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Data.119 弓おじさん、骨の巨人

「アンヌ! 勢いが落ちてきたら鉄球を引っ込めてほしい!」


「えっ!? 何か言いましたか!」


 耳元で言っているのだが、建物を破壊する音で聞こえていないようだ。

 もう一度声を大きめにして説明する。


「アイムアローの勢いが落ちてきたら鉄球を引っ込めてほしいんだ!」


「なぜですか!?」


「簡単に言うと着地する足場がなくなるからだ!」


 俺のプランではアイムアローの射程で飛べるとこまで真上に飛び、射程限界で勢いが衰えた瞬間に『星域射程』の効果で少し軌道を曲げ、その階の床に着地する算段だった。

 着地する階の床に鉄球でやたら大きな穴を開けられると、軌道をかなり鋭く曲げないと足場に届かなくなるが、『星域射程』はそんなに曲げられない。

 だから、鉄球を引っ込めて開ける穴を小さくしないといけないんだ。


「とりあえず、了解しました!」


 アンヌが鉄球を小さくし、鎖を手繰り寄せて手元に戻す。

 よし、これで着地は問題ないはずだ。

 あとはどこまで上れるかだが……。


 その時、何かにぶつかる感覚を覚えた。

 破壊できない天井に当たったようだ。

 このマンションの天井も床も脆いはずだが、唯一ガチガチに硬くて壊せない物がある。


 それは……外壁だ。

 壊すと外に出れてしまうような外壁は壊せない。

 それは逆に入り口以外からの侵入も不可能にしている。

 なので、どれだけ内外で暴れてもマンション自体が崩壊することはない。

 常にアトラクションっぽい綺麗な外観だけは保たれるのだ。


 この理屈でいくと、俺がぶつかった天井は最上階の天井……つまり屋根だ。

 壊せない物にぶつかったことで【アイムアロー】の勢いが急速に減衰する。

 ここに着地するとしよう。


「……っと」


 着地と同時に引っ込めていたガー坊を再召喚し武器を構える。

 どうやら待ち伏せしているプレイヤーキラーはいないようだ。

 床も壁もぶち抜いていく音にビビって逃げてくれたのなら、危ない作戦に出た甲斐もある。


「さて、ここが最上階ならスタンプが……」


 ないなぁ……。

 でも、なんとなく予感はしていた。

 こんな壊れやすい床の上に大事なスタンプを置いておくはずがない。

 壊れて下に落っこちてしまう。

 きっと頑丈な床や壁のある一室に保管されているのだろう。


 アンヌたちと共に警戒を解かずに移動する。

 本当にプレイヤーキラーたちが消えたな。

 俺と戦うよりぶち抜かれたマンションを撮影する方が面白いと思ったのだろうか?

 まあ、戦い続きだったしありがたい話だ。


「あ! あそこに階段がありますよ!?」


 アンヌが指差す先には確かに階段があった。

 まさかのここは最上階じゃない……?

 では、なぜ天井は壊せなかったのか……。

 答えは簡単、この上が特別なフロアだったからだ。


 階段を登ってすぐのところにある大扉を開け放つと、そこは礼拝堂のような広間だった。

 正面には巨大なステンドグラスが光を受けて輝いている。


「美し……」


 バギバギバギバギィィィィィィ!!!


 俺に神聖さを感じさせる間も無く、それは吹き飛んだ……マンションの屋根ごと!

 何か巨大な白い手によって屋根が剥ぎ取られた!

 本能的に伏せたので巻き込まれずに済んだが、正直かなり驚いた!

 さっきどれだけ破壊してもマンションの外観は変わらないと言ったばかりだからな……!


 それが破壊されたと言うことは、すでにこの空間は通常のフィールドから切り離された『戦闘空間』だ。

 他のプレイヤーは入ってこられず、破壊された屋根も他のプレイヤーには見えていないというか、元のフィールドの屋根は破壊されていない。

 この空間のみの特別な演出と共にそいつは現れた。


 破壊された壁に手をかけ、建物にもたれかかるようにこちらを覗き込む巨大なドクロ……。

 ちょっと知識がある人間ならすぐに思い当たるその正体……。


「がしゃどくろ……!」


 巨大な骸骨というシンプルながらインパクトがある姿に名前の妙なボス感……敵役として人気知名度ともに高い妖怪だ。

 正直骨のマンションのボスに据えるなら『がしゃどくろ』しかいないだろうと俺も思っていた。

 和風の建物ではないことだけが少し気がかりだったが、そこは流石NSO。

 変にひねらず直球できたな。


「レターアロー!」


 久々のボス戦だし、まずはチェックといこうか。


 ◆がしゃどくろ

 属性:幽霊

 スキル:【魂魄(こんぱく)握撃(あくげき)】【怨嗟(えんさ)吐露(とろ)

