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Data.166 弓おじさん、粘つく因縁

「まさか、初戦の相手がいきなり我が弟のいるパーティたぁ残念だねぇ。また嫌われちまうじゃねぇか!」


 その男、トゲトゲの金髪にジャラジャラと鎖のようなアクセサリーをつけ、サイズ小さめの革ジャンを着用している。

 化石のようなヤンキースタイルだが、どこかで見覚えがあるような……って、その前に弟!?


「オンラインゲーム内でリアルの家族関係を明かすべきじゃないとなんども言ってるでしょう兄さん」


 やはりサトミが弟か!

 俺が勝手に舎弟扱いされてるわけでもなく、ネココかアンヌがリアルで男というわけでもなかった!


「別にいいじゃねぇか! こっから身バレにつながるわけでもなし!」


「うっかり本名で呼びそうになったことが何度かあるでしょう! リアルとバーチャルを完全に切り離す意識がないからそうなるんです!」


「うるせぇなぁ……。あっ! もし俺がお前の名前をバラしちまった時は俺の名前もバラしていいぜ? それでおあいこだ!」


「そういうのを共倒れって言うんです! 両親に迷惑がかかるだけでしょう!」


「ああ、そうか……。親父とお袋に迷惑をかけるのはマズイな……。しゃーねぇ、ここではお前はサトミ! 俺はコアだ!」


「当たり前のことです」


「で、舎弟の方は最近調子どうよ? まあ、絶好調なんだろうがなぁ!」


 あ、俺は本当に舎弟扱いだ!

 初対面のはずなのに……。


「いや、初対面じゃないぜ」


 表情から心を読まれた……!


「結構イメチェンしたとはいえ、面影は残してるつもりだったんだがなぁ。おっさんがゲームを始めた最初の最初の方で1回だけパーティ組んだことがあるヤンキーだよ。自分でヤンキーって言うとダセェけど」


「あっ……!?」


 思い出した!

 俺のプレイングを酷評し、メンタル的に引退寸前まで追い込んだ後に『射手』という職業を勧めてくれたヤンキーだ!

 彼はサトミのお兄さんだったのか!

 世界は狭いというか、俺がやたら変な人とばかり縁が繋がりやすいというか……。


「射手転向大成功じゃねぇか! 辞めなくて良かっただろ!?」


「ええ、おかげさまで」


「へへっ、おかげさまなんて言葉も俺にはもったいないぜ。正直、あの日はまったくの個人的な理由でイライラしてておっさんに当たり散らしただけなんだわ。後でバツが悪くなって、とりあえずあんたのことを思って言った感を出すために射手を勧めたんだ」


 うーん、正直者なのか乱暴者なのか……。

 どっちも正解だな!


「だからよぉ……。あんたがこれまで手に入れたものはすべてあんたの力で手に入れたものなんだぜ? 誰かのおかげなんて思う必要はねぇ! 全部自分のおかげって言おうぜ! 男ならそれくらい踏ん反り返ってた方がカッコいいってもんよ!」


「そ、そうですね」


「そうだそうだ! じゃっ! 俺、帰っから! ……って! そうじゃねぇ! 俺は偵察に来たんだ! 初戦の相手『幽霊組合(ゴーストギルド)』の情報を少しでも集めるためによぉ!」


「初戦の相手……と言うことは、やはりあなたは『マッドスライムCORE』のメンバーなんですね」


「その通りよ! 俺はプロゲーマー集団『マッドスライム』のリーダー『コア』だ! 気軽にコアさんって呼んでくれて構わねぇぜ!」


「それじゃあコアさん、スライムマンという男を知っていますか?」


「そりゃ知ってるぜ。なんてったってウチの班長クラスだからな!」


「班長クラス?」


「ウチはそこそこ人数がいるから、班ごとに活動してんだわ。班長はその班のリーダーで、各々活動方針を決める権利を持ってる。スライムマンは割と精力的に活動してっから、あいつが『マッドスライム』のリーダーだって勘違いしてる奴も多いんだよなぁ~。でも真実は違う! 『マッドスライム』のリーダーはこの俺! コア様だ!」


 スライムマン……班長止まりだったのか……!?

