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Data.128 弓おじさん、死霊の波

 さて、どうしたものか。

 こちらはカナリアが戻って来たので戦力が3人になった。

 もうしばらく階段に逃げ込まずに戦えないこともない。

 もちろん大人しく引き下がるより危険度はグッと上がる。


 正直、オリヴァーともう一度話し合って決めたい。

 でも今の彼は追い込まれた状況での戦いを楽しんでいた。

 俺たちを先に退かせて、自分は仲間のために耐え続ける状況に熱くなっているのがインカム越しでもわかった。

 燃える炎に水を差すのは……怖いな。

 こうなったら自己判断で動くしかない。


「階段まで撤退!」


 向こうがピンチなら、なおさらこちらの戦線は安定させなければならない。

 迷ってダメージを食らったり、キルされて戦力を減らすなんてことはもってのほか。

 ちゃっちゃと戦いやすいところまで下がろう。


「ガー坊! カナリアさん!」


「ガー! ガー!」


「わ、私も呼び捨てにして欲しいです! ほんともう『さん』がもったいないです!」


 全力で階段まで移動する2人を援護しつつ、俺自身も階段まで後退する。

 階段の形はいわゆる折り返し階段だ。

 真ん中の広い踊り場から下のゾンビに向けて矢を打ちおろすのが理想だ。


 ただ、階段の幅が結構広いのは見逃せない点だ。

 ゾンビが仲良く2列に並んで上ってくる……なんてことはなく、ギュウギュウに詰めれば10体くらい同時に押し寄せて来そうだ。

 さらにその後ろにもゾンビはいるわけで、ダメージを受けてよろけたゾンビを踏み台にして後から後からどんどん迫ってくる光景が想像できてしまう。


 前衛職にとっては段差もあって決して戦いやすい場所じゃない。

 やはりゾンビには飛び道具が最適解なのか……。

 とにかく、グレイの設置してくれたトラップを起動しよう。


「えっと、レーザーゲート……?」


 空港にある金属探知機をでっかくしたような物が階段の前に設置されている。

 それに触れると専用の操作ウィンドウが開き、起動するかどうかを確認された。

 仲間は全員ゲートをくぐったので、迷わず『起動』のボタンをタッチする。


 ブゥン……と唸るような起動音が聞こえた次の瞬間、ゲートの中に細い線のようなレーザーが何本も張り巡らされていた。

 押し寄せてきたゾンビは次々とレーザーに触れ、ジュウッと音を立てながら焼き切られていく。

 なるほど、これは頼りになる『前衛』だ……!

 トラップの設置を優先させたオリヴァーの判断は大正解だな。


「キュージィさん見てください! 他にも役に立ちそうなアイテムがいっぱい置いてあります! これとかまさに対ゾンビ用の武器ですよ!」


 カナリアが踊り場に置いてあったトランクを漁り、サブマシンガンを取り出した。

 確かに銃火器はゾンビと戦うための武器って気がするな……!

 ゾンビって呪術的なもので生まれた時はファンタジーだし、ウイルス的なもので生まれたならSFに近いが、どちらを倒すにしても現代的な銃火器ほど似合う物はない。

 でも、NSOにはそもそも『銃』という武器カテゴリーが存在するし、前衛職っぽいカナリアじゃ装備できないんじゃ……。


「うわぁ!? この銃は特殊なアイテムで全職業が装備可能なうえ、今装備してる武器と合体して威力や属性などが反映される仕様らしいですよ!?」


 うーん、親切設計!

