Data.183 弓おじさん、死亡フラッグ
ワープ後すぐさま周囲を警戒する。
どうやらここはジャンボアスレチックパークの砂場……ジャンボ砂場のようだ!
ドラマで砂漠のシーンを撮影するのに使えそうなくらいデカい!
ちょっと砂で大きなお城でも作ってみたい衝動に駆られるが、今は戦闘中だ。
砂というのは足を取られて動きにくい。
すぐに他の場所に移動しよう。
「あっ、キュージィ様み~つけた!」
アンヌの姿を確認した後、すぐに他の仲間たちとも合流できた。
どうやら今回もパーティが近い場所にワープするパターンだったようだ。
これは運が良いのか、果たして……。
「キュージィさんを軸に戦闘を組み立てるのなら、小高い丘の上にあるジャンボ滑り台のスタート地点に移動すべきです」
「でも、あっちのリーダーのハタケさんはおじさんのことよく知ってるのよね?」
「ああ、絶対に覚えていると思う。お互い印象に残る場面でばかり出会ってるからなぁ……」
「それだと裏をかく感じであえて低いところに陣取るとかどうですか?」
4人で作戦会議を進める。
裏をかくという言葉は魅力的だが、俺たちはパーティ構成的に見晴らしのいいところにいた方が強い。
下手な策を使うより、セオリー通り有利な場所を確保して真正面から戦う方が良い場合もある。
ただ、人と戦う以上相手の出方次第ですべてひっくり返ってしまうことも……。
「……ハタケさんの動きは予想できない。そこに慣れない戦い方までやってしまうとこんがらがると思う。俺たちはセオリー通り高いところを確保しよう!」
最終決定にみんなうなずく。
3回戦ともなればみんな体も温まってよく動けるようになってくるが、緊張はなかなかほぐれない。
勝ち進めば進むほど、ぼやけていた栄光の形がハッキリしてくるからだ。
励ましの言葉をかけたところでこの緊張はほぐせない。
変に力を入れてしまうだけだ。
ここはとにかく作戦通りに動こう……!
「さあ、いつもの陣形で移動を……」
「ガァー、ガァー」
ガー坊が威嚇の鳴き声をあげる。
視界内に敵はなし。
つまり、ばらまいておいた【ゲイザーフィッシュ】に引っかかったんだ!
「敵がいる……!」
パーティ全体に緊張が走る。
ガー坊の鳴き声がいつもより小さいということは、すでに近くにいる……!
それぞれ武器を構え、ガー坊が向いている方向をにらみつける。
……きた!
あの姿はハタケさん……だけではない!
相手のパーティ全員が姿を晒すと同時に奥義を放ってきた!
「旗魔法……光の騎兵隊!」
「一撃滅殺の音色!」
「連結! 音斬シンバルヨーヨー!」
「震えろ大地! グランドラミング!」
彼らしからぬゴリ押しの戦い方……!
表情もいつもより硬い。
あの一見へらへらした感じの笑顔はどこにも……。
くっ、とにかく4発同時奥義ともなれば回避より反撃を選択するほかない!
こっちも4つの奥義だ!
「獄炎天羽矢の大嵐!」
「雷虎玉!」
「調和の指揮者……火岩華・二輪!」
「聖なる十字架の星たち!」
敵味方合計8個の奥義がぶつかり合う……ことはなかった。
ある言葉の後、不思議なことが起こったからだ。
「ミラクルエフェクト・死亡フラッグ!」
敵が放った4つの奥義は直進する。
俺たちが放った4つの奥義は……Uターンしてサトミに向かった!
「なっ……!?」
事態が理解できずに固まっている間にすべては終わっていた。
流れるアナウンスはサトミがキルされたことを伝えている……!
それは同時に彼が連れているユニゾン『ゴチュウ』の消滅も意味している。
一気に戦力が減った……!
「みんな! 一度遊具に隠れろ!」
俺が言う前からネココとアンヌは行動していた。流石だな……!
俺もすぐに地面に突き立てられた巨大な丸太の遊具の後ろに隠れる。
何が起こったのか、すぐに整理するんだ。
こっちの奥義がUターンしたのはハタケさんが叫んだ【死亡フラッグ】というミラクルエフェクトの効果なのは間違いない。
効果を推測するなら、フラグが立った人に向けてすべての攻撃が殺到するとか……?
