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もう放棄したいです。

 学長室へ向かう道すがら窓の外の美しい庭木に視線を投げて歩いていた。そんな私に公爵様が振り返り名を呼ばれる。


「どうかなさいましたか?」


 何かを決断したような公爵様の表情に私は首を傾げるしかできなかった。

 そして、重い口を開いた公爵様の言葉をただ、ただ脳内で呆然と反芻する。


――リア嬢、もし、もしもだ。今、君に思う相手が居ないのであれば……倅の、シュリハルトの事を少しだけ将来の相手として見てやってはくれないだろうか?


 いや、いや、いや、ない。ないよね? あれ? ないですよね? だって、アレとマリアーヌ様は婚約者じゃないですか? なのになんで私に……というか、年齢的にありえないですよ!


 頭の中でにんまりと笑うアレの顔が浮かびイラつきながら否定する。更に、マリアーヌ様のあの悲し気な表情が浮かび、絶対ないと決意して公爵様に告げようとした矢先、公爵様の口からとんでもない言葉が聞こえた。


――実は、ここだけの話なんだが……マリアーヌにも想い人がいるんだ。我が家のためと仕方なく彼女は婚約を承諾してくれたのだが、愚息の行動にいい加減限界だと言われ始めていてね……いやぁ、まいったね。


 苦笑いしながら言われたこの言葉に、私の頭は完全に考える事を拒否してしまった。返事が出来ないまま。ただ、庭に植えられた樹木だけがスローモーションのように視界を過ぎ去る。


 昨日も見た古びた色合いの扉を前に公爵様が立ち止まり、ノックをすると直ぐに「どうぞ」と返され中へと入った。見える室内の一人ががけのソファーには、昨日と同じく国王様が、その後ろには宰相様が立ち。右側のソファーに学園長が座っている。三人は何事か談笑していたようで僅かに笑みをその顔に乗せていた。


 給仕の男性が紅茶を運びテーブルに並べ終えると部屋を出ていく。扉が閉まり室内には私を含め五人の人がいるにも拘らず、シンと静まり返り息遣いだけが聞こえた。


「…………さて、リア嬢。まずは昨日の愚息の件について謝らせて欲しい」


 国王様は私を真っすぐに見つめ、紳士に言葉を紡いだ。


「君に指摘されて初めて気づかされた。愚息には継承権を破棄させた。これからは平民として生きていけと伝えてある。自身が馬鹿にした平民がいかなる生活をし、苦労しているのかしっかりと己で見つめなおせともな」


 中々にきつい罰をお与えになったようです。これまでなんら不自由のない王宮暮らしから一転、平民として生活をしなければならないとは……しかも、継承権を破棄させた時点で、そうそう王宮に戻れることはないでしょうし。自業自得ですよね。


「それと、男爵家の令嬢だが……彼女の方は、彼女の両親が辺境伯へ謝罪を申し入れ、辺境伯家もそれを受け入れたようだ。彼女自身は、修道院へ行かされる」

「そうですか。辺境伯家のご令嬢にその後なにも無ければいいです。彼女こそ被害者ですから」

「そこは、こちらも十分に気にかけておく」


 国王様の報告に頷きながら話を聞き、気になる点だけを伝える。と言っても私には貴族のアレコレは判らないので、辺境伯家のご令嬢が後々悪し様に言われなければそれでいいと納得できた。


「それでだな……。その昨日、貴方が激怒した理由なのだが……」

「申し訳ありません。私達なりに考えはしたのですが、どうしてもその理由がわからず……」

「よろしければお教え願えませんでしょうか?」


 国王様が言い出し宰相様が引き継ぎ、学園長が頭を下げた。

 なんだこれ? と思わなくもないが、父と変わらないぐらいか少し下位の男性四人に頼むと頭を下げられれば答えないわけにはいかない。

 どこか諦めの境地で「今から何を言っても罪に問わないと誓っていただけますか?」と聞けば、全員が強く頷いてくれた。

 

 私が昨日、激怒した理由は、箇条書きすると分かりやすいだろう。

 一、国家ぐるみで騙し利用しようとしたこと。

 一、平民である私に貴族の問題を押し付けようとしたこと。

 一、嘘の情報を与えたこと


「――と言う事で怒った訳です。信頼とは相手を信じる心が無ければ得られない事は貴方がたが一番わかっていらっしゃるはずでしょう?