 まあでも、俺は弓のままで問題ないだろう。

 銃と同じ射撃系武器だし、弓は上手く扱えても銃はダメ……なんてパターンもあり得る。

 サブマシンガンはカナリアに譲った。

 彼女は嬉々として自分の武器『サイリウムブレード・ライム』をサブマシンガンと合体させ、風属性の弾丸でゾンビを蹴散らし始めた。


「あはははははは!! これサイコーです! すごいストレス発散になりそう!」


 味方も撃ちかねないテンションだな……。

 それはさておき、カナリアが射撃を行えるようになったのは大きい。

 レーザーゲートによるゾンビの足止めは永続ではない。

 ゾンビを焼き切るたびに『エネルギー』を消費するので、グレイが準備してくれた『予備バッテリー』がなくなればただの置物になる。

 ゲートにゾンビが触れる前に倒せるなら、それに越したことはない。

 ただ起動しているだけなら『エネルギー』を消費しないからな。


 さらに物である以上、あまり強い攻撃を食らうと『耐久値』がなくなって破壊される。

 今はまだゲートを破壊しようと考える知能の高いゾンビは出てきていないが、これから先のことはわからない。

 レーザーはこちらの攻撃を阻害しない仕様なので、プレイヤーはレーザー越しににヤバそうなゾンビから積極的に狩っていくべきだ。


 それを踏まえたうえで、正面入口側の戦況も気になる。

 安全な2階を通って向こう側の様子を見に行くべきか……。


「カナリア、少しの間こっちを任せても大丈夫かい? 正面入口の戦況が……」


「あはははははははははーーーい!!」


 こんなに不安になる「はい」は初めて聞いたが、ガー坊も遠距離攻撃重視モードで置いておくから戦力的に問題はないだろう。

 階段を上り2階から正面入口側の階段を目指す。

 2階にゾンビの影はないから、オリヴァーたちが負けたわけではないようだ。

 となるとやはり、確率で出てくる強いゾンビでも……。


 ダダダダダダダダダダダダッ!!


「うおっ!?」


 階段を下りて1階に向かう俺の足元に無数の弾丸が放たれた。

 不器用なタップダンスみたいに足をジタバタさせたおかげか1発も当たることはなかったが、足を撃ち抜かれていたらいきなり移動にハンデを負うところだった……。


「どうやら、ヤバいのが出てきた説で正解みたいだ」


 両腕にドデカいガトリング砲をくくり付けたムキムキゾンビがフロア中央で暴れている。

 裏口の方には出なかった個体だ。


「爆裂空!」


 強敵には奥義を……!

 頭を貫いた高速の矢は爆発を起こし、首から上すべてが爆ぜ飛んだ。

 それでも死なないあたり恐ろしいタフさだが、頭がなくなればゾンビとて動きは鈍る。

 そして、その隙を見逃す2人ではない。


斥力斬波(せきりょくざんは)!」


 オリヴァーの斧から放たれた黒い斬撃波がゾンビの両腕を切り落とし、ガトリング砲を使用不可能にする。


聖なる十字架の星たち(セイントクロススター)!」


 アンヌの放った7つの鉄球がゾンビの体を打ち据え粉々に砕く。

 この攻撃でやっとガトリングゾンビは光となって消滅した。


「助かったぞキュージィ! あんな感じのイかしたゾンビがどんどん来るものだから、奥義がカツカツでな! ハッハッハッー!」


 『イかれた』じゃなくて『イかした』と言える当たり、戦いを楽しんでるなぁ。

 それは結構なことだが、俺としては他に気になることがある。


「キョウカさんはまだ戻って……来てないみたいですね」


「ああ! あいつが簡単に死ぬとは思えんが、もっとイかしたゾンビに出会っていたらわからんな! こちらとしては序盤で戦力を見捨てることは避けたいし、耐えられる限り耐えるつもりだ!」


 オリヴァーの判断には俺も同意だが、そもそも耐えられるのかという疑問が付きまとう。

 この時間帯で運によってはガトリングゾンビみたいなのが出てくるのだ。

 さらに時間が経過する前に退かねば共倒れもあり得る。

 でも、俺もこの段階で仲間を見捨てるなんて判断はしたくない。


 無事かどうかだけでも知りたい……。

 大声で呼んだら、返事してくれたりしないかな……。


『……こちらキョウカ、誰かインカムを装備している者はいるか?』


 インカムからキョウカの声が……!

 おそらく西病棟で見つけた物をそのまま使用しているんだ。

 そして、このインカムは同じ階でないと通話が出来ない。

 つまりキョウカは1階まで戻ってきている!


『西病棟1階で足止めを食らっている。時間をオーバーしたうえ、情けないことを言うが……援護を頼みたい。どうぞ』


「キュージィです。すぐに向かいます。どうぞ」


『だ、大丈夫か? お前は後衛職のはずだが……。どうぞ』


「良い奥義があるので問題ありません。どうぞ」


『すまない。では……頼む。以上』


 通信を切ってオリヴァーに向き直る。

 彼は親指を立てて笑った。

 勝手な判断だったが、彼的にはOKのようだ。


 もしかしたら、俺の【アイムアロー】を知っているのかもしれない。

 長距離を移動しながら攻撃も出来るあの奥義は救出向きだ。

 西病棟に向かうルートには長い直線の廊下もあるし、まさに使いどころなのだ。


「行ってきます! ここはお願いします!」


 すでに西病棟の入口も開いているが、そちらから来るゾンビは少ない。

 キョウカが戦っているからだろう。

 こんなところで犠牲を出してなるものか。

 必ず助け出そう……!

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