Data.170 弓おじさん、万能型の力
「ガー坊! ゲイザーフィッシュだ!」
「ガァー! ガァー!」
大きなカメラアイを持つ小魚型メカを周囲にばらまく奥義【ゲイザーフィッシュ】。
その役割は本来索敵だが、使い方によっては空中を泳ぐ機雷になる!
敵の位置を常に把握し、接近してくるとあらば爆発して行く手を阻む。
この本選のルールではいつでも遠距離からの狙撃が出来るわけじゃない。
フィールドがランダムというのもあるが、何より俺は警戒されている。
本気で優勝を目指すパーティは絶対に長距離射撃への対抗手段を準備していると考えても、うぬぼれではないだろう。
だから、こちらも対抗手段に対抗するいくつかの作戦を用意している。
その1つが戦いを行う空間の支配……!
「さらに黒子ガイル!」
「ガァー! ガァー!」
盾になる巨大な太陽を浮かべ、機雷をばらまき、分身で手数を増やす……!
この空間は支配した……ガー坊がな!
残念ながら射程特化の俺が万能型になることは出来ない。
元からあらゆる状況に対応できる万能型ユニゾンとして育ててきたガー坊にいろいろ押し付け……信頼して任せるのが俺のスタイルだ。
まあ、まさか本選でパーティをバラバラに配置されるとは思わなかったがな……。
運が悪ければ気合でコアと戦わないといけないところだった……。
「ゲイザーフィッシュ、分身ともに広範囲を索敵! 見つけ次第攻撃だ!」
リーダーであるコアを倒せば、一気にこちらが有利になる。
さあ、今度はこっちが逃がさないぞ……。
実は逃げてくれた方が落ち着いて背中を狙い撃てるからありがたいけど……!
「百裂! 突進する蛇腹!」
コアは【太陽魚の矢】ごしに攻撃を仕掛けてきた!
残像しか見えないレベルの高速刺突が襲い掛かる……!
くっ、俺にとっても輝く太陽は障害物になると見抜いていたか!
「万弓をこっちに! 太陽の守護!」
『万弓』は空中を泳ぐ弓以外にももう1つ使い道がある。
リアルマンボウでいう胸ビレの部分がグリップになっており、そこを握って構えることで巨体を生かした盾になるのだ。
まさに攻防一体の万能武器と言える!
◆万弓
種類:水属性ユニゾン専用<弓>
攻撃:150 防御:30 魔防:30
武器スキル:【太陽の守護】
武器奥義:【太陽魚の矢】
【太陽の守護】は本体を中心とした円形のエナジーシールドを展開するスキル。
黄金色の温かな光は物理と魔法の両攻撃に対して効果を発揮する。
なぜマンボウなのにここまで太陽を推してくるのかというと、マンボウは英語で『sunfish』と呼ぶからだ。
日光浴をするために海面に浮かんできたマンボウの丸い体が『海の太陽』に見えたので、こう呼ばれるようになったとの事だが……見えるか?
ヒマワリが太陽の花と呼ばれるのは当然だと思うが……マンボウも?
海外の人とは感性が違うのかもしれない。
本題に戻ろう。
発動している間は元の装備者であるガー坊のMPを消費し続けるが、ガー坊には時間と共にMPが徐々に回復していく『MPリジェネ』スキルを持った新装備『超Eジェネレーター(Eタンク連結型)』もあるので十分カバーできる。
◆超Eジェネレーター(Eタンク連結型)
種類:機械属性ユニゾン専用
MP:220
武器スキル:【超エネルギー回復】
以前装備していた『Eジェネレーター』の上位互換で、武器スキル【超エネルギー回復】はその名の通り【エネルギー回復】を超えるスピードでMPを回復してくれる。
また最大MPを上げてくれるのもありがたい。
最大MPが多いほど時間ごとに回復するMP量も多くなるからな。
「なんとか防げてる……! でも、防御スキルで攻撃を防げるってことは、この威力で奥義じゃないのか……!」
おそらく【突進する蛇腹】はただ単に蛇腹剣を素早くまっすぐ伸ばして突き刺すだけのスキル。
それをここまで間髪入れずに連続発動させているのは、他のスキルか奥義の効果……!
ネココの【秘技・双爪】といい、他のスキル奥義に効果を追加するスキルが浸透してるんだな。
貫通力に優れる刺突の連続にガー坊の分身やゲイザーフィッシュが次々撃破されていく。
そして、何度も貫かれた【太陽魚の矢】も消滅し、光の中からコアが姿を現した。
「そのワニめっちゃ有能じゃねーか! 俺にとってユニゾンごときは数に入らねぇと思っていたが、判断ミスだったなぁ。これじゃ2対1でこっちが不利……ってな!」
「……ッ!」
コアの表情、口調、そして何らかの直感。
俺は超短距離を超高速移動で移動するスキル【壱風の摺足】をとっさに発動した。
2メートルほどの距離を移動した刹那、俺の元居た位置に水の弾丸が飛んできた!
「新手……!?」
「そりゃパーティ対パーティだから当然だろ?」
立体交差のさらに高い道路に人影……!
あの丸っこいシルエットはレインコートでも着ているのか?
いや、見た目なんて今はどうでもいい!
敵に挟み撃ちにされてしまった!
「最初にあんたを狙った奥義は【巨大化蛇腹】! 俺の剣がデカくなるだけの奥義だが、空に向かって伸ばせば案外目立つ。このフィールドのどこからでも見えるくらいにな!」
あの最初の攻撃は俺への奇襲であると同時に、仲間に自分の位置を知らせる意味もあったのか!
「俺のもとに集えと天に刃を向けられる! これがパーティのリーダー! ギルドマスターの器よぉ!! さあ、ゼラちん! さっさとおっさんを落とすぞ! 卑怯とは言わせねぇ! 挟み撃ちだ!」
「はーい! バイバイおじ……うぉぉぉ!? あっちぃーーーッ!!」
ゼラちんと呼ばれたレインコートのプレイヤーが急に発火する!
「フィールドのどこからでも見えるということは、味方だけではなく敵にも見えているということ。それをわからないわけでもないでしょう」
「あたりめぇよ。飛んで火にいる夏の虫どもを誘ってんだ……サトミ」
ゴチュウと共に雲に乗り、サトミが空から現れた……!