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蛇とカエルと村人A

 リュミノアール様、マリアーヌ様、アレの三人が囲むテーブルを遠目に眺めながら、お腹がすいたと思う私は、メイド失格でしょうか?

 朝の訓練場での出来事から、早二時間ほど経過した頃、公爵様によりマリアーヌ様が召喚されました。


 ニコニコと微笑むマリアーヌ様のその笑顔が非常に怖い。マンガなどで良く表現されていた背後にコブラでも背負ったような覇気を感じるオーラは、今にも人が殺せそうなほどです。

 それに対抗する、リュミノアール様もまた、カエルのようなオーラを出しています。


 蛇とカエル……。


 明らかに、マリアーヌ様の優勢ですが……そんな二人に挟まれたアレは、村人A並みの存在感の無さです。

 とまぁ、そんな事はどうでもいいです……お腹が空きました。


「リュミノアール様、本日はどうしてわたくしの婚約者の元を訪ねられたのですか?」

「おほほほっ、シュリハルト様に以前お誘い頂いていたからですわ」

「えっ?」

「シュリハルト様?」

「いや、私はっ!」

「しゅりはるとさまぁ~」

「はっ、そ、そのだな……」


 美女二人の会話が続き、マリアーヌ様が来訪の理由を聞かれました、それに返したリュミノアール様の答えを聞いたアレは、目を見開き驚いた表情をします。


 はっきりしないアレの様子に、オーラを強めるマリアーヌ様。潤んだ瞳で見つめるリュミノアール様。

 どちらの言葉にも圧を感じたらしい、アレは助けを求めるように私に視線を向けました。

 

 なぜ、そこで私を見るのですか? 私は何も知りませんよ……ていうか、私に縋るな。自業自得でしょう?

 アレと視線が合うも私には関係が無いとニッコリ微笑みを浮かべ、あからさまに視線を横に流しておきました。

 

 その後も続く三つ巴のお茶会に、大分面倒になってきた頃漸く、ミリス様が私に下がるように伝えて下さいました。

 朝食を食べていない私に気を使って下さったらしいミリス様の配慮に感謝しつつ、食堂へ向かいました。


 私が食事をしている間、どうなったのかの報告をお茶のお代わりを取りに来たメイド仲間のメリダさんが教えて下さいました。


 どうやら、あの後はっきりしないアレに対し、キレたらしいマリアーヌ様のひざ蹴りがアレの腹部に入り、謀らずもそれに巻き込まれてしまったらしいリュミノアール様と共に二人仲良く吹き飛んだそうです。


 まさか、ご令嬢がひざ蹴りされるとは……流石、マリアーヌ様と言うべきでしょうか?

 

 食事を摂り終え、満腹になったことで機嫌を良くした私。

 さぁ、仕事を頑張ろうと思った矢先、またも三つ巴のテーブルから少し離れた位置へ配置されました。

 

 マリアーヌ様以外のお二人のその姿が酷いです。

 アレの髪はボサボサな上に、グレーの上着の一部が土色に変わっていますし、水にでも濡れたのでしょう、ズボンのお尻の部分が見事な黒に変色しています。


 そして、リュミノアール様に至っては、綺麗な縦ロールだった髪が……至る方向に跳ね広がっているだけではなく、生垣の中にまで入ったらしくその髪に複数の枝葉が付いています。

 更に、片目が別人のように細くなっています。どうやら、メイクで目を大きく見せていらしたらしく化粧が落ちてしまったのでしょう。

 

 ドレスに至っては、水色の胸下から広がり、足元で絞るタイプの可愛らしいドレスだったはずですが……胸元のリボンは歪み、足元の絞りが外れ、ざっくばらんに広がり、足元は裂けている状態です。


 流石に、着替えを用意してさし上げるべきではないでしょうか? とは、思いつつも他のメイド仲間が動かないので私も動く事を控えました。


「もうそろそろ、お帰りになられたらいかがですの?」

「あら、わたくしこの後、シュリハルト様とデートの約束がありましてよ?

 そうですわよね。シュリハルト様」

「あ、あぁ。そうだな……」


 帰れと言うリュミノアール様の言葉に、マリアーヌ様がはっきりとこの後約束があるのだと返しました。それにアレが小声で同意します。

 

 テーブルの周囲だけがまたも緊張に包まれ重苦しくなっているようです。女性御二人の頭上で、コブラとカエルが見つめ合い威嚇し合っている様がありありと見えました。


 そんなお二人に挟まれたアレは、先ほど以上に空気とかしています。


「シュリハルト様は、私を愛して下さっているのです! マリアーヌ様は今すぐ婚約を解消すべきではありませんの?!」

「婚約は家のお話ですわよ? リュミノアール様。わたくしは、この公爵家に望まれたが故に婚約者となったのですわ。

 あなたも婚約者になりたいのでしたら、お父上様をご自身で、説得なさるべきではありませんか?」

「そんなこと……言われずとも心得ておりますわ!」

「でしたら、どうぞお帰りくださいませ?」

「きぃぃぃぃ! ふんっ! 威張れるのも今のうちですわよっ!」


 どうやら、今回の勝負は、マリアーヌ様の快勝だったようです。

 リュミノアール様は、悔しそうな顔をして、小物が良く吐き捨てるような捨てゼリフを残し、肩足を引き摺りながらお帰りになられました。


 女の戦いとは、こう言うものなのですね。非常に、素晴らしい戦いでした。

 そう脳内でお二人に称賛の声をかけました。

 

「ふぅー。シュリハルト様。御付き合いになる女性はキチンと選ぶべきですわ」

「す、すまない……マリアーヌに迷惑をかけてしまったな」

「あなたの見てくれに騙された女性が数多居るのは、あなた自身ごぞんじでしょう? 中身はどうあれ、見てくれだけはよろしいのですから、今後も気をつけてくださいませ?」

「見てくれだけって……」


 息を吐き出し、戦いを終えたマリアーヌ様は、はっきりとアレに対し見てくれだけと言うの言葉をかけました。それを聞いたアレは、ガックリと肩を落とし「気分が優れない」と言葉を残すと、今日のデートを断り自室に戻り始めます。


 横に立つミリス様から、視線を受けた私はマリアーヌ様に失礼が無いよう45度のお辞儀をするとアレの後を追い部屋に付き添いました。


足を運んで頂きありがとうございます。

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