Data.136 弓おじさん、星屑の落下地点
やはりノルドからの追撃はなかったな。
まあ、あったとしてもこの回転ではハッキリと確認できないが……。
とにかく脱出には成功した。
問題はどこに落ちるか……だ。
正直、ノルドが俺たちを簡単に逃がした理由に【スターダストアロー】ではゴーストフロートに着地するポイントがないから自爆するというのもありそうだ。
ゴーストフロートの地面は簡単に穴が開くからなぁ。
超火力の【スターダストアロー】とか、もうボコッと大穴が開いて真っ逆さまだろう。
奥義の効果に落下するまでが含まれている以上、地上に落ちてもダメージは入らないが、またゴーストフロートに戻るには幽霊飛行船を探す必要がある。
探すと言っても出会えるかは運だし、場合によっては数か月以上戻れないなんてもこともありそうだ。
だから俺は……ゴーストフロートに着地する!
もう飛ぶ前から狙いは定めてある。
その落下地点とは……高い山ではない。
ゴーストフロートの山は例えるなら布が盛り上がっているだけで何かが詰まっているわけではない。
他の地面と同じく簡単に穴が開いて下に落ちる。
では、街に飛び込むのはどうだろうか?
これもダメだ。俺は地上の街で試したことがある。
【ワープアロー】を街中に向けて放つと街中にワープできるのかという実験を……な。
街中は基本スキル奥義の使用が出来ない。
だが、発動した地点は街の外のフィールドで、そこから街へとスキル奥義を送り込むとどうなるのか……。
答えは『座標をずらされて外にワープする』だ。
【ワープアロー】の場合はワープする場所が街の近くのスキル使用可能なフィールドにずらされていた。
つまり、街中にスキル奥義の効果で移動することは出来ない!
だから、【スターダストアロー】で街に突っ込めばその座標をずらされ、穴が開く普通のフィールドに飛ばされる。
結果は普通にフィールドに飛ぶのと変わらないのだ。
ちなみにボーンデッドマンションや血風の皿屋敷、蛇蝎トンネルに黄泉比良坂総合病院のようなクエストで使われる場所に飛んでもずらしが発生することがある。
これは場所によってまちまちだが、確実に着地したいなら賭けになる。
まあ、俺が選んだポイントも賭けなのだが、こちらの方が分の良い賭けのような……そうでないような。
とりあえずもう軌道は変えられない。
俺が選んだ着地ポイント、ゴーストフロートを浮かせている気球に向かって飛ぶしかない!
四方に存在する気球が破壊可能だとゴーストフロートは簡単に傾き、上に乗っているプレイヤーが振り落とされてしまう。
だからこそ、気球が破壊できるのかを確認しようとするプレイヤーは絶対にいる!
だが、俺はこのゴーストフロートの冒険の中で、一度たりとも気球がなくなっているところを見たことがない。
高いところにある気球はゴーストフロートのどこからでも見えるし、フィールドでの戦闘中も視界に入っていたが、本当に常にそのままの状態で空に浮かんでいた。
つまり、気球は破壊不可能。
【スターダストアロー】の落下地点として申し分ない!
もし、単純に気球に当たり判定がないとかだったら……その時はその時だ!
「頼むぞ……!」
気球に突っ込む……!
すぐにぎゅむっと沈み込むような感覚が伝わり、【スターダストアロー】の勢いが減衰する。
そして次の瞬間にはぽよんっと弾き飛ばされ、気球の近くの地面に俺たちは転がった。
「作戦成功……かな」
大喜びというよりはホッと一安心かな。
これで無事にグロウカードを完成させることが出来そうだ。
「アンヌ、大丈夫かい?」
「私は大丈夫です! それにしても、いきなり襲い掛かられてビックリしましたね! まあ、このスタンプラリーの最中は常にいきなり襲い掛かられてたんですけど、あの人は全然質が違いましたね!」
「ああ、他のプレイヤーキラーなんて中には俺の名前すら覚えてなくて、なんか目立ってるからって理由だけで襲い掛かってきた人もいたからなぁ……。あの彼……ノルドは俺のことをよく知ってたし、対策も考えていた。そして、自信に満ち溢れていた。他のプレイヤーキラーと違ってやたらギラギラした闘争心もあまり感じなかった」
「そうですね。なんか市場に並べられて値踏みされてるお魚さんの気分でした。ちょっともやもやしますね……」
「でも、ノルドはNSOにおけるNo.1ギルド『VRHAR』のギルドマスターだし、アンヌの追い求める電脳人間に一番近い存在じゃないのかい?」
「うーん、ちょっと違うんですよねぇ。彼らは至極真っ当なんですよ。例えるなら幼少期から良い指導者に野球を教わり、リトルリーグで結果を残し、高校野球で華々しい活躍をし、ドラフト上位でプロに入って実績を積み上げてメジャーに行った野球選手みたいな感じです。間違いなく称賛されるべき素晴らしい人物ですが、驚きはないみたいな。素人が思い描くメジャーへの道そのものみたいな」
「なるほど、一応日頃から野球には関わっていたけど、いざ本格的にプレイヤーになると才能に目覚めて急にプロ顔負けの活躍をするみたいなのが電脳人間ってわけだ」
この例え、野球をゲームに置き換えるとまんま俺だな……。
「そうです! 突然変異というか、生物の進化の過程に現れたルーツのわからない存在みたいな未知な感じが電脳人間なんです! 突然現れてビックリって言うと幽霊とかと変わらない感じがしますが、ニュアンスとしてはそういうことなんです!」
突然に現れて人々を驚かせる幽霊と積み上げた力により選ばれし英霊か……。
確かにVRHARからすれば急に出てきた幽霊組合なる聞きなれないパーティが自分たちと同じ高難易度の試練をクリアしたらビックリするだろうなぁ……。
幽霊組合とは一体どんなパーティなのか調べたくもなるだろう。
直接会って力を試してみたいと思う気持ちもわかる。
プレイヤー同士の戦いが許されたフィールドで戦いを挑まれたのだから、俺に怒る理由はない。
挑発的な言葉も特に気にならない。
本当にガラの悪いセリフをこのゴーストフロートの戦いで散々聞いたからな……!
時代が時代ならモヒカンでバイク乗り回してそうな人がいっぱいいたよ……。
それにノルドとの戦いは俺にとって貴重な情報になった。
特に気になったのはガー坊に対する言葉『第2進化止まり』だ。
つまり……ガー坊にはさらなる姿があるのか?
戦いの最中でもなかなかワクワクさせてくれる言葉だった。
他にもいろいろと自分に足りないものも見えてきたし、この出会いも悪いもんじゃないと勝手に思っておこう。
「さあ、街に帰ろう。ノルドはエインヘリアル・アインと言っていたし、ツヴァイとかドライに襲われるかもしれないしね。もしかしたらゼロとかもいるのかも。あ、ドイツ語でゼロはヌルって言うんだっけ? ヌルはカッコよくないし、やっぱりゼロかなぁ。こういうノリ結構好きなんだよなぁ」
「あの戦いの後に出てくる感想がそれって流石キュージィ様ですね!」
「あはは……まだまだ心は少年だからね!」
ノルド、VRHAR……。
今回はグロウカードのことがあったから気が気じゃなかったけど、いずれ正々堂々戦ってみたいな。