Data.143 弓おじさん、場違いな機獣
「ガー坊、電気の奔流!」
「ガァー! ガァー!」
突如現れたメカアニマル軍団は……雷属性の攻撃に弱かった。
さらに熱にも弱く、俺も【バーニングアロー】で十分対応できた。
見た目には面食らったが、戦ってみればワニたちの方がよほど強敵だったな。
さて、やっと戦いに一段落ついたからと言って、サバンナのど真ん中でぼーっとはしてられない。
脚は動かないままだし、さっさと近くの村に移動しよう。
このサバンナはエリア的に南に入っているので、すでにマップを解放済みだ。
どこに村があるのかはすぐわかる。
「マップのこの位置まで移動してくれ、ガー坊」
「ガァー! ガァー!」
歩けないのでガー坊の背に乗って移動する。
戦っている時は気づかなかったが、乗ってみると体が大きくなっていることがハッキリわかる。
背中に腰を下ろして装甲の出っ張りを手で掴めば振り落とされることはない。
案外揺れも少なく快適だ。
敵がいたら鳴いて知らせてくれるし、俺は移動の間にガー坊の細かいステータスを把握しておこう。
進化したということは基礎ステータスも上がって……。
「ガァー! ガァー!」
もう新手か……!?
焦って周囲を見渡す俺の目に映ったのは、メカウサギだった。
このサバンナはメカアニマルが常に存在している環境なのか……?
レアモンスターというわけでもなく、普通に歩いていると出会うくらいの出現率に思える。
だとしたら、世界観的にメカっぽいフィールドが近くにありそうなものだが……。
「……あっ! 逃げた!」
メカウサギはまさに脱兎のごとく逃げ出した。
このままではすぐに見失ってしまう。
「ガー坊! 攻撃せずにあのウサギを追ってくれ!」
「ガァー! ガァー!」
効率よりも好奇心が優先されることはままある。
今回もそのパターンだ。
逃げるウサギを追えば新しい世界にたどり着ける……なんて、おとぎ話のようなことが割と起こるのがNSOだ。
実際、鏡の中に世界はあったからな。
ガー坊の移動スピードはウサギに負けていない。
引き離されることはないだろうし、さっき中断したステータスのチェックを今のうちに行おう。
◆ユニゾンステータス
名前:ガー坊(レイヴンアリゲイト)
種族:魚/機械
Lv:62/100
HP:180/180
MP:120/120
攻撃:255
防御:185
魔攻:130
魔防:130
速度:220
◆スキル
【毒耐性Ⅴ】【マシンボディ】
【ストレイトダーツ】【赤い閃光】
【ホーリースプラッシュ】【エネルギーシザース】
【電気の奔流】【フレイルテイル】
【まきびし】【エナジーシールド】
【マジックジャミング】
◆奥義
【赤い流星Ⅱ】【Bオーシャンスフィア】
【紅い死喰回転】【黒子ガイル】
◆合体奥義
【流星弓】
ステータスの数値は装備などの補正を除いたものだ。
素でもこれだけ見栄えの良い数値が並んでいると頼もしいな。
スキルはさらに層が厚くなり、強力な切り札である奥義も増えた。
【紅い死喰回転】のクールタイムは8分で、【黒子ガイル】は10分と回転効率も素晴らしい。
AIも賢くなり、もはや並のプレイヤーには負けないだろう。
だが、俺たちが戦うのは並ではなく最強を目指すプレイヤーたちだ。
まだまだガー坊にも強くなってもらわないといけない。
あのガー坊と同族っぽいメカウサギを追えば、そのヒントが手に入るような予感がするが……。
もしサバンナをぐるぐると逃げ回っているだけならば、どこかで追跡を打ち切らないと時間を無駄にするだけだ。
時間はすでに夕暮。映画のような真っ赤な夕日が地平線に落ちていく。
肉食獣がそこら中にいる真夜中のサバンナなんてウロウロしたくない。
脅威が明確な分、ある意味ホラースポットより怖いからな……。
「ん……? 何か……見えてきた!」
最初はピラミッドだと思ったが、よく見ると台形だ。上面が平たい。
何か怪しげな儀式を行う祭壇という表現がよく似合う人工の建造物に見とれている間にメカウサギを見失った。
だが、おそらく目的地はここだったのだろう。
遠目に見ると石を積み上げて作ったように見える祭壇も、近くに来て触れてみると金属で作られていることがわかる。
表面には細かい模様が刻み込まれており、かつて高度な文明がこのサバンナに栄えたことを雄弁に語っている。
そう、機械の生き物を造れるほどの文明が……。
「とりあえず上にのぼってみるか」
高い建造物を見ると、とにかく上を目指したくなるのは本能だ。
バカと煙とスナイパーは高いところが好き……ってね。
ガー坊に空中浮遊してもらい階段をのぼる。
「うおぉ……! これは絶景だなぁ!」
夕日で真っ赤に染まるサバンナと夜の闇に飲まれて暗くなるサバンナ。
昼と夜が入れ替わるほんのわずかな時間、赤い空と星空が交わる光景……。
綺麗と思う気持ちと焦燥感を同時に覚えるのは、日が落ちたら家に帰らないといけないという子どもの頃のルールがまだ体に刻まれているからだろうか。
「まあ、今も夜になると帰る生活を続けてるんだけどな」
自分の独り言に少し笑った後、冷静に考えて早くこの祭壇を調べないといけないという事実に気づいた。
ここは古代ワニみたいなボスクラスも普通に闊歩してる高難易度のフィールドだ。
目的を果たしてさっさと村か街に帰還しなければ、残りの手足も食いちぎられる可能性がある。
とはいえ、この祭壇に関するヒントは何もないんだよなぁ……。
コツコツ……と弓を杖のようにして祭壇を叩く。
そうそう、あの頃は近所を探検する時にいつも木の枝を……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ッ!
「な、なんだ……っ!?」
祭壇が……震えている!
状況を把握する間もなく、俺の乗っている祭壇の上面がエレベーターのように下降し始めた!
この祭壇は儀式を行うための物ではなく、地下へと移動するための手段だったのか!?
武器を構えて様子を見る。
エレベーターは止まる気配がないが、敵が出てくる感じもない。
それに思いだしてみれば、俺はNSO内でエレベーターに乗ったことがある。
忘れもしない風雲装備との出会いの地『風雲山』。
その内部にはこれと似た感じのエレベーターが存在していた。
土地の人の話だと、エレベーターは失われた文明の技術で動くものらしい。
つまり、ここは風雲山とも何か関係のある場所ということだ……!
エレベーターの下降スピードが緩やかになる。そろそろ到着だ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……。
そのどちらかなら戦ったことがある敵だから対処が楽なんだけど、そうはいかないのがNSOだ。
地下で俺を待ち受けていたものは……機械たちが暮らす街だった。
※【紅い死喰回転】を【紅い死喰回転】に変更しました。