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問答と自覚

 すべての授業が終わり、今日の日報を学園長室に届け終えた私はマリアーヌ様のお部屋を尋ねました。

 専属のメイドさんに案内された室内は、可愛らしい調度品が所々にかざられていてとても微笑ましく感じました。それにしても、この部屋の広さは、王族の方と変わらないのではないのでしょうか?

 

「ようこそ、リアさん。こちらへどうぞ」


 制服ではなく華美にならない程度のドレスを纏ったマリアーヌ様に促され、窓辺に設置されたテーブル席へ座ります。すると直ぐにメイドさんによって紅茶が入れられました。


「今日はお招きありがとうございます。これ、つまらないものですが」

「まぁ、これは……サロンのケーキですか?」

「えぇ、時間がありましたので、お土産です」


 お土産のケーキを嬉しそうに微笑み眺めたマリアーヌ様は、早速いくつかのケーキをテーブルに出すよう指示を出すと紅茶に手を浸けられました。

 同じように紅茶を頂いた私は、マリアーヌ様になんと聞くべきか考えます。


 どう切り出せばいいのか、わかりません。アレの事を本当はどう思っているのか、本当にアレに対して気持ちはないのか、などなど聞きたいことは沢山あるはずなのに言葉が思いつかないのです。遠回しに聞くより、直球で聞くべきなのでしょうが、それは憚られます。

 

 お土産のケーキを置いてメイドさんたちが下がります。

 それを待っていたかのようにケーキを一つ手元に引き寄せたマリアーヌ様は、いたずらっこのような顔を上げました。


「それで、リアさんはシュリハルト様のこと、どうお考えなのですか?」


 私が必死に言い回しを考えていたというのに、マリアーヌ様はド直球の質問をしてきます。その言葉に唖然としたまま、しばし目の前の少女を凝視しました。


「……リアさん?」

「ぁ、失礼。そうですね……。こう言うと逃げているように聞こえるかもしれませんが、わからないのです。彼の事を好き嫌いと言う基準で考えた事がありません。ましてや、仕えている家のご子息にあたりますから、彼と今後どうなりたいという思いもないのです。ただ、時おり彼の見せるちょっとした顔がカッコイイと思う事はあります。だからと言って、それが好意にあたるのかは私自身わからないのです」

「そうですか」

 

 私の思いを聞いていたマリアーヌ様から静かな声が返ります。

 言葉を発して、初めて自分の思いを知る。と言った状況の私は、ただただ恥ずかしく顔を俯かせてしまいました。


「こんなことを言うとあなたは、全力で否定するかもしれませんけれど……。わたくしから見た、リアさんとシュリハルト様は互いに想い合っているように見えているのですよ」

「……はっ?」


 マリアーヌ様の想い合っているように見えるという言葉に、私はそれまで感じていた恥ずかしさも全て吹っ飛び顔を上げます。


「あら、気づいていらっしゃらないのですか? ふふふっ。シュリハルト様といらっしゃる時のリアさんは実に楽しそうなお顔をされているのですわ」と言うと、マリアーヌ様は、楽し気に笑い声を上げられまた。


 私が、アレと居る事で楽しそうにしている? まさか、それはないです。だって、私はアレのことを迷惑に思っているわけで……。と、反論しようとしたのですが、どうしてかのど元まで出かかった言葉を呑み込みました。


「それに、リアさんはシュリハルト様から逃げませんでしたでしょう?」

「それは……機会がなかったからです」


 本当に私はアレの事を迷惑だと思っているのでしょうか? 本気で思っているのなら、気づかれない内にマリアーヌ様なりリュミノアール様なりにご助力頂いて姿を消すことも出来たはずです。


「本当に? 嫌であれば、逃げる方法は沢山あったでしょう?」

「……それはっ」


 確かに選択肢が沢山ある中で、私はアレから逃げる選択をしませんでした。それが何を意味するのか、今ならわかります。

 あぁ、私はいつの間にか彼を心の中に入れていたのですね。


「はぁ……」

「リアさんは、素直になるべきですわ」


 ダメですね、私は……どうして今まで、気づかなかったのでしょうか。

 この国へ来て、頼るものが誰も居ない私は、全てを無かったことにしたかったのかもしれませ。だから、一途に慕ってくれた彼の気持ちを疑った。それなのに国を出ていくと言ったあの日の朝、地位も家族も全て捨てて、一緒にに行くと言った彼の言葉がとても嬉しかった。それを素直に認められない私は、年下だからと言い訳をしていたのですね。


「マリアーヌ様は、私がア……お坊ちゃまと恋仲になるのは嫌ではないのですか?」

「リアさんには伝えておりませんでしたけれど、わたくしとシュリハルト様の婚約はいわば家同士の政略結婚ですわ。なので気持ちは一切ありませんの。わたくしにはずっと思いを寄せる方がいるのですわ。ですから、リアさんがシュリハルト様と恋仲になるのになんの憂いもありませんのよ」


 想い人の事を思い出したらしい、マリアーヌ様は頬を赤らめ恋する乙女のように微笑まれました。

また来週です!

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