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Data.112 弓おじさん、幽覧飛行

 あの幽霊飛行船は……敵なのか?

 HPゲージは見えないし、ガー坊も鳴かないあたりその可能性は低いか……?

 では、何のためにあれは空を飛んでいる?

 飛行船なんだから……乗るためか?


 疑問は尽きない。

 ただ、あちら側は俺に対して何かアプローチを仕掛けてはこない。

 動きを止めることなく、ゆらゆらと風に流されていく。

 つまり、俺をめがけて飛んできたわけではなく、どこかに向かう途中に偶然俺の近くを通りかかったわけだ。


 ……このまま見過ごすのは絶対モヤモヤが残るな。

 何とかしてあの船に乗り込んでみたい。

 飛行船だからちゃんと客が乗るゴンドラもある。

 オンボロだからところどころ壁がなく客席がむき出しになっているが、それが【ワープアロー】を当てるのに好都合だ。


「浮雲の群れ! 風雲一陣! 舞風!」


 風で舞い上がり、雲の足場に乗って高さを稼ぐ。

 飛行船だからさほど高いところは飛んでいない。

 ただ、外すと3分待たされるのが面倒だ。

 出来る限り近づいて……撃つ!


「ワープアロー!」


 矢はゴンドラの壁のないところを通り抜け、内部に命中。

 俺の体は謎の幽霊飛行船の中にワープした。


 乗り込んでみると……怖いな……!

 歩くと床が軋む飛行船なんて乗るもんじゃない。

 てか、このゴンドラ木造じゃないか……。

 隙間風が妙に冷たい……。


 そもそも俺ってホラーが苦手なのに、なぜ人魂の浮かぶ幽霊船に乗り込んでしまったのか。

 人間の好奇心というのは時に恐怖心に勝る……!

 まあ、怯えていても仕方がないので、ワープの際に引っ込めたガー坊を再召喚し、船内を探ってみるか……。


 ギィ……ギィ……ギィ……


 軋む床の通路を歩き、ゴンドラの前の方に来た。

 そこには……俺の他にもプレイヤーがいた!

 革が破けて中身が飛び出している座席に座る彼らは、俺の方を一瞥(いちべつ)して目を丸くした後、何事もなかったかのように前を向く。


 やはりモンスターではなくプレイヤーだ。

 ガー坊も反応しないし、俺の顔を見て明らかに驚いた表情を見せた。

 チャリン戦以降、顔を見られると驚かれたり叫ばれたりすることが増えたからな……。


 でも、ここにいる人たちは不自然に静かだ。

 パーティで乗っている人もいるだろうに会話の1つもない。

 俺としては気楽でいいのだが単純に気になる。


 無言がこの幽霊飛行船のルールで破ると叩き落されるとか?

 相手に上手くしゃべらせるのがこの飛行船における『戦闘』だとか?

 ついにNSOもそういう頭脳戦を……。


「よっしゃ! やっと出会えたねぇ幽霊飛行船(ゴーストエアシップ)ちゃん!」


 また誰かが乗り込んできた。

 なんとも特徴のない……というと失礼だが、ザ・普通の好青年なのだ。

 キャラメイク出来るゲームにおけるデフォルト男、教科書に描かれている当たり障りのない男子生徒、無難すぎてボツにされた主人公のデザイン案……。

 間違いなくカッコいいし、嫌悪感を抱くことはないが、印象に残らない造形はある意味特別な感じがする。


「お、あなたはキュージィさんじゃないですか! あの時はどうもですねぇ!」


「あ、あの時……?」


 覚えがない……。

 出会ったことがあっても、忘れてしまいそうな見た目をしているからなぁ……。

 というか、この人は忘れてほしいからこんな顔にしているんじゃ……?


「あっ、すいませんねぇ! これまで無数の敵やプレイヤーを倒してきたキュージィさんにとって、プレイヤーの1人や2人忘れても仕方ありませんねぇ! というか、僕自身こんな顔してますからねぇ……」


「いやぁ、すいませんねぇ……」


 口調が俺にもうつっている……!

