Data.178 弓おじさん、ルール無用のG'z
2回戦は1回戦に比べて試合数が少ない。
俺たちの出番は思っていた以上にすぐに来た。
顔見知りのプレイヤーたちも順当に先に進んでいるし、俺たちもそれに続くとしよう!
『本選トーナメント2回戦第12試合! 『G'z』VS『幽霊組合』! 選ばれたフィールドは……伝説の台地!』
伝説の大地とはこれまたRPGの王道……と思ったら、表示されている文字は『台地』だ。
台地とは周りの平地よりも一段高くなっている場所のことだが、モニターに映っているバトルフィールドには確かにそのような地形が多い。
この複数の台地のどれかに陣取れれば、平地を撃ち下ろしたり、他の台地の上も狙い撃てる。
俺にとって最適なポジションなだけに、早い段階でこの台地を抑えたいが……。
『両パーティをバトルフィールドへ!』
幽霊組合は伝説の台地へワープした。
◆ ◆ ◆
「スタート地点は……平地だな」
いきなり有利な台地の上からスタートとはいかなかったが、長射程の【ワープアロー】を使うのならば、正直どの位置からスタートでも変わらない。
ただ怖いのは、ワープした先に敵がいたパターンだ。
相手はほとんどが前衛だし、近くにワープしたら即死もありえる。
特にユニゾンのコロマロには出会いたくないなぁ……。
ガサガサガサ……ガサ……
茂みが揺れる……!
くっ、いきなり出会ってしまったか怪物に……!
「あ、おじさん! こんな近くにワープしてたんだ!」
茂みから現れたのは犬ではなくネココだった。
ホッと胸をなでおろした矢先、他の茂みも揺れ動く。
「ガァー! ガァー!」
「ガー坊! というか……みんないる!?」
パーティの全員が近くにワープしている!
これは運が良い……ということではなく、今回は全員が集まった状態からスタートだったのだろう。
「こちらが全員一緒ということは、向こうも全員一緒ということだな……」
密集していればお互いをカバーできるが、同時に一度の戦闘で全滅する危険性も秘めている。
だからといって、一度合流した仲間と別れるのは下策だ。
固まって動いている敵にソロで出くわしたら終わりだからな。
「ワープアローを使うのは少し待った方がいいかもしれませんね。平地は思った以上に木々が密集していて、上から見下ろせば敵が丸見えというわけでもなさそうです。逆に台地の上には障害物がないので、下から丸見えになってしまいます」
相手も俺のことはある程度調べているだろうし、安易に矢を飛ばしたら察知されるか……。
ここは静かに平地を移動し、気づかれないように奇襲を仕掛けるのが賢いかも。
「とりあえずゲイザーフィッシュを撒いて索敵してみよう。ガー坊、ゲイザ……」
『幽霊組合の諸君!!!』
ビリビリッと空気を震わせるような大声がフィールドに響く。
『ワシらG'zは逃げも隠れもしない! 正々堂々1対1の勝負を申し込む! これからワシらはそれぞれ赤土、青土、黄土、黒土の台地に1人ずつ登り、諸君たちを待つ! そちらも1人で台地の上に来るのだ!』
「勝手にルールを決めようっていうのか……!?」
歳を取っても丸くなるとは限らないと薄々わかっていたが、これはなかなかブチかましてくれるな……!
このフィールドの醍醐味は台地を確保するか、密林に潜むかの選択にある。
それを敵に向かって『台地に来い!』と言ってしまうとは……!
さらに言えば、これはパーティ戦なんだ。
わざわざ1人1人別れてソロになれとは、もう全部ぶち壊すんじゃないかってレベルだな……!
