Data.127 弓おじさん、再びゴリラと戦う
森の中で巨大ゴリラに出会ったことが遠い昔のように感じる。
あの時はNSOプレイヤーとして駆け出しも駆け出しだったな。
それが今となってはトッププレイヤーに数えられ、こんなところでこんなゴリラと戦うことになるんだから、人生っていうのは面白い。
……走馬灯みたいで縁起悪いからこの思考は断ち切ろう。
現在、サバイバル開始から17分が経過したところだ。
20分には裏口からゾンビが入ってくる。
もうすでに自動ドアのガラスの向こうにはゾンビがへばりついて待ち構えている。
このデカブツゴリラゾンビと押し寄せるゾンビを同時に相手にするのは遠慮したい。
3分で片付ける!
奥義の使用も辞さない覚悟で!
「キュージィさん! まずはそいつの足を止めてください! 速いです! 離れてもすぐに詰められます!」
このゴリラはカナリアのすぐ後に現れた。
それはつまり、速度自慢のカナリアが引き離せなかったということ……!
「ガトリング・ウェブクラウドアロー!」
アドバイスを素直に聞き、武器を持ち替えて足止め用のネバネバネットを放つ。
【ガトリングアロー】との融合で撃ち出したので、ネットの数は十分。
巨体全体をネバネバに出来る!
ヴォォォォォォーーーーーーッ!!!
ネット自体はヒットしたが、ゴリラはすごい力でそれを引きちぎっていく。
数秒の足止めが精一杯か……ならば!
「封魔縛陣!」
放たれた3本の矢がゴリラゾンビを取り囲む。
この矢は特殊な矢で、当たり判定がない。
プレイヤーやモンスターの体をすり抜けて飛び、スキルで相殺することも出来ない。
ただ狙った地面に突き刺さり、そこに正三角形の魔法陣を展開する!
ヴォ、ヴォォォォォォーーーッ!?
魔法陣が稲妻のごとき光を放つ。
よし、機能している!
【封魔縛陣】はその名の通り捕縛のスキル。
魔法陣の中に入った敵を麻痺状態にし、じわじわと継続ダメージを与える!
動きを止めるという点では【ウェブクラウドアロー】と役割が似ているが、【ウェブクラウドアロー】は敵にヒットしなければ粘着力を発揮せず、ネットもすぐに消えてしまう。
対して【封魔縛陣】は設置型のトラップだ。
こちらも魔法陣の中に敵が入ってくれないと効果が発動しないが、とりあえず置いておける。
魔法陣はピカピカ光っているので非常に目立ち、敵からしても入ってはいけない場所を意識してしまう。
その結果動きが制限され、【ウェブクラウドアロー】の方も当てやすくなる。
ただし、矢が地面に刺さってから魔法陣が完成するまでには微妙にタイムラグがある。
今回のように敵の足元に直接魔法陣を設置して効果を発動させるには、動きを鈍らせておく必要がある。
そう、【ウェブクラウドアロー】と【封魔縛陣】は役割が被っているように見えて実はお互いに弱点を補っているのだ。
ちなみに俺自身が魔法陣の中に入っても捕縛効果は発動せず、同時に設置できる魔法陣は3つまでだ。
3つ目のスタンプで手に入った三角形の魔法陣の設置数は3つまで……覚えやすいな。
「さて、封魔縛陣の効果が切れる前に……接近戦の矢の嵐!!」
敵が動けないのをいいことに最大火力を出せる至近距離から奥義をぶち込む。
条件を満たさないと出てこない隠しボスみたいなゾンビでも、この無数の矢を受けては立っていられまい……という俺の予想は外れた。
ゴリラゾンビは……全身に矢が刺さった針の筵のような状態でも消滅しなかった。
それだけじゃない。矢がポロポロと抜け落ちていく……。
傷口が再生しているんだ……!
ここに出てくるゾンビたちにHPゲージは存在しない。
雰囲気づくりというより、大量に出てくるゾンビすべてにゲージを表示すると見にくくなるという理由からだろう。
だから、今の攻撃でどれほどHPを削れているのかはハッキリしない。
だが、とにかく追撃を加えて倒しきらないと、合体奥義やミラクルエフェクトを使わなければいけなくなる……!
【インドラの矢】は屋内じゃ効果を発揮しきれないし、【アイムアロー】でトドメを……。
「風刃……!」
「んっ!?」
カナリアだ……!
