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Data.219 弓おじさん、極限

「……そう来ましたか」


 ノルドは鉄球を回避するため、銃口から突風を吹かせる【ブラストショット】を発動。

 二丁の銃の両方から噴き出す風の向きを制御すれば、ある程度の飛行や高速移動も可能だ。

 そうして鉄球の攻撃範囲の外に逃れたノルドは、再びアンヌへの攻撃を再開する。


「レイニーバレット!」


 激しい雨のごとく弾丸を撃ちだすスキル【レイニーバレット】。

 本来はここまでの威力はなく、軌道の制御も出来ない牽制用の乱射スキルである。

 しかし、仲間であるグリムカンビからのバフによって性能を大幅に上昇させているのだ。


 グリムカンビはVRHAR(ヴァルハラ)の中では決してプレイングが上手い方ではない。

 だが、持ち前の要領の良さで仲間をサポートする能力はずば抜けている。

 彼は武器である横笛から放たれる音スキルで索敵、バフ、そして自身の防御までこなす。

 そして、安易に攻撃を仕掛けてこない。

 下手な攻撃は隙を生むだけというノルドの教えの元、彼はよほどのことがない限りサポートに専念する。


「まずは1人……ん?」


 アンヌの撃破を確認したノルドは、キュージィが消えていることに気づいた。

 銃弾の雨に耐え切れずにあっけなく敗北したのか?

 否、そんなはずはない……!


「ぐぅぅぅ……ッ! なかなかしたたかな判断をするようになったものですね……。仲間を犠牲にしながら攻撃とは」


 ノルドの右の二の腕を矢が貫通していた!

 放たれた矢は【獄炎風神裂空】……!

 頭を貫かれていれば即死もあり得た大技だ。

 それをノルドは咄嗟に体をずらして回避し、右腕の部位欠損だけで済ませた。


 キュージィがいなくなったというヒントだけで【ワープアロー】を使って空中から他の場所にワープしていると気づくことが出来たノルドは強者であるが、アンヌが鉄球を投げた理由が目くらましと銃撃を一時的に止めるためだということに気づいたキュージィもまた強者である。

 鉄球の陰に入りノルドの視線を外し、その隙に落下する自分を〈鏡写しのミラアリス〉によるダミーとすり替える。

 そして、キュージィ自身は【ワープアロー】を地面に撃ち込んで地上へと逃れていた。


 攻撃を再開する瞬間、ノルドは一度全体を見渡し、キュージィの姿を確認していたが、それはすでにダミーだった。

 銃撃を再開した後はアンヌに弾丸を当てるのに集中していたため、キュージィが消えたことに気づくのが遅れてしまった。

 そう、ノルドほどのプレイヤーでも落下する標的に弾丸を当て続けるのには強い集中を要する。

 考え事をしながらでもとりあえず当てていけるキュージィは、やはりマココの言うようにわかりやすい化け物なのかもしれない。


「とはいえ、これで残り人数は同じになりました。勝負はまだまだ……いや、そんなに長引くことはないでしょう」




 ◆ ◆ ◆




「外した……? いや、避けられたのか?」


 俺は確かに頭部を狙って矢を放った。

 感覚的にはドンピシャだったが、直前に小さく体を動かし急所を外されてしまった。

 ノルドは矢を見て反応したわけではない。

 狙撃されると直感で気づき、反射的に避けた……。


「やっぱり、簡単にはいかない相手だなぁ……。だが、とりあえず腕の一本はもらった」


 アンヌの自己犠牲に報いるだけの効果はあるはずだ。

 いくら優れたプレイヤーといえど、片腕を失えば戦闘能力は半減する!


「畳みかけよう、サトミ! ガー坊!」


 3体のユニゾンに守られ、サトミもまた銃弾の嵐を抜けて地上に降り立っていた。

 ガー坊も物理攻撃である銃弾の影響は特にない。

 ユニゾンを含めた数的有利はまだこちらにある!


 部位欠損状態は『再生薬』というレアな回復アイテムで治すことが出来るが、治り切るまでには時間がかかり、途中で攻撃をしたり、攻撃を受けたりすると回復がキャンセルされる。

 だから、とにかく隙を与えてはならない……!