 なのに、貴方がたは公爵家とマリアーヌ様と私が交わした契約を利用して、私の信頼を踏みにじるどころか平民でしかない私に、自分の息子の事を丸投げし、最悪の場合責任は私にと擦り付けたも同然ですよね?

  例えば、辺境伯家のご令嬢が、王子が、男爵家の令嬢が、一生消えない傷を負った場合。私は自分の命を差し出せと命じられる可能性もありましたよね? そこに怒りを感じない人はいないのではないですか?」


 押し黙る四人に視線をそれぞれ投げかけた私は「違いますか?」とこちらから問いかけた。苦渋気味に顔を顰める面々は、自分たちのしたことに今更ながら後悔しているようで、押し黙りまたも沈黙が続いた。


 まー、契約は既に破棄させていただく方向で公爵様と話がついていますし。今後私が関わる事はないでしょうけどね。ただ……アレの事はきっぱりと断らなければ……ぶっちゃけ、顔だけは好みですけど、性格とあの行動と年齢的な理由でお断りしたいです。

 アラサーにも近い私が、十代の男と……無理ですよ。ガラケーとスマホ位の年齢差なんですから!


 先ほどの公爵様の問いかけと言うかお願いの件が再び頭に浮かび考え込んでしまった。それを頭を振る事でその事を頭の隅に追いやり、再び顔をあげると公爵様たちへと視線を向けました。


「それで、今後の事についてはどうお考えなのでしょうか? 一応聞きますが、それに必ず従うつもりはありませんのであしからず……」


 押し黙ったままだった公爵様が国王様と学園長へ視線を向ける。お二方が頷いた事で何かの許可を得たのか、代表して公爵様が今後の希望などを聞かれました。


 私の希望としては、自分に関する事を調べるのと世界について図書館で調べものがしたいのと……後は働き口ですよね。

 考えを纏めたところで、希望を口頭でお伝えする。


 すると学園長がそれならば「学園の講師をして欲しい」と改めてお願いされてしまった。その理由をお伺いすれば、最近の若者たちは勉強の態度があまりよろしくないそうだ。

 具体的に言えば、集中力がかけ気味な上、講師の話をあまり聞かず、己の趣味の事しか興味を示さないという。

 

「まるで、現代日本の若者のようですね……」

「ゲンダイニホンノワカモノ?」

「いえ、お気になさらず……」


 かくいう私も、その若者のの一人なんだけど。自分で言うのもなんだが、興味のある事以外正直学校の授業なんて聞いていなかった。そんな私が若者に何を教えればいいのだろうか?


「リア嬢には、やはり武術の訓練を頼みたい」


 学園長の言葉に私は逡巡し「ですが、あれは……けがなどをする恐れもありますし……」と言葉を濁した。

 実際、訓練は怪我など日常茶飯事である。それ故、後々また命云々の話になるのは非常に厄介である。


「そこは気にしなくていい。国が推しえて就学させる必須項目にするつもりだ。できれば学園滞在中に講師を育てて貰いたいのもある」

「何故ですか?」

「シュリハルトや我が息子についてもそうだが、貴方の授業を受け始めてから集中力が向上し、勉学にも励むようになったのだ。それに、共に参加していた騎士たちから、訓練に参加するようになって動きが俊敏になったとか、仕事が辛くないなどと言った声もあがっているのだ」


 集中力を高める瞑想を取り入れていますからそれはまーそうでしょうけど……仕事が辛くないとはどういったことか??? 意味がわかりませんが?


 国王様のお話に耳を傾けつつ首を傾げた。それはともかくとして、私は講師育成と週に二回の授業を受け持ち授業すると言う事で講師をすることになった。

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