Data.141 弓おじさん、殻を破る
「レターアロー!」
ガアアアアアァァァーーーッ!!
手始めに撃った【レターアロー】は古代ワニの咆哮によって破壊された。
さらにワニ周辺の地面がめくれ上がる。
鳴き声にまで攻撃判定がついているとは厄介な……。
「ガトリング・バーニングアロー!」
むっ、今度は鳴かない。
つまり、あの咆哮で相殺できるのは低威力の攻撃だけってことだ。
爆裂する矢はそのまま不動のワニに直撃する!
「……硬いなぁ」
古代ワニの漆黒のウロコは【バーニングアロー】の連射を浴びてもほぼ無傷だった。
HPゲージもろくに減っていない。
これじゃ【矢の嵐】を使ったとしても大したダメージにならないぞ……。
「ガー! ガー!」
今度はガー坊が攻撃に移る。
【オーシャンスフィア】を発動し、高速で泳ぎながら【赤い流星】の黄金コンボだ……!
ガアアァァァーーーッ! ガアアァァァーーーッ!
謎の力で宙に浮かび上がった古代ワニは、大きな口を開けて高速回転!
そのまま流星のごとく飛び回り始めた……!
これはまるで【黒い流星】じゃないか……!
威嚇の鳴き声をあげながらぶつかり合う2体のモンスター。
交差するたびに火花が飛び散り、鈍い音と衝撃波が俺に迫る……!
とても援護が出来る状況じゃないな……!
「ガ……ガー!」
流星同士の衝突はガー坊が押し切られる形で終わった。
やはり素のスペックは古代ワニの方が上か……!
なんとかガー坊をカバーしないと……。
だが、最強の攻撃【南十字星型弩砲】は両足で踏ん張ってグリップを引き絞らなければならない。
地面に座りながら撃てないこともないが、その場合発射台は大きく傾ける必要があり、矢は上の方を向く。
それでは空を飛ぶ鳥には当たっても、地を這うワニには当たらない。
「ガトリング・ウェブクラウドアロー!」
ここは足止めの専門家に任せる……!
ネバネバのネットが古代ワニに命中する。
しかし、ネットはひっつくことなく地面へと滑り落ちていく。
あのワニの表面はなんらかの粘液で覆われているのか……?
くっ、どこまでも厄介なウロコだ……!
一体何が弱点なんだ?
魔法系スキルか……?
あいにく持ち合わせがないので、他の弱点もあってほしいんだけどな……!
ガ・ガ・ガ・ガ・ガァァァ…………ッ!
古代ワニがひと際大きく口を開け、その中に黒いエネルギーをチャージし始めた。
これ、完全にビーム撃とうとしてるだろ……。
古代生物なのにどうしてビームが撃てるんだ。
トリケラトプスは突進しかしなかったぞ……!
ワニの口の周りに黒い稲妻がほとばしる。
もうすぐ撃てますとでも言いたげだ……!
こうなったらもうヤケクソだ!
「爆裂空!」
高速の矢が黒いエネルギーを突っ切り、ワニの口の中で炸裂する。
するとワニはパクッと口を閉じ、ゴクンとエネルギーを飲み込んでしまった。
間髪入れずにボンっと爆発するような音がしたかと思うと、ぷすんぷすんとワニの全身から黒煙がのぼる。
……あっ!
このワニ、爆弾を食べさせて倒すタイプのボスだ。
外側からの攻撃は効かないから、口を開けたところに爆弾を投げ入れて内部から破壊するタイプのボスだ。
わかってしまえば一番倒すのが簡単なボスだ……!
「いくぞ! ガー坊!」
「ガー! ガー!」
とにかく少しでも口が開こうものなら攻撃力の高いスキルをぶち込んでいく。
ガー坊も【ミサイルポッド】というおあつらえ向きの奥義があるので使ってもらった。
冷静に観察すると、ワニはかなりの頻度で口を開けている。
そのたびに攻撃を加えれば、移動すら制限することが出来た。
古代ワニのHPゲージはみるみる減っていき、ついに半分を切った……その時だった。
「口を開けてくれなくなったぞ……?」
古代ワニがだんまりを決め込むようになったのだ。
さっきまで定期的に威嚇の鳴き声をあげ、隙あらばビームを撃とうとしていたワニが急に……。
これでは勝ちようがない……!
しかも、攻撃によって動きを制限できなくなったから、俺の方にどんどん迫ってくる!
「ガー! ガー!」
ガー坊が俺とワニの間に割って入る。
物理防御に優れるガー坊なら攻撃に耐えることは出来そうだが……。
ガアアアアアァァァーーーッ!!
そう思った矢先、ワニが軽快にジャンプし、くるりとスピン。
尻尾をムチのようにしならせ、ガー坊を打ち据えた……!
ガー坊は勢いよく吹っ飛ばされ、地面にめり込む。
装甲にひびが入り、内部のパーツがパチパチとスパークしている。
弱点である電撃でピンチに追い込まれたガー坊は何度も見たが、物理攻撃でここまで傷つけられるガー坊を見るのは初めてだ……。
俺が不完全な状態で戦いを挑んだ結果、ガー坊に負担を……。
――ぴこんっ! ユニゾン『ガー坊』が新たなスキル【電気の奔流】を獲得しました。
◆獲得理由
『破られし殻』
物理攻撃により大ダメージを受けた。
なんだ……これは?
ユニゾンが新スキルを獲得するには、アイテムを使うしかなかったはず……。
この表示はプレイヤーと変わらないものだ……!
まさか、特定の条件を満たせばユニゾンも新スキルを獲得できるのか!?
「ガー坊! 電気の奔流だ!」
「ガー! ガー!」
ボロボロのガー坊が再び宙を泳ぎ、その口から電撃を放つ!
装甲という名の殻を破られたことで、本来自分にとって苦手な属性の攻撃を身につけたということか……!
押し寄せる電気の流れは古代ワニにヒット。
ヤツもまた電気を苦手としてるようだ。
大きく口を開けて感電している……!
「ガー坊! 脚を噛んで俺の体を支えてくれ!」
この命令がガー坊に理解できるかは賭けだった。
そして、俺は賭けに勝った。
ガー坊は左脚の感覚が残っている付け根付近を噛み、尻尾を激しく動かして泳ぐことで俺の体重を支える。
これなら……撃てる!
「これで終わりだっ! 南十字星型弩砲!」
光の矢が古代ワニの口を通り、体内を貫く!
ワニは大きくのけぞった後、光となって消滅した。
ドロップアイテムが自動回収され、その中には『濡鴉色の鰐革』という代物があった。
おそらくこれがガー坊の進化に必要なアイテム……!
「ガー! ガー!」
「よーしよし、今すぐ進化させてあげるからな~……ん?」
この鳴き声……威嚇じゃないか。
ハッとして周囲を見渡すと、川の中から上がってきたワニたちや肉食の獣が迫っていることに気づいた。
ここはサバンナのど真ん中。
獲物を狙う狩人はいくらでもいるってことか……!
だからこそ、ここでガー坊を進化させる!
『濡鴉色の鰐革』をガー坊に使用!
「ガー坊進化!」
「ガー! ガー!」
――ユニゾンの『レベル』が一定値を上回りました。
――ユニゾンに対して進化アイテム『濡鴉色の鰐革』が使用されました。
――すべての条件を満たしました。
――ぴこんっ! ユニゾン『レイヴンガー』を『レイヴンアリゲイト』に進化させます。