訪ねて来ました。
退室したその足で、昨日と同じ宿を取り精神的疲労を癒すことにしました。簡素な木造りの部屋は、日本の都会の1K――約四畳ほどの広さしかありません。それでも、人に対して疲れていた私にとっては、一人になって考える時間が出来るのでありがたいことでした。
部屋に入り早々に入浴します。ゆっくりとお風呂に入り、上がった後は、帰り道で買ったパンと串焼き、果物で食事を済ませ、ベットに横になりながら昼間の事を思い出しました。
国王様は褒章を出すと仰って下さいましたが、正直その褒章を受け取る事が罠なのではないかと考えては、まさかね……と思い直し。結局、答えは出ないまま布団の癒し
に負け眠ってしまったのです。
翌日、久しぶりだと感じるほどに深い眠りを堪能してました。意識が僅かに浮上したところで、何度も部屋の扉がノックされている事に気付きます。ノロノロとした動きで、扉の前に立ち「どなたですか?」と聞けば外からアレの声で「私だ」と聞こえました。
「申し訳ありませんが、少しお時間を下さい。まだ起きたばかりで……支度が出来ていないのです」
「……わ、わかった」
僅かな時間、間があいてアレの返事が了承だった事に胸をなでおろし「ありがとうございます。直ぐに支度します」と伝え急いで支度を整えました。鍵を解除して扉を開いたそこには、何故か大きな荷物を持ったアレがいます。
「馬車の時間にはまだ早いようだが、そろそろ馬車止めに向かうのだろうと思って先にリアの所へ来たんだ」
そう言いながら部屋へ入ったアレは狭い室内を見回し、ベットへ視線を向けたままフリーズしたのです。何事かとアレの視線を辿れば、慌てていたためベットの上に脱ぎ捨てた夜着がありました。
「まさかとは思いますが、変な想像してたりしませんよね?」そうジト目を向け、アレを見つめます。すると私の言葉を聞いた途端、あからさまに視線を彷徨わせ頬を染めたのです。
「いや、その……リアのよ、夜着姿を想像……してなどいない」
慌てて弁解しようとしたせいでドスンとなるほどに詰め込まれたバックを床に落としたアレが「うっ!」と呻く声を上げしゃがみ込んでしまいます。どうしたのかと見れば、見事にバックがクリーンヒットしていました。
「その荷物はなんですか?」
分かり切っていますが、一応確認です。
「リアがこの国を出るのなら、私も共に行くと昨日伝えただろう?」
「本気だったんですか?」
「そうだ。私はもう君に以外欲しくない。だから、君が振り向いてくれるまで君の側にいると決めたんだ」
「……はぁ」
本気で一緒にこの国を出るつもりのようです……迷惑な。引き下がらせるには、言葉で伝えるべきでしょうけど……コレの性格的に絶対聞かなそうですし、私は何でも出来ると言いそうですよね。やって見なければわからないとは言いますが、確実にわかり切った事をやらなきゃいけない、この疲労感をどうにかして欲しいです。
ひとつ息を吐き出し椅子に座った私は期待を込めてこちらを見つめるアレに言い含めるべく言葉を尽くして話をします。
理由を連ねて、一緒に行くのは無理だとお伝えする度に、大丈夫だ。問題ないと言った言葉が返されました。
「その気持ちは嬉しくもありますけど……。一緒に行動することになると宿の費用や食費、生活面での金銭が大量に必要になりますよね? ただでさえ、私は公爵家に支払いをしなければならないので……そうなると、お坊ちゃまが居た所で足手まといになるです」
「大丈夫だ。家を出たとしても父上ならば多少は支援してくれるだろう」
「ですから……はぁ……」
どんなに言葉を尽くしても同じことの繰り返しに言いかけた言葉を呑み込み、心の底から溜息を吐き出しました。言い募る事にも疲れ果てたため、無言で椅子から立ち上がり一度解いた荷物を再びまとめはじめました。
背を向けて荷物を纏める私にアレは何を思ったのか突然「リアが行くのなら私も行く。だって、私はリアを心の底から愛しているから。君が居ない人生なんて、死んだもどうぜんだ!」と仁王立ちで豪語したのです。
…………そして、私の方が諦めました。
「あぁ、もう分りましたから……少し落ち着いて下さい。他にも宿泊されているお客様がいるのですよ!」
控えめの声でそう諭せばアレは「すまない」としょぼくれ椅子に座り直します。なんでこう言うところだけ聞き訳がいいのでしょうか?
アレの様子に呆れつつ纏めた荷物を手に持ちます。そして、座るアレに「行きますよ」と声をかけ部屋を後にしました。
宿屋の女将さんに部屋の鍵を返して、宿の入口を開けたところで豪奢な馬車が三台連なり宿の前へ停車しました。開けられた馬車から降りて来たのは見知った三人です。
馬車から優雅に降り私の姿を見つけるやマリアーヌ様は、可憐なお嬢様走りで走り寄り「リアさん。シュリハルト様を知りませんか?」と慌てたように聞かれました。無言のまま宿の入口を見れば、マリアーヌ様もそちらへと視線を流されます。
タイミングよくアレが宿屋の扉から出てきたかと思うと私の目の前にいたはずのマリアーヌ様が、飛び上がりアレの頭頂部目掛け踵を振り下ろします。
突然の事だったにもかかわらずアレはマリアーヌ様の姿を確認するより早く、腕を使い振り下ろされた踵をいなしていました。
一瞬の出来事に驚き、惑った私は数歩後退り、眼前で繰り広げられた事の顛末を呆然と見つることしかできませんでした。
文章がグダグダなので、後ほど体調がいい時に書き直しします。