「どうする? 結構めちゃくちゃ言ってるけど……」
「……してやられましたね。僕たちが攻撃を仕掛けた後に言い出したなら都合の良い逃げ口上として無視できましたが、試合が動き出す前に叫ばれてしまっては、見ている人たちがその展開に期待してしまう」
「でもでも! こんなの運営が決めたルールにはないんですから、無視して全員で1人ずつおじいさんたちを倒せばいいんじゃないですか?」
アンヌがなかなかリアリストな発言をする。
運営の決めたルールに従って優勝を目指すなら、間違いなくそれが正しい。
だが、アンヌの言葉を聞いて頭によぎった『おじいさんを集団でいじめるのは……』という感情が問題だ。
おそらく、試合を見ているほとんどの人もそういう感情を抱くだろう。
「これは栄光を盾にした取引なんです。ご老人の言葉を無視して集団でいじめたというレッテルを回避するには、ルールに従うしかありません。もちろん、無視したところで賞金が減ったりトロフィーがはく奪されたりはしませんが、栄光が汚れる……!」
「私も今回は受けるしかないと思うよ。でも、ここで受けたら今後も同じようなことを仕掛けてくるパーティへの対応に困るんじゃないかな? だって、ソロで私たちと戦えた方が都合が良いパーティはいくらでもいるもの。主におじさん関係で」
なるほど、ネココの言う通り俺を安全に処理したいなら前衛のいないソロ状態が一番楽だもんな。
でも、今回のG'zに関してはそこまで考えていないような気がする。
これは勝手な想像だけど、おじいさんたちは古き良き少年漫画のように主人公と仲間たちが敵幹部に1対1で挑んでいくシチュエーションを作りたいのではないだろうか。
大魔法使い、勇者、師匠、浪人、憧れはするけどなれない職業で、現実では実現不可能な状況を体験する……。
それはVRの本質だ。
「ネココさんの懸念はもっともですが、心配することはありませんよ。二番煎じは顰蹙を買うだけですから、無視したところで評判が下がるのは相手の方です」
「確かにそれはそうかも。ここはおじいさんたちの宣戦布告を堂々と受けてあげようじゃない!」
「問題は誰がどの台地に登るかです。それぞれの色の台地に一体どのプレイヤーが……」
『対戦相手を発表する!!!』
「……?」
「……?」
「……?」
「……?」
パーティ全員が自分の耳を疑う。
え、そこまで指定するの……?
『赤土の台地には『大太刀の流浪人』コハル! 対戦相手は『稲妻の黒猫』ネココ!』
なんか勝手に二つ名まで決めてる……!
『青土の台地には『老獪なる隠し刀』シショウ! 対戦相手は『幻想三蔵法師』サトミ! なお、1対1の勝負だが彼はユニゾンマスターゆえ、ユニゾンを使うことを特別に許可する!』
流石にそれは許されないというギリギリのラインは越えないところが逆にいやらしい……!
『黄土の台地には『金色の勇者』ユウシヤ! 対戦相手は『凶星の修道女』アンヌマリー! なお、この台地には『破壊神』コロマロもいるのでそちらも『星砕きの古代兵器』ガー坊を連れてくること!』
ちゃっかり俺とガー坊を分断しようとしている……!
ユニゾン本来のパートナーでなければ、スキル奥義や得意戦法がわからず真の力を発揮できないと知って……いないのかもしれない。
コロマロは勝手に動くんだったな……。
『黒土の台地には『大魔法使い』ジージィ! 対戦相手は『弓おじさん』キュージィ!』
俺の二つ名だけカッコよくない……!
こう、なんというか、自分で考えるのは恥ずかしいけど、なんかカッコいい奴が欲しい……!
『弓おじさん』も親しみやすくて良いのだが、この場ではせめて……!
いや、落ち着け。
それよりも気になることがある。
向こうで対戦相手を決めているのに、有利な相手を選んでいる感じがないんだ。
スピード特化のネココ相手に大振りの大太刀使い。
物理的な破壊力が売りのコロマロの相手に硬さに優れるアンヌとガー坊。
そして、俺相手に遠距離攻撃で勝負……。
サトミとシショウの組み合わせだけはよくわからないが、他はむしろG'zにとって不利という見方もできる。
本当に真剣勝負がしたいだけなのかもしれない。
それにしても強引だけど……。
「そうだキュージィさん。彼らが全員台地の上に乗ったタイミングで雲を使って上空に陣取り、そこから全員狙撃して終わりというのはどうですか?」
「もしかして……怒ってる?」
「冗談です。真正面から戦って……倒しましょう」
もしあからさまに有利な組み合わせになっていたら、サトミの言葉は冗談で済まなかっただろう。
だが、こちらに有利とも取れる状況を作られて引っ込むわけにはいかない。
これは栄光を守るための戦いだ!