表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/281

Data.102 弓おじさん、蛇遣の決着

 チャリンは盾を消し、ブーツのみで突っ込んでくる。

 どうやらあの盾は重く、機動力を殺してしまうようだ。


「バーニングアロー!」


 自然が再現されたサーペント・パレスの地面は柔らかな土だ。

 爆発で穴をあけ、足場をガタガタにしていく。

 飛び跳ねる時には強く踏ん張る必要がある。

 踏ん張る足場が悪くなれば、跳べる距離も短くなるはずだ!


 機動力を削いだ後は、とにかく攻撃!

 最初はチャリンのスピードに目が慣れていなかったが、今はなんとか見失わずに追える。

 俺の動体視力が発達したというより、動きが読めるようになってきた。

 やはり、跳躍する以上動きはどうしても直線的になる。

 彼女の動く方向を予測して、その位置に矢を撃ち込むんだ。


 キリリリリ……シュッ!


 当たる。当てられる!

 しかし、それも数発に一発だ。

 外すこともあるし、チャリンがムチで叩き落としてしまうこともある。

 あの速度で動きながら矢が見えているのだ。

 流石はAI、人間離れした動体視力と反射神経だ……!


 少しずつ接近されている。

 やはり前衛なしで彼女の動きを止めることは不可能。

 だから……諦める!


「さ、流石はラスボスだね……。やっぱりソロじゃ勝てそうもないや……」


 弓の構えを解き、体から力を抜く。


『なら、大人しく斬られることね!』


 チャリンが双剣を再び出現させる。

 その双剣の(つば)の部分にはちょうどメダルと同じサイズの丸いガラスがはめ込まれている。

 奥義を吸収している際に光り、奥義をカウンターする際にはより一層強く光っていた丸いガラスに、今は数字が表示されている。

 そして、時間とともに表示される数字は小さくなっていく。

 おそらく……クールタイムだ!


 それを確認したかった。

 あのカウンターを連発できるなら、俺の奇策は通用しないからな!


 チャリンが迫る。

 今まで見た表情の中で、一番険しい顔のままで。

 来い……あと少し……。

 『禁じ手』で仕留めてやる……!


接近戦の矢の嵐インファイトアローストーム!!」


 敵との距離が近ければ近いほど威力を増す【インファイトアロー】と【矢の嵐】の融合奥義……!

 俺のスタイルと相反する効果を持ちながら、最初に目覚めたアロー系スキル。

 これまでに何度も俺を助けてくれたこいつを至近距離で撃ちこみまくれば、チャリンとて耐えられまい!


 【矢の嵐】は無数の矢を嵐のごとく撃ちだす奥義だが、攻撃範囲が広い分1人の敵に対しては当たらない無駄な矢も多い。

 しかし、至近距離ならば矢が広く拡散する前に当てることが出来る。

 つまり、こちらも至近距離では威力が上がるのだ。


 接近戦をあえて行う俺にとっての『禁じ手』。

 だからこそ、この一撃は読まれない……はずだった。


 チャリンは寸前で双剣を捨て、俺の真上に跳躍した。

 本当にギリギリの跳躍だったので、奥義に巻き込まれたチャリンの両足を矢が刺し貫く。

 これでもうチャリンは立てないかもしれない。

 だが、手遅れだ。俺は賭けに負けた……!


『狩れ! 獅子座(レオ)のごとく! コレクトアックス・レオ Ver.NSO!』


 縦一閃。頭から首、胸、腰、股下、地面へと斧が振り下ろされた。

 あえて接近を許した以上、仕留めきれなければ負けだ。

 だから、勝負は一瞬なのだ。


 禁じ手をクリーンヒットさせられたら俺の勝ち。

 避けられたら俺の負け。

 まあ、奥義を当てれば勝ちっていうのは俺の勝手な予想だし、もしかしたら禁じ手でも倒しきれなかったかもな……。

 チャリンは特別なボスだからHPゲージ見えてないし……。


 ああ、思ったより悔しいな……!