いつの間にかゴリラゾンビの背後に回り込んでいたカナリアが緑色に光る双剣を構えている。
それはまるでコンサートの時に振るサイリウムのようだ!
「ウィンドミル! エアースタイル!」
跳躍したカナリアの回転斬りがゴリラゾンビの首を切り落とした。
素晴らしい切れ味と光が残す斬撃の残像のカッコよさに思わず舌を巻く。
「……よっと! ふぅー! キュージィさんのおかげで私にも戦う勇気が戻ってきました……! 助けてくださってありがとうございます!」
「いや、当然のことをしただけだよ。無事でよかった。それで……アイテムはどれくらい回収できたかな?」
「5階と4階は完了しましたけど、3階の途中でアレを目覚めさせてしまったので……」
「そうか……。順調だったのに災難だね。でも、まだ30分までには時間があるし、引き続きアイテムの回収をお願いしてもいいかな? 無理せず時間内に出来る範囲で」
「そ、それは、そうなんですが……わ、私またドジっちゃいそうで不安です! 役割を交換しませんか……?」
「いや、アイテムの回収には部屋に出たり入ったりする必要があるし、小回りの利くスピードが必要だ。俺の場合は長距離移動の奥義はあっても連発出来ないし、小回りも利かないからね……。アイテム回収は俺では効率が悪い。君にしか出来ない事なんだ。ぜひともお願いしたいんだけど……」
「私にしか……出来ない事……? や、やります! このちっぽけな命を燃やして精いっぱいやらせていただきます! それではぁぁぁ!!」
カナリアは全力疾走で東病棟に消えた。
やっぱり若者と接するのは難しい……!
乱高下するテンションについていけない。
まあ、カナリアは特に激しい気もするが……。
ピシッ……ピシピシッ……!
おっと、こっちのガラスにもヒビが入り始めた。
カナリアが戻ってくるまで何とか持ちこたえないとな。
「いくぞ、ガー坊!」
「ガー! ガー!」
ガー坊と俺の連携に隙は無かった。
前衛と後衛、いつものスタイルでゾンビを殲滅していく。
ゾンビは基本的に物理攻撃で、中には毒を吐きかけてくるような個体もいるが、どちらもガー坊は耐性を持っている。
おかげで俺は自分の攻撃に集中できた。
まず敵に近づかれないように【封魔縛陣】を3つ設置し、【退魔防壁】も展開する。
そして【斬魔攻刃】で的確に数を減らす。
流石は退魔弓術と言うだけのことはある。
対ゾンビ戦闘にあまりにも向いている。
おかげでMPも奥義も温存できる。
サバイバルでは強い奥義をやたら連発すれば生き残れるわけじゃないからな。
27分が過ぎ、後3分で西と東からもゾンビが入ってくる。
今は正面からの敵のみだから俺とガー坊だけでも対応できるが、左右から挟まれると厳しそうだな……。
やはり、戦場を階段に移す必要がある。
「キュージィさぁん! 戻ってまいりました~!」
カナリアが無事戻ってきた!
これで裏口側はいつでも階段に戦場を移せる。
ゾンビは亜種が増えてきた。
ムチのような長い触手を持つ個体、何か硬い物を撃ちだしてくる個体、頑丈な装甲を纏っている個体……。
通常射撃で一撃とはいかないくせ者ばかりだ。
正面入口のオリヴァーとアンヌは無事だろうか……。
インカムのボタンを押し、こちらから向こうへ音声を送る。
「こちらキュージィ。カナリアさんと合流しました。どうぞ」
『……おおっ! すまない! こっちはちょっと立て込んでて、連絡するのを忘れていた!』
インカム越しにゾンビのうめき声が聞こえてくる。
向こうは苦戦しているのか?
なにか確率で発生するレア個体とかに襲われて……。
『まだキョウカが帰って来ていない! 原因は不明だ! こちらはもうしばらく耐える! そっちは階段まで退いてくれ! 以上!』
戻って来ていない?
キョウカはカナリアよりも古参でプレイヤーとしても強そうに見えた。
アイテム回収中にゴリラゾンビを解放してしまったにしても、十分ソロで撃破できると思うが……確認のしようはない。
耐えると言ってもいつまで耐えられるのか、耐える意味はあるのか……。
「何事も予定通りにはいかないものだな」
サバイバル開始から30分が経過した。
総合評価70000pt突破!ありがとうございます!
いつの間にか遠くまで来たものですね……!
これからも更新頑張りますので、引き続きよろしくお願いします!