Data.131 弓おじさん、上下挟撃
キィィィィィィーーーーーー!!
「うわっ!? もう来た!?」
階段を駆け下りて……いや、飛んで現れたのはカラスゾンビだった。
目が赤く光り、体は巨大化している。
だが、上から入ってきた以上、鳥型のゾンビが来ると予想していた。
そして、弓矢は『飛行特効』のおかげで飛んでる敵に滅法強い!
キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!
現れた3羽のカラスは通常射撃で仕留めた。
「うわっ! 飛んでる敵にも当てられるんですか!?」
「まあ、慣れるとね。基本ソロでやってると、どんな敵にも対処しないといけないから」
カラスゾンビ自体は俺の敵ではなかったが、それ以前に上から敵が来るようになったという事実が非常に厄介だ。
今のカラスゾンビは序の口で、時間経過と共にその数も強さも跳ね上がることは目に見えている。
仲間を1人先行させてアイテムを回収するという作戦も安易には使えなくなった。
「とりあえず一旦退いて作戦を練ろう」
「はい!」
グレイを連れて2階へ下りる。
すると、階段を駆け上がってこちらに向かってくるカナリアとガー坊に出くわした。
「ど、どうしてここに?」
「あっ! キュージィさん! 1階のレーザーゲートが破壊されてしまったので逃げてきたんです! 2階にはレーザーゲートが設置されていなかったので、3階に行こうと……」
「ちょ、ちょっと待って! それを正面入口側には伝えたのかい!?」
「え? つ、伝えてませんよ。だってインカム持ってませんし……」
東病棟にインカムはなかったか、回収できなかったか……!
ちゃんと確認しなかった俺の責任だな。
3階に向かうなら階段で戦ってるカナリアに俺のインカムを渡せばよかった。
「ごめん、俺が悪かった! 今すぐ2階に戻ろう! 2階にゾンビが溢れると、正面の階段で戦ってるメンバーが挟み撃ちにされてしまう!」
「あーっ! た、確かに! 戻りましょう!」
俺とカナリアで2階になだれ込んだゾンビを掃討しに向かう。
グレイは3階にレーザーゲートを設置するべく残った。
レーザーゲートは材料を集めて組み上げるものだ。
2階で集めた材料だけでは作ることが出来なかったので、2階にレーザーゲートは存在しなかった。
3階で入手した材料と合わせてやっと正面と裏口の両方に設置できるようになったため、今から急いで設置してもらう。
裏口の方が壊れるなら正面側のゲートも壊れかけの可能性が高い。
戦線は2階をすっ飛ばして3階に移行する。
今度は階段の踊り場ではなく、3階のフロアから階段をのぼってくるゾンビを迎撃する作戦だ。
「くっ……! ゾンビを押し戻せない……!」
2階に上がってきたゾンビを減らすのが精一杯で、戦線を押し上げて階段の方に押し戻すことが出来ない。
これでは階段にいるオリヴァーたちに連絡が取れない。
かといって、ここにいる俺、ガー坊、カナリアの誰かが直接オリヴァーたちに会いに行けば、戦力が足りなくなって3階にまでゾンビが流れ込みかねない。
向こうが自主的に2階に上がって来てくれることを祈るしか……。
『こちらオリヴァー! キュージィいるか!? こっちのゲートは木っ端微塵になった! 2階にゲートはないから、迎撃しつつ3階まで退こうと思う! どうぞ!』
オリヴァーの間の良さには救われる。
俺はこちらの現状を手短に伝えた。
『なるほど! では、グレイがゲートを設置するまでの時間稼ぎをしつつ3階に移行するぞ! 以上!』
これで挟み撃ちという最悪の事態は免れた。
こちらも敵の動きを鈍らせ、時間稼ぎをしながら3階まで後退する。
そして、グレイが設置したばかりのレーザーゲートを起動し、また戦いは一段落ついた。
しかし、油断はできない。
頼りっきりのレーザーゲートをさらに上の階にも設置するには、また材料を集めなければならない。
