Data.186 弓おじさん、本領発揮
「なぁに……終わったみたいなツラしてんだ……! まだまだ……こっからだぜ!」
振り回されている状態でペッタさんがしゃべる。
とんでもない根性だ……!
「温存……してる……場合じゃないか……! 合体奥義……!」
ペッタさんとユニゾンのオウムが……文字通り合体した!?
「天使降臨:黙示録のラッパ吹き」
アンヌの鉄球の回転がピタッと止まる。
いや、止められた……ペッタさんの背中に生えた翼によって!
「あ、くそっ! ちょうど背中に鉄球がくっついているから上手くはばたけないぞ!」
「くぅぅぅ……暴れないでください! おとなしく地に堕ちることです!」
「修道女風情が天使にたてつこうなんてナマイキな!」
「あいにく、見てくれだけのエセシスターなんですよね……!」
アンヌとペッタさんで綱引きが始まる。
合体奥義なのにスキルである【粘着する星】といい勝負ってことは、おそらく飛行能力はおまけ。
本命の効果は他にあるはず……!
あの明らかにデザインが変わったトランペットが怪しいが……どうする?
相手も合体奥義を使ったし、こっちも賭けに出るか?
「合体奥義・流星破壊弓!」
俺が唐突に放った合体奥義に敵も味方も『えっ!?』といった表情になる。
それはそうだろう……俺も驚いた!
なぜこんなことをしたのか?
この不安定なバランスの上で成り立つ集団戦を終わらせるためだ!
狙うは……まだ鉄球に引っ付いているペッタさんだ!
「俺かよ! ええい、もうどうとでもなれ! 響け終末の音、今、最後の封印を解く……」
ペッタさんの周囲に6人の天使が降臨する。
それぞれが手にペッタさんと同じラッパを持っている。
「黙示録の音色!」
6人……いや、ペッタさんを含めて7人の天使がラッパを奏でる。
音は色を得て虹のごとく輝き、形を得て【流星破壊弓】と衝突した。
これでペッタさんの切り札を消費させ、謎の多かったオウム型ユニゾン『パロロ』を脱落させた。
あとはアルマゲドンとアポカリプスのどっちが強いかという物騒な勝負の結果によるが……。
「……痛み分けか!」
音は物にぶつかって反響する。
高速回転する矢である【流星破壊弓】に突っ込んだことで【黙示録の音色】はでたらめに飛び散り、遊具に、敵に、味方に……すべてに対して無差別に降り注ぐ。
自分の身を守るために撃ったと見せかけて、本当は全体への攻撃としてこの合体奥義を使ったんだ。
そのせいで自分がピンチに晒されようとも……!
【流星破壊弓】はまだペッタさんに向けて直進している!
「くそっ! 早く砕けろ鉄球……!」
アンヌもまだ鉄球ごとペッタさんを地面に叩きつけようと粘っている!
反響する音が体に当たっても、その鎖を離さない……!
だが、鉄球の方はもう限界だった。
音を何発も食らった鉄球は……バラバラに砕けた!
繋がりを失ったアンヌは反動で地面に倒れ込み、ペッタさんもまた勢い余って地面に激突した。
「ちっ……足の1本持っていかれたか」
ペッタさんの左足の付け根に赤いバッテンが浮かび上がる。
【流星破壊弓】に巻き込まれて破壊されたのだろうけど、彼女の背中にはまだ翼が生えている。
飛行できるのなら脚なんて飾りだ……!
「うふふふんっ! 勝負を焦ったわねオジサマっ!」
「ふぅ……急に大技同士をぶつけるのはやめてくれたまえ……。びっくりして腰を抜かしそうだったよ」
地面からボコッとハタケさんとシンバが姿を現す。
土の中に隠れていたのか……!
道理で位置が把握できなかったわけだ。
「忍法・土竜隠れの術! 一瞬で土に穴を掘ってその中に隠れる地味なスキルだけど、緊急回避とてしてはなかなか便利よっ!」
「ボクたちはペッタの合体奥義と乱反射する音の性質を知っていたのだよ。だから、すぐに土の中に隠れたのさ! まあ、実はシンバに言われるまで頭の中真っ白だったけど……結果オーライさ!」
「それに比べてあなたたちは逃げ遅れたわねっ! 装備もボロボロじゃないっ! 今トドメをさしてあげるわっ!」
「雷虎玉!」
アンヌ撃破に向かったシンバにネココが横槍を入れる。
【雷虎玉】は雷の塊をぶつけるシンプルな奥義だが、威力や速度、攻撃範囲も広く使いやすい。
それでも素早い忍者に直接当てるには性能が足りない。
シンバはひょいっとかわして、攻撃対象をネココに切り替える。
「生きてたのねぇ子猫、そういえばアナウンスがなかったわっ! てっきり音の乱反射に巻き込まれてキルされちゃったと思ってたけど、あなたも土に潜ってたのねっ!」
ネココの【ドリルクロー】は爪を高速回転させることで地面を掘り進めることが出来るスキルだ。
チャリン戦で使って以降、彼女の持つスキルの中でもトップクラスに有名なスキルとなっている。
だが、シンバと同じく地面に潜っていたにしてはダメージを受けすぎている。
特に装備のダメージが酷い……!
「地面に潜った後はちゃんと穴をふさがないといろんなものが入ってきちゃうって以前学んだでしょ? 今回は音が穴に入ってきて、中で乱反射しちゃったんじゃない? アイテムでHPは回復できても、装備は直らない……ネコミミが欠けちゃってるわっ!」
「くっ……!」
「そもそも対等な条件で私に押されてたあなたが、この状態で勝てるわけ……ほががっ!?」
シンバの首に【風神裂空】が突き刺さる。
あれだけしゃべりながら、よく的確に動けるのものだ。
声はここまで響いてくるし、当てるのにも苦労する。
「な……なによこれっ!? 矢……ってことはオジサマっ!? でも、いったいどこから……どこに隠れて……ごげげっ!」
しゃべりが止まった時はクリーンヒットの証。
この距離だと【狙撃の眼力】を使っても対象に焦点を合わせるの難しいから、音でヒットを確認できるのはありがたい。
さあ、他の敵も追い込もう。
「あっ……! ハタケ、シンバ! あそこに……ぐああっ!?」
ペッタさんは翼を得て飛行しているから『飛行特効』が発動しているかもしれない。
【サンダーアロー】という並のスキルでもダメージが大きそうだ。
「な・る・ほ・ど……! アタシたちは基本的なことを忘れてしまっていたみたいね……っ!」
ああ、恥ずかしながら俺も忘れていた。
これまで1対1の勝負から逃げなかったのは、逃げた先に敵がいたら無駄死にしてしまうからだ。
結果として、俺はあまり射程を生かさずに冒険の積み重ねで増やしたスキル奥義を組み合わせて敵を撃破してきた。
そんなことが可能なくらいプレイングも成長していたんだ。
しかし、よくよく考えれば今回はすべての敵の位置が判明している。
ならば、正々堂々正面から戦う理由はないだろう。
【ワープアロー】でぴょんと高台にワープしてしまえばいい!
「あの、すごく遠くのジャンボ滑り台の上……っ! 弓のオジサマがいるわっ!」
弓のオジサマ……少し違う。
俺は射程極振り弓おじさんだ!