Data.205 弓おじさん、猫少女の覚悟
「ネココ、叔母様を含め相手パーティについて何か知っているかい?」
今回はしっかりネココを名指ししておこう。
「叔母様の武器は見ての通りブーメラン。物理攻撃型の飛び道具で、その特徴はなんといっても投げた後に弧を描いてプレイヤーの手元に戻ってくることにあるわ。飛んでる最中に攻撃を加えれば叩き落すことも出来るけど、半端な攻撃だと普通に耐えて戻ってくる。熟練のブーメラン使いは複数のブーメランを同時に使いながら、その軌道に変化をつけて容易には回避できないようにしてくるの」
チャリン戦ではユニゾンが変形した大型ブーメランも含めて3つのブーメランを踊るように使いこなしていたなぁ……。
あのブーメランの乱舞の内側に入ったら俺のような後衛職は終わりだ。
今回ばかりはとにかく距離を取って一方的に攻撃するという基本を守らないといけない。
俺も弓矢という飛び道具を使っているから、他の飛び道具の特徴も少しは調べてある。
ブーメランは飛び道具の中では攻撃力が高い方だ。
また、手に握ったまま剣のように振り回せるので、飛び道具を使う職の中では飛びぬけて接近戦に強い。
それにマココは予選の時にブーメランと自分の位置を入れ替えるような効果を使っている。
バックラーの【パリィワープ】のようにこちらから攻撃しなければワープできないというデメリットはなく、相手の意志だけで距離を詰められる可能性が高い。
ワープを読んで【スターダストアロー】というのも、マココに対しては現実的ではないだろう。
とにかく接近されること自体がNGだと肝に銘じておこう。
距離さえ取れば弓矢とブーメランの相性は非常に良い。
最大射程は弓矢の方が圧倒的だし、ブーメランは投げた後戻ってくるのを待たなければ次の攻撃に移れないが、弓矢は外そうが叩き落されようが気にせず連射が出来る。
攻撃の手数自体はこっちが上なんだ。
ただ、相手のステータス配分によっては半端な攻撃じゃ意味がないこともある。
奥義でないとダメージが入らないなんてことになると、手数を増やすことすらままならない。
それこそバックラー戦のように……。
「強化ポイントの配分とか、職業については何か聞いてるかな? あと、スキル奥義の情報もあると嬉しいんだけど……」
「あー、うーん、それはね……」
あ、聞かない方が良かったかもしれない。
叔母様はベテランのプロゲーマーだ。
たとえ相手が身内でも、情報を簡単に渡すとは思えない……!
そう、プロフェッショナル特有のプライドが……。
「一緒に冒険してる時に全部バラシてくれそうだったんだけど、私が変な意地を張って見せなくていいって言っちゃった……」
「そうか……」
まあ、お互いフラットな状態で戦いたいという気持ちはわかる。
相手は憧れの人だからな。
それにしても、情報がバレることも気にしない……か。
知られたうえでも勝てるという自信の表れか、それとも本当に何も気にしてないない強者の余裕か……。
「あ、でも、どういう強化ポイントの振り方をしてるのかは、動きを見て何となくわかったわ。おそらくだけど、叔母様はバランス型を少し崩して攻撃に振ってるタイプ……! つまり、結構普通の振り方!」
た、確かにバランスよく振りつつ攻撃にだけは多めに振るってとっても普通だ……!
少しでもゲームを遊んだ経験がある人なら、誰でも思いつく振り方だろう。
完全なバランス型は中途半端になるけど、何か明確な弱点を作ってしまうとピーキーになる。
耐久や速さ面もカバーしつつ、敵を倒すゲームには必要不可欠な攻撃だけは大きく伸ばす。
派手ではないが、堅実にどんな状況にも対応できるキャラが生まれるはずだ。
「叔母様はこの平凡かつ王道のステータスを非凡なプレイングで使いこなすの。攻撃されれば思った以上にダメージが入り、攻撃すれば思った以上にダメージが入らない。思った以上に速く動き、思った以上に対応できない……! 残念ながら、このパーティに1対1で叔母様に勝てる人はいないわ」
「じゃあ、最初から2対1を意識して……」
「だからこそ、私に叔母様の相手を任せてほしいの」
ネココの言葉にみんな驚く。
さっき自分でその戦い方を否定したばかりだ。
「大丈夫、うぬぼれてるわけじゃないわ。私だって勝てる気がしないもの。でも、最初から叔母様に2人のプレイヤーをつけると、相手パーティの残り3人を2人で相手することになる。1人が抜け出して叔母様に加勢すれば、数的有利は簡単に消えてしまう。なら、最初は1人1キルを目標に動いて、キル出来た人から叔母様と私の戦いに加勢する方がまだわかりやすくないかしら?」
わかりやすいかと聞かれれば、そりゃそっちの方がわかりやすい。
実現できるならば勝率だってそっちの方が圧倒的に上だろう。
問題はネココが1人だけで耐えきれるのか……ということだ。
「…………」
俺はあえてその疑問をぶつけなかった。
なぜなら、ネココ自身が一番その疑問の答えを欲していると思ったからだ。
耐えられるのかなんてわからない。
でも、やらねば勝利に近づかない。
それに自分がどこまで憧れの人に通用するか知りたがっているようにも見える。
「わかった。マココの相手はネココに任せる! でも無茶はせず、あくまでも誰かが加勢に来るまでの時間稼ぎに徹するんだ」
「ありがとう。後悔はさせないわ!」
「それでパーティの残り3人はどういうプレイヤーたちなんだい?」
俺たちはまずマココ以外の3人を倒す必要があるわけだから、そっちの情報も大事だ。
これだけすごいマココの仲間たちなんだから、きっとみんなとんでもないプレイヤーなんだろうなぁ……。
「結論から言えば……」
ネココはちらちらと周りを気にした後、小声でぼそっと言った。
「そこまで強いプレイヤーではないの。叔母様以外は……ね」
「……えっ?」
更新時間がバラバラですいません。
出来るだけ毎日更新を続けたいのですが、これからはちょっと無理な日もあるかもしれません。
大きく間が空くことはないと思うので、気長に待っていただけると幸いです。