最初のゲートの材料は1階だけで集まったが、今起動したゲートの材料は2階と3階で集めたものだ。
3つ目となると4階と5階……場合によっては6階まで探索しないと材料が集まらないかもしれない。
窓ガラスを割って上からゾンビが侵入してくるようになった以上、誰か1人を先行させるのはリスクが高い。
かといって、前線の戦力を減らすとゲートが破壊されやすくなるだけだ。
一体どうすれば……。
グレイと共に頭を悩ませていたその時、カナリアがポツリとつぶやいた。
「別に……ゲートに頼らなくても大丈夫じゃありませんか?」
「えっ?」
「私は頼らないと戦えない弱々プレイヤーですけど、オリヴァーさんもキョウカさんもグレイくんも……そして、キュージィさんとお魚さんとシスターのお姉さんもゲートに頼らなくてもいいくらい強いんじゃないですか?」
「…………」
「いろんなことを考えずにドンと構えて戦えば、ゾンビなんて敵じゃないくらいすごいプレイヤーが集まったチームだと私は思うんですけど……な、なんか生意気なこと言ってすいません!」
「いや、君の言葉は核心を突いている」
ゾンビサバイバルだからそれらしい戦い方をしないといけないと思い込んでいた。
群がる敵をどんどん倒して生き残るなんて、いつもやっていることじゃないか。
生き残るために必要なアイテム……最強の武器はすでに手の中にある。
それは使い慣れた弓だ……!
そして、頼れる仲間がいる。
これだけで生き残れるはずなんだ。
考えて戦うことがめんどくさくなったわけではなく……!
オリヴァーに連絡を取り、カナリアの言葉から着想を得た『ワンフロア作戦』を伝える。
『なるほど! 良いじゃないか! 実は俺も細かいこと考えて戦うより、ただひたすら武器を振り回してる方が好きでな! その作戦でいこう! 以上!』
よし、了承は得た。
これより『ワンフロア作戦』を開始する!
……といっても、そんな大層なものじゃない。
要するに仲間全員、常に1つのフロアにいるように動くだけだ。
正面階段の防衛に3人、裏口階段の防衛に3人、そのフロアのアイテム回収に1人。
この配役を崩さない。
正面には引き続き、オリヴァー、アンヌ、キョウカ。
裏口には俺、ガー坊、グレイ。
アイテム回収は一番素早いカナリアが担当する。
防衛の6人は基本的に戦うだけだ。
カナリアはグレイが3階で手に入れたインカムを装備して、フロアを駆けまわる。
途中で敵に出会ったら倒せる敵は普通に倒し、無理な敵からは逃げて仲間に助けてもらう。
その際にインカムで近い味方に連絡を入れ、敵を連れていくことをあらかじめ知らせる。
心の準備が出来ていれば強敵だって素早く倒せる。
そうして追っ手を撃破してもらったカナリアはまた探索に戻る。
レーザーゲートが破壊されるか、そのフロアのアイテム回収が終わった時には、全員でフロアを移動する。
例外は新しいレーザーゲートの素材が集まっている時のみ。
集まっている時は誰かが先行してレーザーゲートを設置してもらう。
頼らなくても勝てると言っても、頼れる物に頼らないのは慢心だ。
使える物は使うが、物を使うために振り回されない。
それが『ワンフロア作戦』の真骨頂だ。
1時間が過ぎ、さらに10分、20分……サバイバル開始から1時間30分が経過した。
俺たちは戦い続け、戦線は7階にまで後退した。
しかし、いまだに犠牲者はゼロで回復アイテムの数にも余裕がある。
残り時間わずかとなれば、合体奥義やミラクルエフェクトも気軽に使えるようになる。
いける、勝てる。
その言葉が全員の頭にちらつき始めた時、ふいに窓の外が闇に閉ざされた。
最初は終盤戦の雰囲気づくりのために夜になったのだと思った。
しかし、闇の中に巨大な目が浮かび上がった時、それは間違いだと気づいた。
病院全体が……『なにか』に覆われている……!
「ラスボス戦は完全にアクションゲームになるホラーゲームは多いと聞くが……これもそうみたいだな……!」
サバイバル終了まで残り30分……最後の戦いが始まる。