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トキメキは気の迷い。

 その後三杯目のコーヒーを飲み干し、カフェを出た私はアレと共に馬車に乗り込み帰宅したのです。

 始めてアレと二人っきりで今日時間を過ごしたわけですが、これまで体験した中では一番まともであり有意義な時間だったと思います。そうは思いますが、あまり長い時間共に居ると、本当にめんどくささが引き立つので今後は気を付けていきたいと心から思いました。


 翌日は学園での授業があり、私はいつも通り道場として宛がわれたダンスホールへと足を運びます。その道中、昨日話題に出ていたリュミノアール様が私の元へ現れます。


「リア先生。昨日、どうして誘って下さらなかったのですか?!」


 突然詰め寄るように問われた私は彼女に対し、何を言ってるんだ、と言う思いのまま怪訝な顔をしてしまいます。


「ですから、昨日の休日、シュリハルト様とご一緒なさるのでしたら、どうしてわたくしを誘って下さらなかったのですか? と聞いています!」

「えぇーと、まず、お伺いしたいのですが、どうして私とお坊ちゃまが一緒だったとご存じなのですか?」


 とりあえず、どうして私とアレが一緒にいたことがバレたのでしょうか? 昨日私が知る限り、学生を見かけてはおりませんし誰かに声をかけられたと言う訳でもない事から何故知っているのか疑問に思い、リュミノアール様に問いかけてみました。

 すると彼女は「そんなもの、街にいた生徒ならみんな知っていますわ!」と返します。

 

 ”街にいた生徒” と言う言葉に引っかかりを覚え、リュミノアール様をジッと見つめてみます。私の視線を受けた彼女は、不自然なほどに視線を揺らし両手を前に振りキョドリ出したかと思えば……。


「べ、別にわたくしが常に監視していると言う訳ではなくてよ? ただ、その……休みの日はシュリハルト様が何をなさっているのか気になって」


 と、自分がストーカー行為をしていたとカミングアウトしたのです。


 リュミノアール様はある意味で、阿呆なのでしょう。ただ素直なだけと言うのは聊か語弊があるように思います。別の意味で、天然なんて言葉もありますが、これが自作天然だった場合非常に恐ろしい子だと感じました。それと同時にマリアーヌ様が、何故あのように警戒していたのかなんとなく理解出来てしまいました。


「それで、どうしてお誘いいただけなかったのですか? わたくしの恋を応援して下さると仰ったではありませんか!」


 いやいや、私は一言もアレとの仲を取り持つとか協力する、応援するとは言っておりませんよ? 何を勘違いされているのでしょうか? と言うか、まずそもそも、連絡先すらしらないのに誘いようもないと思うのですが?

 彼女の言い分にひとしきり頭の中だけで反論した私は、大きく息を吐き出すと彼女に対し真実を伝えます。


「いえ、私は協力するとも応援するとも言っておりませんが? 好きならその気持ちをはっきりと相手に伝えればいいのではないかと助言しただけですよね?」

「いいえ、違いますわ! わたくしの応援をして下さると――」

「リア? どうした?」


 私の言い分に聞く耳を持たない彼女は更に言い募ろうとします。ですがここで、件の張本人が私へと声をかけて来ました。その声にリュミノアール様の態度が急変したのは言うまでもありません。

 突如髪型を気にしだし、前のめりだった顔の位置がしおらしく俯いたかと思えば、可愛らしい声で「シュリハルト様」とアレの名前をハートつきで呼んだのです。


「あぁ、リュミノアール嬢か、なんでこんなところでリアを引き留めているんだ? リア、次の授業がそろそろ始まるだろう、移動した方がいいよ。できれば一緒に行こう。クラスが違う君は、もう戻った方がいいんじゃないか?」


 引き留められている私の腕を当たり前のようにとったアレがダンスホールの方へ視線を向け歩いたかと思うと、振り向きざまにリュミノアール様へ教室へ戻るべきだと言います。

 ハッキリとアレに言われた彼女は「そ、そうですわね」と、寂し気な表情で返事をするとトボトボと自分の教室に戻っていかれました。


「リアも、そろそろ向かおう。貴方の授業はとてもためになるから、クラスメイトたちも大変気に入っているんだ」

「そうですか、ありがとうございます。ですが……その、一人でも迷わずいけますから。腕を離していただけませんか? 後、学園内では先生と呼称を付けて下さい。他の生徒の目もありますから」

「それは、失礼をリア先生」

 

 握られた腕から感じるアレの熱に、どうしていいのか分からずツケンドな物言いをした私にアレは冗談めかして私を先生と呼び、フッと表情を崩して笑います。

 その顔にドキっと胸が鳴り、トキメキを感じてしまいました。


 授業が始まり、ダンスホールを訪れた生徒たちを見回します。先ほどまで感じていたトキメキは一時の気の迷いだったのでしょう。今では、すっかりその余韻もなくなり気を引き締める事ができていました。


「それでは授業を始めます。本日は軽い体操をした後、集中力を高めるための座禅を組みましょう。女性との皆さんにも、今日からは体操に参加していただきますのでゆっくりと動きを覚えて下さいね」

「「「「はい」」」」


 生徒たちを等間隔に立たせます。

 まずは、身体の前身をほぐすように、ゆっくりとした動作でラジオ体操を始めれば、生徒たちも同じようにラジオ体操を始めました。


 私たち日本人にとってこのラジオ体操と言うものは当たり前にやるものですが、こちらの世界ではそれが当たり前ではありません。それに同じ地球でも第二次大戦後、皆で同じ動きをする日本人に対しアメリカ軍の軍人たちは何かの工作なのではないかと疑い、禁止するほどだったと言いますしね。


 それよりもラジオ体操の良さは、何と言っても身体の節々を使い、凝り固まった筋肉をほぐす効果があることです。

 常に椅子に座り、伸ばした背筋で闊歩するこちらの世界の若人たちにはこの体操が実に友好的に働いているようで、たまに昼休みなんかに広場でこの運動をしている生徒たちを見かけたりします。

 と、脱線してしまいましたが、皆いい感じに動きができるようになり第一を終えた所で息を整え、座禅を組むべく皆さんに座るよう促します。


 今回で三度目となる授業ですが、生徒たちの集中度合いは非常によく。私の歩く音にすら気付かない程集中している子もいるほどです。そんな彼らの耳に届くよう本を開き、読み聞かせするのが今回の授業になります。


 本日読み聞かせのためだけに選んだ? 基選んで貰った本は、図書室にて拝借した「常――貴族と平民の違い」です。

 この本は、平民と貴族の常識の違いについて書かれており、これから領地をもったり、継いだりするであろう彼、彼女らに最適の内容なのはずですが…………果たして効果があるのかどうか。

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