Data.209 異人伝:ロマンとリアル
ネココとマココが遭遇したのと同時刻――。
「巨人たちの星! ジャイアントスイーーーングッ!!」
アンヌが巨大化した鉄球を振り回し、建物をなぎ倒していく。
こうして更地を作ることで、こそこそと動き回る小さな敵を炙り出す……!
「ブリッツアロー・ツインショット!」
稲妻のように一瞬で駆け抜ける矢がアンヌの体をかすめる。
【巨人たちの星】を潜り抜けたアチル・アルスターは、そのまま矢をバラまきつつアンヌへの接近を試みる。
まだあどけない顔と小柄な体に似合わず、彼女の動きは洗練されている。
まるで戦いに慣れているかのように……!
「双子の星球たち!」
【双子の星球たち】は鎖のもう一端にトゲ鉄球を生み出す奥義だ。
これでアンヌは限られた時間内とはいえ、鉄球を2つ扱えるようになる。
つまり、攻撃力も2倍……とはいかない。
【双子の星球たち】で生み出された方の鉄球はスキルを使うことは出来ても、奥義を使うことは出来ないのだ。
「光る星!」
メインの鉄球を引き戻すまで、サブ鉄球にスキルを使い、矢に対する盾にする。
鉄球自体は奥義を使わずともそこそこの大きさがあるため、全身を隠すことは出来なくとも盾としての役割は十分に果たせる。
問題は重さゆえに小回りが利かないこと。
そして、今戦っているアチルはまさに小回りこそが強みのプレイヤーだということ……!
「もらった! ブリッツアロー・ゼロショット!」
【インファイトアロー】をよりピーキーな性能にしたスキル【ゼロショット】は、射程をほぼほぼゼロにする代わりに矢の威力を大幅に上げるスキルである。
それと同時に、単体で他のスキル奥義と融合することが可能という特殊な効果を持つ。
しかも、融合したスキル奥義の威力や効果を純粋に上乗せするのではなく、その融合したスキル奥義の効果に応じたバフをプレイヤーに付与するという特殊な融合効果なのだ……!
今回【ゼロショット】に融合したスキルは【ブリッツアロー】。
これはキュージィが持つ【サンダーアロー】の進化スキルである。
威力よりも速度を重視した進化スキルである【ブリッツアロー】の弾速はまさに稲妻!
【裂空】には及ばずとも、常人には目で追うことすら難しい。
そんなスピード自慢のスキルを【ゼロショット】と融合することで付与されるバフは、そのまんま速度バフである。
アチルは本来は後衛職であり、耐久面には難がある。
アンヌのようなパワー自慢の攻撃をもろに食らえばただでは済まないだろう。
だからこそ、彼女は速度を上げて鉄球をかいくぐり、アンヌの苦手とする近接戦闘を仕掛けているのだ!
「くぅ……! チェーンパンチ!」
2つの鉄球でガード出来ないとなれば、残っているのは鎖のみ……!
【チェーンパンチ】は鎖を拳に巻き付けて敵を殴るスキルだが、見た目的にも性能的にもネタスキルの部類である。
威力も大して高くなく、アチルの攻撃を受け止めるにはまるで足りていない……!
結果、アンヌは【ゼロショット】をもろに受けて吹っ飛び、建物の壁にめり込んだ!
「ぐぅぅぅ……! もう建物が復活してるなんて……!」
先ほど【巨人たちの星】でなぎ倒したはずの建物たちは、まるで何事もなかったかのように復活している……!
そう、『アンデッドタウン』は何度壊しても建物が復活する、まさに死なない街なのだ。
視界を遮る霧といい、なくならない障害物といい、この街はどこまでも暗殺向きである。
「せっかくバーチャルオカルトマニア憧れのマココさんと戦える機会に恵まれたというのに、こんなところで何もできずに負けるわけには……!」
「えっ!? あなたもマココさんと知り合いなんですか!?」
吹っ飛んだアンヌを追ってきたアチルが追撃の手を止める。
「し、知り合いではないですよ! バーチャルオカルトマニアとして一方的に憧れているだけで!」
「バーチャルオカルト……ってなんですか?」
「それはですね!」
戦いの最中だというのにアンヌはバーチャルオカルトについて説明を始めた。
同時にマココに憧れる理由をAUO事件と絡めて説明する。
簡単に言うと、いまだ明かされない事件の詳細を唯一知っていそうな謎多き女性という部分と、電脳人間と呼ばれるほどのゲームの腕前に神秘的な魅力を感じているのだ。
「なるほど、そういうことだったんですね。こちらではあの事件はそう伝わっているんですか……。マココさんはあまり話したがらないし、全然知りませんでした……。いやぁ、あの戦いがね……ふふふ……」
ぼそぼそと独り言を言うアチル。
何か嬉しいことがあったのか、体を小さく揺らしている。
いや、そもそも彼女は体を揺らしていたり、ソワソワしていることが多い。
プレイングこそプロ顔負けの腕前だが、挙動自体はまるで初めてゲームを遊んだ人のように初々しい。
まるで初めて都会に出てきた田舎娘のように……。
アンヌは『アチルは不思議な子』というネココの言葉の意味がわかったような気がした。
それと同時に、何かオカルト魂が揺さぶられるような……心のざわつきを覚えた。
「あのっ! そろそろ戦いを再開するとしませんか!」
このままでは戦いに集中できなくなってしまう……。
オカルト魂を封印し、アンヌはアチルに戦いの再開を申し出た。
話を聞いてもらった手前、不意打ちは出来なかったのだ。
しかし、アチルは意外な言葉を口にした。
「アンヌさんはオカルトにロマンを感じると言っていましたね。そのロマンとは、きっと未知に対する好奇心なんだと思います」
「そ、そうですね!」
「では、もし明日、その未知の存在が本当だとわかって、何食わぬ顔で隣人として振舞ってきたら……あなたはそれを愛せますか?」
「……っ! それは、まさか……!」
ドゴオオオオオオォォォォォォォォォッ!!!
アンヌの言葉は建物が破壊される音で遮られた!
飛び散る建物の破片、土煙……。
その中から姿を現したのは……!
「あら、良いところに来たんじゃないかしら?」
ネココと戦っているはずのマココ・ストレンジだった!