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お帰り下さい。

 視界を埋めつくさんばかりの赤! そして、目眩を起こしそうなほどの香りが私の思考を停止させました。

 一体何が起こったと言うのでしょう……意味が判らず混乱する私の後ろに何者かの気配を感じ、祖父直伝の回し蹴りをお見舞い仕掛けたところで、相手が仮にも雇い主の息子であることを視界に捕えギリギリで急停止させました。


「リア。君に似合うと思って……用意させたんだ。僕の気持ちだよ! 気に入ってくれたかな?」


 いつの間にやら私の背後にたつアレは、私の纏めていたはずの髪を解き触れていたのです。

 何故ここに? と言う考えが過るも、触れられた刹那全身に悪寒が走りました。


 身の毛のよだつ思いと言うものでしょう。賺さずアレから二歩ほど距離を取り、ひきつる顔に頬笑みを無理に乗せ笑いました。


「リアは赤い色が良く似合うね。その美しい漆黒の髪を乱してみたいよ……」


「えっ……?(冗談でも嫌です)お部屋までお送りします。こちらへどうぞ(今すぐお帰り下さい)」


 とにかく帰って欲しい私は、出来る限り平静を装い。アレに対しお礼を言い自身の身体を引くと扉へと掌を向けました。


「そんなこと言わないで、私はリアの可愛らしい声をもっと聴きたいよ? 

 それにお互いを知る為に今日は一緒に寝ると言うのはどうかな?

 さぁ、恐れる必要はないよ。優しく抱きしめてあげるから……ね?」


 本当にどれほど残念な思考になれば、こう言った事ができのでしょうか? 

 正直バラの香りがキツ過ぎて咽返りそうな状態です。

 そんな私の状態などお構いなしのアレは、ベットへと座り右足を上にして足を組むとセクハラと受け取れる言葉を連発する始末です。


 そして、徐にベットへ手を置くと自身の隣を、ここへ座れと言わんばかりにポンポン叩いたのです。ニッコリ微笑みを浮かべ少し大袈裟な手ぶりを入れつつ丁重に拒絶を示します。


「主のご子息である貴方様の隣に座るなど滅相もございません」


「そんな事は、気にしなくていいから!」


 いえ、あなたは気にしなくとも、私は非常に気にしますし嫌なものは嫌です。

 そこで私は、これまで日本で学んだノウハウを生かし、祖父直伝セクハラを受けた際のマニュアルに沿って行動することを決意しました。

 

 アレの言葉を無視してしまう事にはなりますが、無言で扉へと向かいます。慌てたように追って来るアレが私の手首を掴むと同時に、手首を捻り背中へと回ります。


「痛っ――!」


「お帰り願えますでしょうか。お坊ちゃま?」


 ニッコリ微笑み心底迷惑そうな声で、アレにお願いしつつ更に捻りあげた腕を少しだけ持ち上げてみます。


「はっ、り、リア……はっ、痛い!!」


「このまま公爵様の元まで参りますか? それとも、自分の足でお部屋までお戻りになりますか?」


 悶えるアレに究極の選択とまでは行きませんが、明らかに嫌がるであろう言葉と帰ると言う言葉を選び選択を迫りました。

 本当はマリアーヌ様の名前を出すのが一番なのですが……夜ですし、仕方なく公爵様と言う言葉を選択しました。そんな私の言葉に顔面の色を青くさせてアレは、額に汗をかき「部屋に戻るから……」と言います。


「では、扉までお送りいたしますね」


 微笑みを湛え後ろでに捻りあげた、腕を掴んだままアレの背中を押し歩かせ、廊下の中ほどまで移動します。


「本日はもう夜も遅いですから、どうぞこのままお部屋へ、()()()お戻りになってお休みくださいませ。それでは、失礼いたします」


 アレを離すと同時に、おやすみなさいませと言葉をつけたした私へ、「あぁ、おっ、おやすみ」と言うアレの言葉が聞こえます。


 振り返りいい笑顔を浮かべ軽く頭を下げて、室内に入りると扉を閉め鍵をかけました。

 ふーと息を吐き出すと同時に、咽返るようなバラの香りに急ぎ換気するため窓を開け放ちました。


 ふいに視界に捕えた暗闇の中輝く白と青の二つの月が、そっと優しい明りを地に降ろしている様を見つめ、こちらの世界へ来てからの日々が思い出されました。


 まさか、自分がアレの傍にいることになろうとは……。はぁ~、初日からこれとは、先が思いやられますね。今後は鍵をしっかり締めなくては……シシリーさんの言葉はこう言う意味だったのですね……。


 ため息をひとつ零し、メイド仲間の彼女の言葉を理解した私は、現実に引き戻されるように視線を室内へと戻します。

 埋めつくさんばかりに置かれたバラを、どうやって処分しようかと腰に手を当て、考えていると扉を誰かがノックしました。


「はい?」


「ごめんなさいね。リアさんに伝え損ねたことがあったので来たのですが……少しいいかしら?」


 ミリス様と思われる声に、「今すぐ開けます」と返事を返した私は、足音を立てないよう気をつけながら急ぎ足で扉へと向かいました。 

 開けた扉から中を見たミリス様は、ひと目で何があったのかを察して下さったようで「お話は後にして先に片づけましょう」そう言って下さいます。


 この方がメイド頭たる所以はこう言った察しの良さも含まれているのかもしれませんね。

 感謝しつつ、ミリス様の言葉に同意すれば「他の人にも手伝って貰いましょう」と言い残し、他のメイド仲間にも声をかけてくださいました。


 5人ほどの人数になったところで、ミリス様に連れられて既に就寝前だったらしいメイド仲間たちが私の部屋の前へとやってきました。

 中を覗き皆が小声で口々に「バカボンの仕業ね……まったく……」と呆れと怒りを滲ませ言いました。


 バカボン? とその言葉の意味がわからずシシリーさんに視線を向ければ、耳打ちでアレの事だと教えてくれました。

 バカボンとは、バカなお坊ちゃま……と言う意味なのだそうです。ただ略しただけのようですが、非常に的確だと感じたのです。

 

 その後、皆の手を借りて漸くバラを片付け終えたところで、明日の朝のアレの部屋での支度の手伝いについては初日と言う事もありミリス様も一緒に同行して下さると伝えて下さいました。

 ありがたい申し出とお手伝いに、丁寧にお礼を伝えて解散となりました。


 本当に、あんな量のバラをどこから持ってこさせてのでしょうか? 皆さんが手伝って下さらなければ朝までかかっていたかもしれません。


 ハタ迷惑な求愛を繰り返すアレに、今後どう対処したものか……そんなことを考えながら、湯あみなどを済ませた私は、きっちりと窓と扉を施錠したことを確認して就寝しました。

 

足を運んでいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価を頂いた皆様本当にありがとうございます。

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