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冒険者ギルド=ハローワークですね

 学園が休日の今日、私は早速乗り合い馬車にのり街へと来たわけですが……馬車を降りた途端、見慣れた男に腕を掴まれてしまいました。


 あぁ、現実逃避をしたい。これが夢ならどんなにいいでしょうね?


「リア! こっちだよ。あぁ、転ぶかもしれないから私の腕に手を添えると良い」


 何故コレが居るのですか? って、そう言えば私が昨日街へ行くと言ってしまいましたね。失言でした……最悪です。


「お坊ちゃま。申し訳ありませんが、私は、一人で色々と回りたいのでお帰り願えませんか?」


 遠回し? でもないけれど迷惑だから帰れと言ってみましたが、アレは微笑みを浮かべ「荷物持ちは私がするよ!」と言います。そうじゃない! そうじゃないんです! と何度も何度も訴えましたが、全く話が通じる気配がありません。

 結果、私の方が諦めました。もうコレは居ないものだと思うべきですね。そう思いながら、冒険者ギルドを目指します。


 ですが、露店で髪飾りやペンダント、ブローチなどを見つける度にアレは「リアは何が買いたいんだい? 私にも何か贈り物をさせて欲しいな」や「この髪飾りなんかリアに良く似合いそうだよ?」とか「私の瞳の色だから、余計に君に似合う」なとなど、まるでデートを楽しむ恋人同士のような会話を次々と切り出してくるアレに、私の心も表情は死んでいきました。


「シュリハルト様! 私は、そう言った装飾品を一切好みませんし、用事があるので急ぎたいのです。いちいち露店で足を止められるのは迷惑です。欲しいのであればご自身が欲しい物を買って下さい。では、お先に失礼します!」


「あぁ、久しぶりに名前を呼んでくれたね」

 私の言葉など聞こえていないらしいアレは一人で勝手に頬を染め悶えています。

 それを無視して歩き始めた私は何も悪くありません! 絶対に……。


 既に街へ来て一時間、進んだ距離は数百メートル。いい加減アレの相手をするのが面倒になり、勢いのままきっぱりと告げ早足でその場を立ち去る。

 そんな私を必死に追いかけて来たアレが私の手首をつかむと、眉尻を下げ叱られた犬のような表情で「ごめん」と謝った。


「はぁー」謝る位なら何故、と続けようとした言葉にアレは「好きな女性との初めてのデートで浮かれてしまった。今後は気を付けるから許して欲しい」と被せて来た。


「デート……ですって?」

「あぁ。だって、男女が二人で出かける事をデートと言うのだろう?」


 愕然と問いかける私に、さも当然のように答えたアレは掴んでいた手首をそのまま持ち上げ、自分の左腕に乗せました。


 あ、ありえない! アレと私がデートなど!! というか、異性との初デートがコレとなんて……。

 自分の初デートの相手が、好きでもないこの男だという事実に眩暈を起こしかけた私は、それでもなんとか踏ん張り冒険者ギルドへとたどり着いた。


 漫画やアニメなどで見る冒険者ギルドと言えば、押して開くテキサス風のスイングドアを連想するはず。ですが、この世界の冒険者ギルドは……そう、ハローワークのようです。

 四角い箱型の四階建ては後うかと言う建物に、固く締められた扉。出入りする冒険者はさながら、仕事を求めを訪れた町の人と言った雰囲気でした。


「ここが、冒険者ギルドですか……」

「何か問題でもあるの? 冒険者ギルドと言えばこんな感じだよ?」

 

 マジカ! と叫びたい衝動を堪え、引き攣る顔でアレを見れば本当に驚きも何もない普通の表情をしています。

 あぁ、これが普通なんですね。日本人では到底納得できないであろうこれが、普通なんですね。でも、なんでしょう。この期待を裏切られたという感覚は……。


「では、行こうか」

「…………エェ、ソウデスネ」


 意気揚々と歩き出すアレに腕を取られたまま、私はハローワークの扉を潜りました。開かされた扉の先にあるったのは、正しくハローワークのそれです。木造りのカウントなどどこにもなく、石材で出来たカウンターが個々に区切られ、依頼書なるものが種類別に分類され番号をつけられて壁に貼られています。

 それ見ている冒険者の方々は、張り出された依頼書を眺めては、何かに書き込んでいました。


「さて、リアは何をしにここへ来たんだい?」


 実に楽しそうなアレの声に我に返った私は、期待を胸に登録者専用の窓口へ向かいました。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。ほんじつはご登録でよろしいでしょうか?」


 きらりと光る眼鏡をクィッとあげた女性が、私の姿を認めすぐに対応してくださいます。


「はい。よろしくお願いします」

「横のだ、か、恋人様もご一緒にご登録されますか?」


 彼女の視線を追って、アレの存在を思い出した私は慌てて組んだままの腕を外すし「恋人ではありません」と否定しました。

 けれど、それを聞いていたはずのアレは「私たちが恋人だと……リア聞いたかい!」と本当に嬉しそうに微笑んだのです。


 こんなところでイチャつくんじゃないわよ! バカップルがと言う白けた眼をした女性は、数回の咳払いの後「それでいかがされますか?」と急かすように聞きました。


「登録は私だけです。この人のことは無視で構いません」


 構うのも面倒だと判断した私は、自分んだけだと伝え早速手続きに入ったのです。

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