もしそうだとしたら、俺たちは抵抗することもできずに全員キルされてしまう!
いや、待て。これはミラクルエフェクトだ。
ミラクルエフェクトのクールタイムは恐ろしく長い。
試合時間の30分以内に終わることはまずない。
つまり、もう【死亡フラッグ】は使えない!
やるべきことはサトミの脱落に怯えず、戦い続けること……!
「おじさま! ボクはおじさまと戦えることを光栄に思う! 本当ならボクなんておじさまには遠く及ばないプレイヤーさ! でも、人生においてこの1回だけは勝たせてもらうよ! この【死亡フラッグ】を連発してね!」
強気なハタケさんの声だ。
やはり本気なんだな……。
彼の性格なら戦いの前に待機場所で話しかけてくると思っていたが、それもなかった。
情も馴れ合いも一切なし……男と男の真剣勝負……!
と、言いたいところだが、ミラクルエフェクトを連発!?
そんなこと可能なのか!?
「おじさまは『超クールクルミ』というアイテムを知っているかな? これを使えば、奥義どころかミラクルエフェクトのクールタイムも一瞬で終わるのさ!」
「な、なんだって!? そんなアイテムが!?」
「あるのだよ!」
俺は驚いて声も出ない……。
その間にネココが会話に割って入る。
「そのアイテムは私も持ってる! でも、1つだけ! これでも運が良い方で、普通は1つも手に入らないほどレアなはずよ。だから、誰もアイテムセットの中に入れてない。1つだけクールタイム短縮アイテムを入れるくらいなら、武器奥義を持った予備装備を入れておく方が使える奥義の種類が増えて戦法にも幅が生まれるし、試合中にメイン装備が壊れた時の保険にもなる!」
「確かに手に入った『超クールクルミ』が1つの場合はそうだね子猫ちゃん! でも、僕は偶然10個手に入れてたみたいなんだ! ほんといつの間にかアイテムボックスに入っててビックリしたよ! どこで拾ったんだろ?」
「そ、そんな幸運あるわけないじゃない!」
「あったからボクは貴重なアイテム枠をこのアイテムに使ったのさ! 同じアイテムは10個まで持つことが出来る! 10回もクールタイムを無視出来たら……ボクでもおじさんを倒せるはずさ……!」
そうか、ハタケさんは俺をかなり評価してくれてるんだ。
だから、声も自然と真剣なものになる。
強いと認めているから……!
「おじさんには大きな恩があるから、負ける理由は知っておいてほしかった! ボクなりのプロ意識だね! それに【死亡フラッグ】の発動には『死亡フラッグ!』と叫ぶ必要があるし、声がハッキリ聞こえる範囲にしか効果が表れない! わざわざエフェクト名を明かしたのは、舐めてるわけじゃないと釈明させてもらうよ!」
強そうな奥義をよくわからないハズレと判断していた頃の彼とは違う……!
早く策を練らないと、本当に全滅する……!
「受け取ってくれたまえ! 死亡フラッグ!」
発動されてしまった……!
【死亡フラッグ】の対象になったプレイヤーの頭には旗が生える!
さっきのサトミもそうだった。
一体今度は誰の頭に旗が……。
ガー坊、ネココ、アンヌの頭を見ても旗は生えていない。
つまり、俺か……!?
頭を触っても何もないが……。
再びネココの方を見ると、顔の前で手を横に振って『ないない』とジェスチャーしている。
……俺の脳内に閃光が走った。
「みんな! 足の速い奥義を! 風神裂空! ガー坊、テンタクルレーザー!」
「飛雷断空爪・双爪!」
「超速の撃ちぬき星!」
デタラメな方向に放った奥義は何かに引っ張られるように曲がり、ある遊具をぶっ壊した。
同時に敵パーティの1人、黒い肌に筋肉ムキムキのマッチョマン、丸くて小さめのサングラスがトレードマークの『ドラマラス』が撃破されたというアナウンスが入った!
「死亡フラッグは……敵味方を区別しない!」
これで残り人数は対等!
どうやら俺も運が良いらしい……!