リサーチ
リュミノアール様ガが去り、アレと私は微妙な空気のまま街を散策しています。
正直、今すぐに帰って対策を考えたくなるほど週明けに起こるかもしれないことが非常に怖いです。
「リア、見てごらん。アレなんかリアに似合いそうじゃないか?」
「……あー、ソーデスネ」
「プレゼントしようか?」
「ソウデスネ」
「……リア? 大丈夫かい?」
「ソウで……え? なんですか?」
「いいや、何でもない」と答えたアレは実に楽しそうに笑うと私の手を引きました。浮かれているのか? と思いながら連れて行かれた店を見れば、貴族の女性が好みそうなお高めの小物を専門に扱うお店です。
「ここは、マリアーヌが好んで来てた店なんだ」
「はぁ、なるほど」
アレの言葉にマリアーヌ様の貴族の女子の部屋を思い浮かべながら、呑気に返します。
私はこういった可愛い系の小物は好みじゃありませんけど、マリアーヌ様はお好きでしょうね~。あ、このウサギの水晶なんかは、マリアーヌ様のお部屋にありましたね。確かに可愛いし、綺麗だからあの方が好きになるのも無理はありませんね~。
「リアは、何か欲しい物ないのかい?」
「……特にはありません」
「そう……」
何故か落胆した様子を見せたアレは気を取り直したように顔を上げると再び別の店へと向かいました。
今度のお店は、ファンシーな縫いぐるみが飾られた少女趣味全開のお店です。
「ここは……リュミノアール嬢が好きな店なんだけど……」
「すみません。こういったお店には興味がっ」
「……デスヨネ」
私の方を見上げたアレの顔が明らかに失敗したと言わんばかりになっています。
「あの、先ほどからどうしたのですか?」
「……チだ」
アレが何かを言いかけた刹那、馬車が通り抜け声が聞こえませんでした。仕方なく私は、もう一度聞き返します。
「なんですか?」
「だから……リサーチだったんだ! 私だってリアに良く思われたい。頼りになる男だと言われたい! でも、喫茶店は微妙な顔をしていたし、どんな所が気なのか知りたかった」
顔をタコの様に赤くしたアレが一息に言い切り、そっぽを向きました。
意外です……あぁ、こう言っては失礼に当たりますね。でも、意外です! 我儘坊ちゃんなアレの事ですから、自分の趣味全開で私に色々と押し付けて来ると思っていました。それなのに、ちゃんと私の好みや趣味を調べようとしてくれていたなんて……。
感動の余り私は咄嗟に、アレの手を包むように両手でガシっと掴みます。
「シュリハルト様、ありがとうございます」
「……っ!!」
「まさか、我儘で押しの強い貴方が私の趣味を知ろうとしてくれていたなんて、本当に嬉しく思います」
「……わ、が――」
「私の好きな小物は、実用的なモノです! 後、私の趣味は、喫茶店巡りです。美味しいコーヒーと穏やかな雰囲気のお店を探すのがいいんですよ。あ、ほらあのお店、あぁ言う実用的なお店が良いんですよ!」
興奮しながら自分について語った私は、自分の失言に気付かないまま上機嫌に鍋や鉄板などが並ぶ金物屋を指さし微笑みました。
私と打って変わりアレが突如、片膝をつき項垂れます。「大丈夫ですか?」とアレの手を握ったまま声をかけますが、何も返事をしません。それどころか、アレは一人でブツブツ――「わがまま……が強い……だと……」――と私に聞こえない程の声音で呪文のように言い続けています。
十五分ぐらいその場で呟き続けたアレは、立ち上がると泣きそうな顔で「……すまない、リア。今日はこれで失礼するよ」と言い残し、哀愁が漂う背中を残して帰って行きました。
「え? 観劇は? は? なんなの、もう」
意味の分からないアレの行動に一人残された私は、首を傾げるしかありません。
と、そこへアレに付き添っているはずのミリス様が「……リアさん。今のは無いです……」と困り顔で話しかけて下さいました。
「え? ミリス様……ごきげんよう?」
「はい。ごきげんよう。リアさん」
二人同時にメイドらしく十五度のお辞儀をし合い向き合います。
「それで、えっと何が無いのですか?」
「はぁ……リアさん。あなた、自分の言動に気付いていないのですか?」
「言動??」
「先ほどシュリハルト様の手を握った後、あなたは自分が何を言ったのか覚えていますか?」
ミリス様は真剣な目で私を見つめると問いかけて来ました。
えーっと……確か……アレの私を尊重する考えに感動して、手を握りましたね。それから……あっ!!
「分ったようですね」
「あぁ、どうしましょう? 本音がついポロっと……まずいですよね?」
うんうんと頷いたミリス様は、神妙な顔で。
「あの落ち込み方では数日、酷ければ二週間ほど部屋に引きこもってしまうかと……」
「えっ、本気で言ってます?」
「はい。以前、マリアーヌ様にこっぴどくやられた時は三ヵ月ほど引きこもって居られましたから」
マリアーヌ様、何をやったんですか!! それよりも、我儘で押しが強いと言っただけで二週間ですか……。失言した私が悪いのは認めます。けれど、男の人が立ったあれだけのことで二週間も引きこもるのはいかがなものでしょうか?
突っ込んだところで、ここは異世界。日本と同じと言う訳には参りませんよね。
「わかりました。夕方にでもお菓子をもって謝りに行ってきます」
「そうですか! 手土産は是非リアさんの手作りお菓子でお願いしますね」
謝りに行くと伝えた途端、ミリス様が極上の笑顔を浮かべると私に手作りを要求してきました!! 何故っ!!
また来週もよろしくお願いします。




