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マリアーヌ様との約束

 二人を追い出し、静かになった教員室で学園長に提出する書類を書き終えた私は、漸く一息つくことにしました。今はまだ、生徒たちは授業中でこの部屋がある棟は静かなものです。


「いい加減、リュミノアール様のことをどうにかしないとなりませんね」


 リュミノアール様のアレに対する執着は相当なものなのでしょう。ストーカーになるぐらいですから……。ぶっちゃけ、アレに対する恋心があるかどうかと言われればやはり、今のところ私にはありません。好感度があがるようなことはあれど、それ以上に下がることしかしてこないアレですからね。

 アレの婚約者がリュミノアール様に代わる事は不可能なのでしょうか? と言うか、よくよく考えれば、マリアーヌ様とアレの婚約はどうして結ばれているのでしょう? 以前、公爵様は家のためと仰っていましたが……私はその理由を良く分かっていません。


「はぁ~。私はどうして、まきこまれているのでしょうね? ただ、メイドとして……と言うか、この世界で生きていくためのお金が欲しいだけなのに」


 根本的な部分を無視して動く婚約者騒動に、疲れて来ている気がした私は考える事を止めました。

 私がしたいことが出来ないのであれば本格的に姿を消すのがいいと思うのですが……それをしようとすると、アレがもれなくついてくる気がします。

 どうしたら、と言う思いばかりが募り、最終的にはこのままが一番安定しているのだと言う結論に至ってしまいました。


 午後の受け持ち授業がない私は、時間を有効に使おうと図書室へと向かいます。冒険者登録をしたのはいいのですが、この世界での生き方――常識を余り知らない私ではクエストを受ける事も出来ません。だからこそ知識を補うため複数の本を読みこみます。


 一冊目の本は、この国の歴史です。

 元々この国があった大地には、赤と白の大国ふたつが合ったそうです。ですがある日、赤の国が白の国に対し戦争をしかけます。互いに同じ兵力、同じような環境を維持した国同士の戦いの結果は、共倒れ。

 王族が全員死ぬと言う結末を迎えた大地は、生き残った国民たちの先導者が国を興し国王となったようです。


「共倒れの自滅って……馬鹿ですよね」


「あら、リア先生こんなところで、読書ですか?」

「少し勉強をしようと思いまして。マリアーヌ様は自習ですか?」

「えぇ、教授が今日はいらっしゃらないようですから、読書でもと思いまして。何を読んでいらっしゃるのですか?」

「建国の歴史と言う本です」

「あぁ…………、共倒れの! 下らないですわよね」

「えぇ、本当にそう思います」


 私の前の席へ座ったマリアーヌ様と挨拶を軽く交わし、呼んでいる本の題名を伝えると彼女も私と同じ感想を抱いていたらしく苦笑いながらに本音を語って下さいました。

 それからある程度の時間が経ったのか、授業終わりの鐘が鳴ります。

 いつの間にか二人して本に没頭していたようです。


「そう言えば」と立ち去り際にマリアーヌ様が何かを思い出したようにして私を振り返りました。


「リア先生は、シュリハルト様と恋仲なのですか?」

「いいえ」

「そうなのですね。最近、そう言った噂が学生の間に流れているものですから、てっきり恋仲になられたのかと喜んでいたのですけれど……」


 本当に残念そうな表情を作られ嘆息されるマリアーヌ様に、私は憂いに満ちていて美しいと同性でも思ってしまいます。

 どうしてここまでマリアーヌ様は、アレと私をくっつけようとするのか? 再びの疑問が浮かび、この際だからと色々質問をしてみようと思いました。

 ここでマリアーヌ様とお会いしたのも何かの思し召しかもしれませんし……無理に答えを聞く必要はありませんが、好きな人が居るのに婚約しなければならなかった彼女の考えも聞いてみたい。


「マリアーヌ様。もしお時間ありましたら、二人で少しお話しできませんか?」

「あら、リア先生からお誘いいただけるなんて嬉しいですわ。ですが、わたくしこの後授業がありますから……」

「私も、もう少し本を読みたいので、放課後はいかがでしょうか?」

「放課後なら問題ありませんわ。もし宜しければ、わたくしの部屋でお話しいたしませんか? 美味しい茶葉を手に入れましたのよ」


 マリアーヌ様の提案に、私はすぐさま頷きました。

 教員室やサロンで話をしようとしても確実にアレもしくはリュミノアール様が邪魔をして来る可能性が高いですし、ゆっくりと会話をするとなると密室の方がよいと考えたからです。


「では、放課後に」

「えぇ、のちほど」


 放課後の約束を取り付けマリアーヌ様を見送った私は、再び読書に没頭しました。


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