 ソロでもいけるかもって可能性を見てしまったからなぁ……。

 よく頑張ったと自分を褒める気持ちもあるが、今は悔しさが勝つ。


 体が発光し始める。

 もうじき俺もバックラーパーティのように地上に落ちるのだろう。

 だが、チャリンと少しおしゃべりするくらいの時間はありそうだ


「どうして最後の禁じ手が読めたんだい?」


『読めていなかったわ。本当に直前まではね。頭に血がのぼって、このまま首を切り落としてやるとしか考えてなかったの』


「あはは……それは怖いなぁ……」


『でも、あなたと目が合った時、以前も見たギラギラとした光を感じた。諦めた人間のする目じゃないと思った。そして、思いだしたの。あなたは勝負を投げ出すようなプレイヤーじゃないって。たとえ負けるとわかっていてもね』


「なるほどな……。もっと前から情けないおじさんを演じておけば、勝てたかもしれないってことか」


 もはや俺の実力は隠しきれるものではないらしい。

 知らず知らずのうちに見せつけていたのかもしれない。

 元ゲーム会社勤務の実力を……いや、ゲーマーとしての実力を……な。


 まあ、どんなにカッコつけたって、負けたんだけどさ……。

 俺は流星となって地上に落ちていった。




 ◆ ◆ ◆




『ふぅ……なんとか勝てたぁ!』


 あれだけあなたは勝てない勝てない言って負けたら高性能AIの面目(めんぼく)丸つぶれだったわ。

 ただでさえすでにソロで私を負かしたプレイヤーがいるんだから、そうそう2人目は出せない。

 名の通ったギルドの4人パーティに負けるのとはワケが違う。


 それにしても、私に挑戦しに来るプレイヤーも増えてきたな。

 『正道騎士団(ストレイトナイツ)』もなかなか筋が良かったけど、その名の通り戦い方が王道過ぎるのよねぇ。

 前衛後衛がハッキリしすぎて、機動力でかき乱されたら立て直せない。

 私を倒すにはもうちょっと工夫しないとダメ。


 その点おじさんは工夫しまくってたなぁ。

 よくもまあ常に追い詰められている状況であれだけの作戦が思いつく……感心するしかないわ。


 何より驚くべきは矢の命中精度よ。

 戦いの終盤には私のコレクトブーツ・ピスケスのスピードに平然とついてきていた。

 私もカウンターで矢を撃ってみたけど、雨のように降り注ぐ大雑把な矢ですら瞬時に目標に向けることが出来なかった。

 そのせいで雲の上にいるおじさんを攻撃できず、逆にガー坊ちゃんによる攻撃を許してしまった……。


 剣から矢を撃つっていうのがそもそも違和感のある行動というのを差し引いても、あのおじさんは人工知能である私よりも弓矢の扱いにおいて勝っているのは間違いない。

 やはり、おじさんも『本物』に近い……。


 それでも、あのスタイルで私に勝つのは厳しいと言わざるを得ない。

 後衛職が真の力を発揮するには、それだけ優れた前衛職が必要になる。

 ガー坊ちゃんだけに前衛を任せるのに限界が来たと気づかなければ、私に勝つことは出来ない。

 奇策が通用するのも今回だけよ。

 人工知能に同じ技は二度も通じぬっ!


 ……ん? 同じ技?

 そういえば、おじさんの【矢の嵐】の融合奥義を私は2回見た気がする。

 あの奥義のクールタイムって、確か5分だったよね……?


 つまり、戦闘時間は(ゆう)に5分を超えていた。

 私は5分くらいで終わるって言ってたのに、その宣言は破られてしまったってことね……。


『ふふっ、まったく……とんでもないおじさんにょんねぇ!!』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンガBANG!様でコミカライズ版が連載中!
コミックシーモア様でも配信開始!

下の画像をクリックかタップでコミックシーモア様の販売ページにジャンプ!

89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_c

オーバーラップノベルス様より書籍版『射程極振り弓おじさん』全3巻が発売中!

表紙の画像をクリックかタップしていただくと各巻の紹介ページにジャンプします!
WEB版と合わせて書籍版も応援よろしくお願いします!


89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_ckr8eal78d7hhgjduiu2zgr7t2g0u_3ne_go_mu_a89i7h5cv8q4tbuq1ilf5e4s31mr_1bla_go_np_c

ツギクルバナーcont_access.php?citi_cont_id=845389662&s
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] 最後にアリスカード使って「残像だ」をやるかと思ったけど、小説的に盛り上げるために一回は負けるよね、裁きシリーズでの強化も待ってるし
[良い点] おじさんの策士感すこ [気になる点] おじさんのエイム力高すぎない??本当におじさん?? [一言] やーっと負けたか。ゲームカテゴリなのに中々死なないなぁとは思ってたけど。さてはて今後の展…
[一言] アイムアローと分裂系の弓技なら、疑似分身の術とかできるのかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