 解説:

 無念の死を遂げた者たちの魂が形を成した妖怪。

 骨だけの体からは想像できない力で生者を死へと引きずり込む。

 特に握力が強く、呪詛(じゅそ)で防御を下げられた後は掴まれないように注意しなければならない。


 幽霊属性ということはガー坊の【ホーリースプラッシュ】がよく効くな。

 俺には特効スキルはないが、握力自慢なら距離をとること自体が対策になるだろう。

 アンヌの方は……。


「キュージィ様! ここは私に任せていただけませんか? 移動も何もかも頼りっぱなしですし!」


「……ああ、頼む!」


 彼女は聖職者であるシスターだもんな。

 的が大きくて動きが大雑把な巨大悪霊ボスなんて、あの鉄球で簡単に滅してしまうだろう。


聖なる十字架の星たち(セイントクロススター)!」


 アンヌの放った鉄球が7つに分裂する。

 それらは十字架の形に並び、がしゃどくろの顔面にめり込んだ。

 HPゲージの減りがヤバい。完全に相性で勝っている……!


「悪霊退散! 浄化してあげますわ!」


 その後も聖なる暴力の応酬は続き……。


 グオオオォォォォォォ……………


 早い。想像以上に早い。

 がしゃどくろの最後の叫びが、どこか物悲しく聞こえる……。

 すごい妖怪でもガチムチ……じゃなくてガチガチ装備のシスターには勝てなかったよ……。


 まあ、4箇所も巡らないといけない中、速攻で1体目のボスを倒してくれたアンヌには感謝しかない。

 俺もサポートはしていたが、いじめてる感があっていつもより手抜きだった。

 やはり、罪悪感を覚えない強敵とのバトルが一番楽しい。

 むしろこっちがいじめられてると感じるくらいが面白い……なんて言ったら引かれそうだから誰にも言わない。


「ありがとうアンヌ。常に思ってるけど、やっぱり強いなぁ!」


「いえいえ、キュージィ様ほどではありませんよ!」


 ……俺とアンヌが戦ったらどうなるのだろうか?

 接近戦と中距離戦は負けそうだな。

 逆に遠距離戦なら速度に難があるアンヌには勝てるだろうな……って、人と戦うことばかり考えちゃうなぁ。

 ここに来るまでに倒してきた名も知らぬ修羅たちと同じようになってしまいそうだ。


 がしゃどくろのドロップアイテムもシュポポンとボックスに収納されたし、気を取り直して本命のスタンプをカードに押そう。

 スタンプとそれを押すためのテーブルはすでに出現している。


「これでまず1つ!」


 ボーンデッドマンションが描かれたスタンプを押すと〈破魔弓術・無印〉は〈破魔弓術・一印〉に進化した。

 同時にカードのスキル【退魔防壁】が解放される。


 破魔弓術というグロウカードなのに、あまりスキル名に弓矢感がないな。

 詳しい効果が気になるところだが、スタンプを押したことで空間が元に戻り、また通常のマンションに戻ってきてしまった。

 またプレイヤーキラーを警戒しなければならない。

 クリアして出てきたところなんて1番油断するし、玄人はそこを狙ってきそうだ。


「気を引き締めていこう。やられるとまた最初からだからね」


「はい! ちなみにこのボーンデッドマンションの次の恐怖スポットは『血風の皿屋敷』ですので、覚えておいてくださいね!」


「了解!」


 元気よく『了解』と言ったものの、何も了解できるワードが入っていない名前だ……。

 和ホラーは洋ホラーより怖さが増す気がするのは、それだけ身近な文化に近いからだろうか。

 俺の今の装備も完全な和だし、合うだろうなぁ……和ホラーの逃げ惑う主人公役が。


 あ、でも俺は戦うことが出来る。

 敵に対抗できるというだけでホラーゲームはグッと怖さがマシになる。

 それに仲間もいる。

 孤独じゃないというだけで恐怖は分散される……。

 うん、苦手なホラーだけはソロじゃない方が良いな!


跳ねる矢の嵐バウンドアローストーム!」


 やはり待ち伏せしていたプレイヤーキラーたちに攻撃を浴びせ、俺たちは次の恐怖スポットを目指した。

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