Data.212 弓おじさん、亀と鴉と鰐と
「なんで私だけ敵に出くわさんのや……」
AUOratorioの1人、ベラ・ベルベットは相棒のユニゾン『マンネンⅡ世』に乗り込み、ひたすら道幅の広いストリートをキュラキュラ進んでいた。
「すでにユーリとアチルが脱落しとるのはアナウンスでわかっとる。戦いは中盤戦どころか、終盤戦に入りかけとるちゅーのに、まったく敵と出会えへんのはなんでやろうなぁ……」
なんでやろうなぁ……と言いつつ、ベラにはいくつか思い当たる節があった。
まずは何と言っても移動の不便さだ。
マンネンⅡ世はフォートレスタートルという巨大なモンスターであるため、通れる道は限られている。
なので、戦闘の音が聞こえてもすぐにそちらに向かうことが出来ないのだ。
一度建物を破壊して道を作り出そうとしたこともあるが、破壊した建物の上を移動しているうちに建物が再生し、その再生に巻き込まれる形で動きを封じられるという形になってしまった。
しかも脱出のために砲撃を使用し、その爆風で自爆ダメージをくらうというおまけ付きだ。
「まあでも、適当に砲撃して建物壊していたら味方を巻き込むかもしれんし、自分も傷ついてまう。結局、地道にキュラキュラ移動するしか……いや、まてまて! そうや! 移動するのが大変なら、あえてジッとしてればええんや!」
ベラはマンネンⅡ世に『止まれ』と命令し、道のど真ん中に停止させた。
そして、そのまま静かに周囲を警戒する。
「要塞なんやから要塞らしくしれてばええんや! まだマココはんが残ってるし焦る必要はないわ! どーんと構えさせてもらうで!」
ベラは自分の考えた作戦に満足しているように思えた。
しかし、ベラは本来ジッとしていることが得意な性格ではない。
「なんか……飽きてきたなぁ……。そもそも30分という時間制限のある試合でジッとしているのは正しいことなんやろか? こっちはマココはんと私の2人で相手は3人残っとるわけやし、このまま時間切れになれば負けるのはこっちなんよなぁ……。でも、マココはんなら数秒で3人瞬殺してもおかしくないし……。あ~、どうしたもんやろか。積極的に動くべきなんやろか」
ベラはうずうずし始めた。
こうなったら動き出すのは時間の問題……と思われたその時、2体の黒い影がマンネンⅡ世の前に現れた。
「あれは……ジュニアとおっさんところのワニや! まだどっちもユニゾンが生き残っとるとは驚いたなぁ~! よし、ここでおっさんのワニを仕留めて、ジュニアをマココはんの元へ送り届けるんや!」
さも当然のようにジッとする作戦は撤回された!
ベラはガー坊に対して攻撃を仕掛ける!
「見るからに機械属性って見た目やなぁ! くらえ! 徹甲羅弾!」
マンネンⅡ世の要塞化した甲羅から生える大砲が火を噴き、甲羅型の砲弾を撃ちだす!
装甲を貫くことに特化した『徹甲弾』をモジった奥義【徹甲羅弾】は機械属性の敵に対する特効を持っている……!
「巨大獄炎の矢!」
その時、側面から飛来した巨大な矢が砲弾に突き刺さり攻撃を相殺した!
「な、なにもんや!? ……って、このフィールドに弓使いは1人しかおらんやろ!」
自分でボケて自分でツッコむベラの前に現れたのは、ガー坊の真の相棒キュージィだった!
◆ ◆ ◆
本来ならばネココの加勢を優先すべきなんだろうけど、流石に相棒のピンチを見過ごすことは出来ないな。
それに相手パーティの残りはマココと目の前にいるベラ・ベルベットだけだ。
こちらは俺にネココ、サトミもまだ生き残っている。
サトミは相手パーティのアチルというプレイヤーを撃破したというアナウンス以降、動向を掴めていないが、俺の予想だと……マココとの戦いに合流している気がする。
ベラと戦っていないのならば、他に戦う相手はマココしかいないからな。
だから俺はサトミの代わりにベラも撃破するとしよう!
「いくぞ、ガー坊!」
「ガァー! ガァー!」
彼女は高い防御力を誇るマンネンⅡ世の要塞化した甲羅の中に隠れている。
となれば、撃破する方法は【流星破壊弓】しかない。
問題は相手もそのことを承知している可能性があることだ。
【流星破壊弓】が飛ぶスピードは決して速くはない。
後出しで奥義を使って威力を減衰させることも出来れば、素早く動いて回避も出来る。
ただ、このフィールドでマンネンⅡ世は自由に動けないようだ。
つまり、素早く動いて矢を回避することは難しい。
気にするべきは高威力の奥義、またはミラクルエフェクトによる相殺……!
「ミラクルエフェクト! 絆の一発入魂!」
「なっ!?」
いきなりミラクルエフェクトだと……!
一体どういう効果が……。
「ゴールデンマンネンⅡ世!」
「うおお……っ!」
思わず声が出てしまう……!
マンネンⅡ世が全身金ぴかになっているのだから!
いや、強化の表現として金ぴかになるのはありきたりだが、これはVRゲームだ。
リアルに限りなく近い状態で巨大な金の塊を目撃するというのは、案外感動させられる……!
そりゃ古代の人も金を大事にしたわけだ……!
魔性の魅力がこの金属には存在する!
「冥途の土産に教えたる! このミラクルエフェクトの効果はなぁ……ステータス強化や! それ以上でもそれ以下でもない! 純粋にマンネンが強くなるんや! 別にうじゃうじゃユニゾンの数が増えたりせぇへんで! 私は1体の相棒を信じるスタイルや!」
戦いは数よりも質……。
なるほど、サトミとは真逆の考えというわけか。
でも、同時に複数の敵を相手するのが苦手な俺にとっては、こっちの方がありがたい……!