巨大獄炎の矢ビッグインフェルノアロー!」


 火力のある奥義を片手の銃だけで相殺できるか……!


「バオウ、体を少し借りますよ」


「…………ばぉ」


 ノルドはパーティのユニゾンであるカバ『バオウ』の体の陰に隠れた!

 あのカバ、まったく戦う意思が感じられないんだよな……。

 ずっとノルドの後をついて来てはいるが、敵を攻撃しようとか、仲間を守ろうとか、まったくしない。

 動きも鈍く、ボケーっとしているが、目つきだけは鋭い。

 王様のような冠ときらびやかな服を着ているが、それが妙に似合っている。

 見た目も態度もファンタジー作品にありがちな小太りな王様って感じだ。


 でも、愚鈍な王といえど自分に矢が飛んで来たら何かするだろう。

 一体、どんな切り札を隠し持っているんだ……!?


「…………ばぉ」


 何も……しない!

 その皮膚は矢でも貫けず、逆に脂肪の弾力によって矢が弾き飛ばされた!

 赤黒い炎に触れても薄皮1枚焼けていない!

 何食わぬ顔でボケーっとしている……!


「ただの高威力攻撃は無意味か! なら……ガトリング・サンダーアロー! ガー坊、電気の奔流(エレキテル・リバー)!」


 カバって水属性なイメージがあるし、雷属性ならば弱点を突けるんじゃないか?

 ……あっ! ちょっとだけ歯を食いしばってる!

 相変わらず動こうとしないが、さっきよりは確かに効いている!

 有効な攻撃さえわかれば……!


「ガー坊! 黒子ガイル!」


「ガァー! ガァー!」


 ガー坊の影から5体の分身が出現する。

 サトミたちと協力して、数の力でバオウを取り囲んでしまえば、ノルドも隠れられる場所がなくなる!

 そこで一気に攻撃を仕掛ける!


「パラレルパラソルバレット!」


 無傷な左手の銃から色とりどりの傘型のバリアが撃ちだされ、ノルドを囲っていく。

 ゴーストフロートで見た【パラソルバレット】の強化版か!

 しかし、あれは取り回しの良さが強みであって、強度はさほどなかったはず……。

 この強化版は強度よりも数を増やす方向に進化しているようだし、これで複数の奥義を防げるとは思えない。

 構わず畳みかけるんだ!


「ガトリング・サンダーアロー! ガー坊、電気の奔流(エレキテル・リバー)!」


「ガァー! ガァー!」


火火種蒔(ひひだねまき)! 超空気砲(ちょうくうきほう)! 奇襲水流(ゲリラストリーム)!」


 俺たちはバオウを狙い、サトミたちはノルドを狙って奥義を放つ!

 これで同時に撃破……。


「なっ……! 普通に耐えるだと……!?」


 バオウは体から煙が上がっているが健在だ!

 そして、こんな状態でもその場を動かない!

 どれだけ動くのが嫌なんだ……!


 そして、もっと驚くべきは【パラレルパラソルバレット】によって生み出された傘の盾すらも破壊できなかったことだ!

 サトミのユニゾンたちは全員奥義を放っていた。

 彼らほどのユニゾンになれば奥義の威力もプレイヤーに見劣りしないというのに、ノルドはたった1つの防御奥義で防ぎきってしまった!


 いや、それはおかしい。

 基本的に防御奥義の方が攻撃奥義よりも頑丈なのは確かだが、3つの攻撃奥義を1つの防御奥義で受け止めるのはバランス的に不可能だ。

 何か仕掛けがある……!


「……ん!?」


 砕け散った地球の破片の陰から、ノルドを見つめつつ笛を吹いている男がいる!

 あれは確か……グリムカンビ! VRHAR(ヴァルハラ)のプレイヤーだ!

 ノルドとの戦いに夢中になるあまり、その存在を忘れていた……。

 しかし、見つけたからには逃がさない!