 でも、これでハッキリわかった。

 そもそも人と会話をすることがあまりない俺が、こんな喋り方をするプレイヤーを忘れるはずがない。

 彼と出会っているとしたら、会話をする機会がないタイミングで……だ。


 つまり、バトロワとか陣取りとかの敵として……。

 それでも搾り切れないな。倒したプレイヤーが多すぎる。

 特に陣取りなんて大雑把な戦闘だったからなぁ……。


「まっ、ご挨拶はこのくらいにして静かに待つとしましょう。しばらくすれば目的地に着くと思いますからねぇ」


「あなたはこの幽霊飛行船がどこに行くか知っているんですか?」


「もちろん! 一回この船に乗って、そこに行って、落っことされて、戻ってくるのに時間がかかったもんでねぇ……。いやぁ、この船っていつどこに現れるのか、どこを通るかがまったくわからないんですよねぇ。でも、終着駅だけは毎回同じ……『ゴーストフロート』なんです」


「ゴースト……フロート……?」


「おっと、キュージィさんはネットのネタバレとか見ないスタイルでしたねぇ! 僕としたことがこれ以上言ってしまうと他人の素晴らしいゲーム体験を奪ってしまうところでしたねぇ。もう黙っておきます!」


 ゴーストフロート……か。

 正直、この船が行く当てもなく彷徨(さまよ)うだけの本当の幽霊船じゃなくて良かった。

 それが一番ガッカリするオチだからな。


 それにしても、よく喋るのに名乗らなかったな……あの人。

 少し引っかかるけど、まあ名乗り忘れなんてよくあるか。

 俺も座席に座って静かに待とう。


 幽霊飛行船は高度を上げ、加速していく。

 同時にギシギシと軋む音も大きくなる。

 空中分解だけはやめてくれよ……と目をつぶって祈っていると、不意に軋む音が止んだ。

 同時に席を立つプレイヤーたちの声が聞こえてくる。


「今度こそ……」

「ひひっ……! 楽しみだなぁ……」 

「歯ごたえのある奴がいればいいが……」


 なんか物騒だなぁ……。

 不安になりながら俺も席を立つと、周りから小さく悲鳴が上がった。

 せ、世間だと俺はもう戦闘狂扱いなのか……?

 でも、フィールドじゃプレイヤーキルは出来ないんだから、怖がることなんてないはずだが……。


 妙な違和感の連続も、ゴーストフロートに上陸した途端に吹っ飛んだ。


「なんだここは……!?」


 ボロ布をツギハギしたような地面、綿が入ってるみたいに妙に柔らかい!

 やたらカートゥン風でけばけばしいまでにカラフルな木々や草花!

 何より……この島は浮いている!

 四方に存在するこれまたボロ布をツギハギした気球に吊られて……!


 これが幽霊浮遊島……ゴーストフロートか!

 デザインセンス極振りだな……!


 今までのNSOとはまったく違う雰囲気のフィールドに興奮が抑えられない!

 でも、抑えろ……!

 まずは状況を整理だ。


 現在地は船着き場だ。

 幽霊飛行船は複数あって、各地からプレイヤーを集めてはここに連れてきて、またプレイヤーを拾うために出発するようだ。

 連れてこられたプレイヤーたちは船着き場の近くの街に流れていく。

 西洋、英国、霧のロンドン辺りをモチーフにしたこれまたミステリアスな街だ。


 いいなぁ、いいねぇ……。

 目的がなくてもフラっと立ち寄って景色を眺めたくなる場所だ。

 ぜひともファストトラベルを解放したい。

 その解放クエストは街の中のどこかで受けられるんだろうけど、まずはちょっと街の外のフィールドも見てみたい!


 人間の好奇心は時に合理的な思考に勝る……!

 街から伸びる街道には、これまたオシャレな街灯が立ち並んでいる。

 その先には魔女が出てきそうな深い森だ。

 こういうベタベタな雰囲気……最高だ!


 でも、やけに人通りが少ない気がする。

 新天地ではどこかに向かう時、モンスターが寄り付きにくい街道を使うのが常識のはず。

 だというのに、今ここを歩いているのは俺の他に少し前を行く2人組の少年だけだ。

 街にいたプレイヤーの数的に、フィールドにはもっと人がいていいはずだが……。


「な、なんだ!? うわああああああっ!?」


 前を歩く少年たちが膝から崩れ落ちる。

 そこにトドメを刺さんと何者かが飛び出してきた。

 その姿……プレイヤーだ!

 な、なぜプレイヤーがプレイヤーに攻撃を!?


「いるんだよなぁ……たまに。ここが『ヴァーサスフィールド』だって知らない初心者が……!」


 プレイヤーは剣を少年たちに振り下ろそうとする。

 な、なんだかよくわからないけど、やって良さそうだな!?

 混乱する頭とは裏腹に、体は素直に弓を構えていた。

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