 彼の仲間たちがスライムマンのことを『班長』と呼んでいたのは、冗談でも嫌味でもなく事実だったんだ……!

 でも、スライムマン本人は『班長』呼びを嫌がっていた辺り、本気で自分が『マッドスライム』のリーダーだと誤認させようとしていたな……。

 まったく、どこまでも愉快な男だ……。


「まっ、俺ってこんな性格だからよ。定期的な動画投稿とか、時間を守ってゲームを遊ぶとか出来ねえんだわ。だから、プロゲーマーとしての知名度は案外低いんだよなぁ~。大会とかも事前のエントリーを後回しにしてよく忘れるから、今回出場できたのは相当運が良いぜ」


 なんとも大雑把と言うか、大物と言うか……。

 どちらにせよ、ハッキリしてることがある。

 コアとサトミは兄弟でありながら、性格が正反対だということだ。

 小さい頃は絶対に兄弟喧嘩をしまくっていただろう。

 いや、案外今も……。


「……あっ!? 俺の方が情報を引き出されてるじゃねぇか! くっそ! 何か教えろよサトミ!」


「教えられることなんて何もありませんよ。僕自身の情報を明かすつもりはないですし、仲間の情報も詳しくは知りません。スキルや奥義、連携に至るまで細かい情報の共有はしていませんから」


「へぇ~、あのやたら神経質なお前がそんな大雑把な戦い方してんのか。どういう心境の変化だ?」


「変化がわかるほど、兄さんが僕の心境を把握してるとは思えませんけど」


 兄弟の間に気まずい空気が流れる。

 やはり、今もあまり良好な関係ではないようだ。


「まっ、いいわ。昔からお前は秘密主義だったからな。聞き出せるとは思ってねぇわ。だから……他のメンバーに聞いちゃうぜぇ!」


 コアはアンヌをビシッと指さす。


「な、なんですか!? 私がそんなに口の軽い女に見えますか!?」


「いや、あんただけまったく情報が出てこないプレイヤーだから気になってよぉ。だってそうだろ? 本選に残ってるのは良くも悪くも名の知れた奴らばっかりだ」


「私はオンラインゲーム自体このNSOが初めてですからね。プロの方みたいに有名なわけありませんよ」


「初心者であのプレイングか……。そのキャラ造形はリアルの見た目を反映してるのか?」


「顔は流石に変えてます! でも、体形は寄せてますね。ネットに体形を変えると体を動かしにくくなるって書いてありましたから」


「え、でも結構背とか……他にもいろいろデカいじゃん?」


「ええ、リアルでもこんなもんですよ。あっ! でも、胸だけは少し小さくしてありますね! 大きくても重くて的になるだけで邪魔だってネットに書いてありましたから!」


「小さくしてそれか……。良い情報が手に入ったぜ……!」


 それでいいのか兄よ……。


「よっしゃ! 情報収集は完了だ! 俺は帰るぜ! じゃあなっ! 首を洗って待ってろよ!」


 コアは帰っていった。

 ろくな情報も収集せずに……。

 いや、もしかしたら最初から情報収集なんてどうでもよかったのかも。

 本当の目的は……。


「サトミ、なんというか面白いお兄さんだね」


「面白い……確かにそうなのかもしれません。でも、今はただの敵同士……。次に会う時は戦場です。容赦はしません」


 敵意を隠そうともしない。

 こんなサトミは初めて見る。

 リアルの兄弟、生まれた頃から近くにいる存在との因縁は、ゲーム内での因縁とはまた違い、根深い物なんだろう。


「そろそろ第1試合が始まる。みんなで観戦しよう」


 そこらじゅうにあふれる因縁の中でもさっきできたばかりの因縁『Gaming(ゲーミング) Crocks(クロックス)』VS『VRHAR(ヴァルハラ)』。

 強者と強者の戦いは、いったいどんな結末を生むのだろうか。

 そして、優勝の栄光は誰の手に……。

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