 音こそ聞こえないが、あの笛を吹くという行為にバフ効果があるのかもしれない!


「ガトリング・インフェルノアロー! ガー坊、テンタクルレーザー!」


「ガァー! ガァー!」


 自身への攻撃に対してグリムカンビは……逃げなかった。

 その笛から甲高い音を発し、その場に居座る!


 ピィィィィィィィィィ……カキンッ! カキンッ!


 俺とガー坊の攻撃は、見えざる壁に阻まれたかのように消滅した。

 これは……音の壁か!?

 こちらの防御もなかなか高性能じゃないか……!


「キュージィさん、やはり手品の種はバフだったようです」


 サトミのユニゾンたちの攻撃によって傘の盾が破壊されていく!

 グリムカンビがノルドの奥義に対してバフをかけていたのがこれでハッキリした。

 彼自身が狙われた時は、自分自身の防御に対してバフをかけていたのだろう。

 つまり、グリムカンビを攻撃しておけばノルドにバフはかからない!


「俺がグリムカンビを狙う! ガー坊は引き続きバオウ狙いで、サトミはノルドを頼む!」


「ガァー! ガァー!」


「了解しました!」


 敵の手の内が見えてきた……!

 これなら十分に戦える。

 たとえ相手が最強のパーティでも!


「さて、そろそろ復帰といきましょうか。コンプレスド……エアバレット!」


「ウキャ……!」


 ゴチュウの頭が……撃ち抜かれた!

 だが、弾丸は見えなかった……!

 あまりにも早打ち、あまりにも高速、それでいてあの威力……!


 驚くべきはそれだけではない。

 ノルドの右腕が……復活している!

 バオウと傘を盾にして時間を稼いでいる間に治していたか……!


 しかし、サトミのカバーに回るわけにはいかない。

 グリムカンビは攻撃にもバフをかけられる可能性が高い。

 その根拠はあの黒い弾丸の嵐……!


 ノルドは一度あれを撃つのをやめてアンヌの鉄球を回避した後、すぐにまた発動している。

 それはつまり、あれがクールタイムのないスキルだということを表している。

 スキルをあれだけの技の化けさせることが出来るバッファーを野放しにするわけにはいかない……!


 さらに今のノルドは腕こそ復活したが、腕を撃ち抜かれた際に手からすっぽ抜けたもう一丁の銃はまだ少し離れた地面に転がっている。

 戦闘力が半減していることには変わりない!

 サトミたちだけでも何とか、何とか……。


「何とか耐えてくれよ……!」


 グリムカンビに向けて矢を放ち続ける。

 しかし、矢は見えない壁に阻まれるばかりだ。

 【バウンドアロー】を混ぜて多方向から狙っても、相手の防御に隙が無い……!

 バフがかかっているにしても、あまりにも万能すぎる!

 しかし、これはバフをグリムカンビ自身にかけさせることに成功しているとも言える。

 サトミたちの方は……。


「うぐっ! はぁ……はぁ……」


 戦力の中心であるゴチュウを欠いた状態では、今のノルドの相手もきつそうだ……。

 ガー坊と分身たちも未だにバオウを落とせない!

 そして、バオウはなぜか反撃もせずに我慢を続けている!


 ノルドは状況を見て、落とした銃の回収に向かう。

 同時にサトミが前に出た!

 武器である錫杖(しゃくじょう)を構え……バオウに突っ込む!


「何やら準備していると思ったら、マッドスライムCORE(コア)との戦いで使っていた即死技ですか」


 ノルドは銃を構え、サトミに向けて放つ!

 そこに割って入ったのはブゥフィとカパパルト!

 残ったユニゾンたちが身を(てい)してサトミを守る!

 いいぞ……サトミの攻撃が届く!


「バオウの種族『キングヒポポタス』は王種(おうしゅ)です。王種はステータスが他のユニゾンと比べて圧倒的に高い代わりに、プレイヤーの言うことを聞きません。動きも尊大で愚鈍です。しかし……」


 今までジッとしてたバオウが……立ち上がった!


「流石に死が迫れば動きます。そして……」


 その巨体に似合わぬスピードでサトミの即死技を回避した!


