刺繍が施されている。

 反対の手には宝石がちりばめられた円形の盾、装備は軽そうな金属の鎧だ。


「ボクの名前はハタケだ。『ハタケさん』とか『ハタさん』と呼んでくれて構わないよ。さっきも言った通り僕はサードだ。『旗の魔法使い(フラッグ・マジシャン)』と呼ばれる魔法家系統の職業さ。得意な戦術は広範囲へのバフ。だから、この砦の指揮はボクがとらせてもらうよ」


 ハタケさんはさらりと髪を撫でる。

 ナルシストな金髪魔法使いというキャラを完璧にこなしているな。

 好きなキャラになりきるというのも、MMOの楽しさの一つなのだろう。


 というか、ここまでゲームを遊んできて初めて他のプレイヤーの名前を覚えた気がする。

 初期にパーティを組んだ人たちの存在は覚えているけど名前は忘れてしまった。

 バトロワの時の猫少女は記憶に強烈に刻まれているが名前を知らない。

 ハタケさんは強烈なキャラしてる上に、(ハタ)を武器にしているから覚えやすすぎる。


「うーむ、そこっ! そこのダンディなおじさま!」


「あ、俺ですか?」


 ハタケにビシッと指をさされる。

 ちょっとジロジロ見過ぎたか……?


「キミ、みんなが浮足立ってる中、なかなか余裕がある立ち姿をしている。それはふざけているのではなく、経験からくる余裕だとボクは受け取った! キミを中心としたグループで砦の西方面を探索! モンスターを討伐し、コストを稼いできてくれたまえ!」


「ええっ!? 俺がリーダーですか!?」


「そうだ。サードがボクだけな以上、第2職(セカンド)の誰かがサブリーダーポジションを務めなければならない。安心してくれたまえ。他にもコスト稼ぎ部隊はいくつも編成する。すべてのコスト稼ぎをキミに任せるわけじゃない」


「は、はぁ……。やってみます」


「よろしい。このハタケ、そして私と同じギルドで活動しているプレイヤーは砦の防衛にまわる。帰るところがなくなることはない。安心してコストを稼いできてくれたまえ」


 防衛って、この段階じゃやることないだろうに……。

 とはいえ、ガラ空きのところに乗り込まれたら終わりだから下手に文句も言えないな。

 ここはサード様とやらに帰る場所を任せよう。


「じゃあ、俺のグループは早速コスト稼ぎに行きましょうか。コストに関しては遅れるだけ不利になりますし、早い方が絶対に良いですよ」


 この考えはみんな一緒だったようで、足の速い人からどんどん砦を出発する。

 俺のグループに分けられたからといって、俺の命令に従う必要もない。

 これは戦争(ウォー)ではなく戦争遊戯(ウォーゲーム)だ。

 自分が楽しむことが第一の目的だ。


 俺だってビシバシ命令を出せるタイプじゃないから、リーダーを任されても嬉しくはない。

 でも、自陣営の勝ちを狙うならこの役割をこなすべきだ。

 特に初期職でイベントに参加している人の手助けくらいはしたい。


 戦闘に関しては実績がある。

 実績があるなら謙遜ばかりしてないで自信を持たなければ。

 このイベントの間くらいは、頼れるおじさんでいってみようじゃないか。

 どこまで持つかは……わからないけど。




 ◆ ◆ ◆




 キリリリリ……シュッ! ザクッ!


 かつて俺を苦しめた前歯の発達した凶悪なウサギももはや恐れることはない。

 今は首にマフラーもとい襟巻も巻いているし、噛みつかれても痛くないだろう。

 というか、イベントマップなのに通常マップの雑魚敵が出るんだな。

 てっきり専用モンスターが配置されていると思った。


 まあ、そんなにバンバン新しい3Dモデルは作れないか。

 生き物らしいリアルなモーションまで作るなら、その手間は計り知れない。


「あ、ありがとうございます! 助けていただいて……」


 初期職の青年が頭を下げてくる。


「いいよいいよ、礼なんて。あのウサギ結構凶悪だから気をつけてね。俺の弓が届く範囲なら助けられるけど、一人の時とかさ」


「気をつけます!」


 良い返事だ。

 やはり、人助けというのは助けた方も気分が良い。

 こんな感じで困っている仲間を助けつつ、モンスターを狩った。


 砦から出てわかったことだが、俺たちの砦は草原のど真ん中にある。

 草の背は低いので足を取られることもないし、敵が隠れることも出来ない。

 見張り台もあるし、よほど油断していない限り敵の発見が遅れることはないだろう。


 草原から少し足を延ばせば小さな森が点在している。

 森にはモンスターが配置されているので、コスト稼ぎの狩場には困らない。


 いま俺たちがいる『西の森(仮称)』のモンスターは比較的弱い。

 その分コストもなかなか増えないが初期職でも役割が持てる。

 時間はかかったが、全員が仕事をしてほぼ狩場のモンスターを狩りつくした。

 これならコストの稼ぎも十分じゃないか?

 まあ、陣取りは初実装のイベントだから、どれだけ稼げば十分なのかは誰も知らないんだが。


「よし、全員生きてるな。砦に帰還しようか」


 俺の言葉に返事をする人、うなずく人、反応はないが従う人、勝手に帰る人……反応は様々だ。

 だが、これがいい。こういうゆるい繋がりならまだリーダーのプレッシャーも少ない。

 中には再度助けてもらったお礼を言ってくれる人もいたが、そういうのは純粋に嬉しい。喜んで受け取ろう。


「こんな感じで平和に大勝利といけば……いいんだけどな」


 俺のそんなゆるい願いは速攻で打ち砕かれた。

 その一報はコスト稼ぎの部隊がすべて砦に帰還して、コストの使い道を話し合っていた時に届いた。


「ハタケさん!」


「なんだい?」


「地平線に敵影あり! その数……数えきれません!」


「やれやれ、開幕から砦の戦力をすべて突っ込んでくるとは品がない」


「足の速い偵察部隊の報告によりますと、敵はブルーディアー!」


「砦が隣接しているのだから当然だろうさ」


「敵軍を率いる第3職(サード)は……おそらくギルド『正道騎士団(ストレイトナイツ)』のバックラーかと……!」


「……え?」


 その『バックラー』とかいう人の名前が出た途端、場の空気が変わる。

 わかっていないのは……俺くらいか?

 一体、どんなプレイヤーなんだ……。


「バックラー……か。よし、ハタケの名において命ずる! 全員、この砦を捨てて逃げよ!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公無双への期待 [一言] 有名な人なんだろうけどバックラーってことは小型の丸盾やろ? 遠距離に弱そうだけどハタさんバッファーだからなぁ。
[一言] バックラー...だと!? あの、超大手上場企業に才能されて入社式直後にバックレてそのまま退職していった、伝説の...!?(バックラー違い)
[一言] え、なぜ?
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