表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/61

始めての授業です

 あれから三日経ち、学園の授業風景や寮での過ごし方を見学させてもらっていた私は、ついに、初めての講義の時間を迎えました。


 初めての講義ではまず、座禅をやるだけなのだけれど……その光景は正直、違和感しかありません。

 道場代わりに宛がわれたのはダンスホールで、その床に色とりどりの髪をした見た目外国人の生徒たち二十人が座禅を組み座っている状態である。


「皆さんは、貴族として様々な事を考え事項しなければならないでしょうが、ここでは考える事をやめ心を無に、頭を休ませるつもりで何も考えないよう心掛けて下さい」


 等間隔で座った生徒たちの間を歩きながら、ふら付く生徒の身体を真っすぐに手を添えて直したり、上手く座れていない生徒には注意しながらできうる限り目を配って良く。


「集中できない人は、自分の鼓動――心臓の音を聞く様に心掛けるといいですよ」


 静まり返るダンスホール内で、私の声だけが響く。

 学長たちはやる気がないや集中力が散漫になっているなどと言っていたけれど、今回のクラスの生徒たちはしっかりと言われた事を守り授業を受けているように思う。

 初回なので、このまま進むかと言われれば微妙なところですけど……。


 宛がわれた授業時間が終わりに近づき、生徒さん達へ再び「目を開けて手足を伸ばして下さい」と指示をだす。

 座禅は慣れないと手足が痺れ、上手く動けない状態になる。そのため、予め時間を区切り手足をほぐす時間にした。


「初めての座禅は、どうでしたか?」


 私の問いかけに生徒たちは苦笑いを浮かべたり「辛かった」と声を出したり、楽し気に談笑したり。まだまだ始まったばかりなので今回はこれでいい。


「先生~。質問があります」


 赤茶けた髪をピシっと纏めた委員長風の女子生徒とが挙手をして声を上げる。


「ジュリアーナさん、どうぞ」

「はい。武術の授業と聞いていたのですが何故、このような事をしたのですか?」

「そうですね。私にとっての武術とは相対する者に集中し、相手の先手を読む事で自分を守るものだと思っているのです。そこで考えて下さい。皆さんは今、お隣に居る相手と戦ったとして、相手がどのように動き、考えているのかわかりますか?」


 座りしびれを取る生徒たちへ視線を向ければ、困ったように首を傾げたり横に振ったりする姿が見えた。


「判らないのが当然なのです。だったらどうすればわかるようになるかと言うと、相手の目の動き、唇の動き、顔の表情、指先や筋肉の動きなどで推し測るしかないのです。そのために必要なのが集中力です」


 素直な生徒が多いのか、私の言葉に真剣に耳を傾ける生徒たちに私は自然と笑顔になります。


「では、その集中力はどうやって高めるのかと言うと雑念を取り払う事です。今日皆さんにしていただいた、座禅はその集中力を高めるための行為です。座禅を組んだあと、皆さんは身体や心が僅かに軽くなっていませんか?」

「確かに、少し疲れが取れた気がします」

「私も悩んでいた事が憂いだったのではないかと思えるようになりました」


 次々に上がる声に私は頷きました。彼らの表情が授業開始と終了間際では明らかに違うのですから。


「それにですね。ここだけの話ですが、座禅は女性にとって美容にも良いのですよ。座禅を組むことでほど良い筋肉の緊張や歪んだ骨格などを正しい位置へと戻すことで滞った血流が流れやすくなり、発汗作用などを引き起こすのです」


 こうして少しずつ日常に取り込んでいく事が大事ですけど……ね。

 にこやかに良い意味での副作用がある事を伝えたところで、授業終了の鐘が鳴りました。「では、ここまでにしましょう」と声をかければ生徒たちは「ごきげんよう」と挨拶をしてダンスホールを後にします。


 施錠を確認した私はその足で、学園に提出する書類――生徒たちの反応などを纏めるため宛がわれた教員室へと向かいました。

 一部屋が十畳ほどある教員室は、学園の教師――教授一人一人に一室ずつ宛がわれており室内は自分の好きにして問題ないと言われています。

 壁際に据え付けられた本棚には、各国の武術に関するアレコレの教本が並び。執務机なみの大きな机の上には、図書室から借りてきたこの世界に存在する国々の情報を記載した本が積み上げてあります。

 積み上げたのは私本人なのですが……。

 椅子に座り羊皮紙よりもはるかに薄い紙を取り出し、今日の授業に関する経過報告を書きだしました。


 ――集中力に欠如があると言う情報をもとに、座禅を組む授業と行った結果、生徒たちは非常に優秀であり、これからに期待が持てると思います。


「よし、出来た」


 最後に自身の感想を添えて書き上げた文章を読み直し、間違いなどがない事を確認し終えた所で来訪を告げるように扉が数回ノックされました。


「はい。どうぞ」

「失礼しますわ。リア先生」


 扉を開け室内へと顔を出したマリアーヌ様に先生と呼ばれるのに違和感しかない私は「二人の時は、いつも通りでお願いします」と苦笑いながら伝えソファーへと彼女を促しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