「動くとなると案外速い。さらに……」


 回避の勢いそのまま、サトミの側面から突進を仕掛けた!


「反撃はすさまじい。結論……」


 サトミのHPは一撃ですべて持っていかれた……!


「人間がカバに勝つことは難しい」


 バオウは再び地面にのそっと座り込んだ。

 た、助ける間もなかった……。

 あまりにも無駄のない動き……!


「バオウに即死技を使う判断は正しいです。ステータス面は僕らの中で一番強いので、正攻法で倒すのは手間です。それに僕の方はあなたの即死技を一度見て学習している。ゆえに僕に使ったところで回避する確率の方が高かったですから」


「はは……こっちにそんなこと考えながら戦う余裕はありませんでしたよ……。こんなすごい舞台で戦った経験なんてありませんから、油断すると頭が真っ白になりそうになる……。体も震えそうで……。ただ僕はバオウを倒せればキュージィさんの矢が通りやすくなると思っただけです……」


「……なるほど。純粋な撃ち合いならキュージィ氏に分があると?」


「ええ、その通りですよ」


 サトミはその言葉を残し、消滅した。

 場に残ったのは俺とガー坊、ノルドとグリムカンビ、そしてバオウ……!


「その言葉……検証してみましょう」


 ノルドがバオウの体の陰から飛び出した!


「散弾サンダーボルトバレット……三連射!」


 細かな雷の弾丸がバラまかれる!


「い、獄炎天羽矢の大嵐インフェルノアローテンペスト!」


 もはや考えなしと言われても仕方ない奥義の使い方だが、これしか思いつかない!

 連続で放たれる雷の散弾にガー坊の分身たちは消し飛ばされ、ガー坊自身もダメージを負った。

 俺も矢をすり抜けてくる弾にHPを削られたものの、何とか生き残ることが出来た……!


 そして、ノルド自身も俺の矢を何本か食らい、装備が焼け焦げている。

 腕を撃ち抜いた【獄炎風神裂空】以降、初めてまともなダメージが入った……!


「まだまだ諦めないよな、ガー坊!」


「ガァー! ガ……ガガッ……!」


「ガー坊……?」


 雷の散弾を耐え抜いたはずのガー坊の背中にいくつも穴が開いている!

 背中ということは真上から撃ち抜かれたのか……!?

 いや、これは……真下からだ!

 ゴーストフロートの時に俺がくらった地面を潜って届く【ドリル】系の弾丸……!

 それを使われたんだ!

 スキルの存在を覚えていたはずなのに、対応が出来なかった……!


 【ドリル】系のスキルは機械属性への特効がある。

 雷をくらった後のガー坊には耐えられなかったんだ。

 ガー坊が消えていくところを、俺は初めて見る。

 いつもはピンチになったら合体奥義を使って逃がしてたから……。


「くっ……!」


 悲しんでいる暇はない!

 敵はまだプレイヤー2人にユニゾンが1体!

 俺が何とかしなければ……!

 でも、どうすれば……。


「チェックメイトですね、キュージィ氏……」


 その時、ノルドの背後のバオウの体から雷が噴出した!

 流石のノルドのビックリして振り返る。

 そこを狙えれば良かったのだが、俺も一緒にビックリした。


 バオウはキルされ、体が消えていく……。

 直後、ノルドの体が見えざる何かに切り裂かれた!

 いや、見えなくても俺にはその正体がわかっている!


「エッダさんのキルアナウンスは来てないんですけどね……ネココ氏」


「ちょっとしたトリックよ」


 ネココ・ストレンジ……!

 敵として戦い、味方としても戦ってきた少女の背中が、今ほど大きく見えたことはない!


「まだまだこれからよ、おじさん!」


「……ああ!」


 ネココの言葉にそう返事はしたが、俺は別の何かを感じていた。

 達人同士の戦いが一瞬で決着のつくように、俺たちの戦いもすぐに終わる……。

 そういう予感を。

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― 新着の感想 ―
[一言] グリムカンビがグリルカルビに見えてお腹減り減り
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