本当の事~
場の空気が、ヤラカシタ感満載ですが……どうしたらいいですか? 怒りの余りやってしまったのです。本心ではありますが嘘偽りは言っていません。ですから、この場で即、処刑とか断罪とかだけはどうにかなりませんか……ね。なんて心の底では思っているのですが、それを表面=表情に出すことはしません。えぇ、メイドですから……あぁ、今すぐ私は、日本に帰りたいです!!
長い長い沈黙の後、漸く動いたのは国王様でした。沈痛な面持ちで私の方を見ると瞼をきつく閉じ、何かを決意するかのような瞳を私と王子へ向けられました。
「確かに、リア殿の言う通りだ。国王とは民のためを思い国を治めるべきだ。なのにこやつは……その民に対しごときなどと……。これは間違いなく私や周囲の教育方針が間違っていたのは否めない。だから、どうかその怒りを今は抑えて欲しい」
「申し訳ございませんでした」
国王様は、そう言葉をこぼされるとほんの一瞬でしたが眉根を下げ苦笑いに近い情けないようなお顔をされました。国王様の言葉を聞いていた宰相様と立ち上がった公爵様が、その立場から謝る事の出来ない国王様の代わりに私へと頭を下げられました。
「なっ! 父上何を!! このような女など処刑すればよいではありませんかっ!」
「ばっ、ばかものがっ! リア殿の言に間違いはない!」
「そうです! リアを処刑など私が絶対にさせません!」
お二人が頭を上げられるよりも早く、第二王子がまたも暴言を吐きつけます。処刑と言う言葉に、私の心臓が大きく跳ねます。それを抑えるため深呼吸をしている隙に、国王様は自分の息子を叱り、何故かアレが出張ってきていました。
公爵子息にしか過ぎない貴方が、処刑を指せない権利を得ることはありませんよ? とこんな状況でなければツッコミを入れたいところですが……。今の状況ではほんの一ミリ程ですが、頼もしく思えました。
「何故ですか!」
「お前は何を勘違いしているのだ! そなたがしたことが原因であろう! ならば、相手に頭を下げ、強力を願うべきであろう。違うか?」
どうやら、何かをやらかしていたらしい第二王子は国王様の言葉にぐっと詰ります。言い返せないと分かるや否や、今度は私を凄い形相で睨んできます。
雑魚集が凄いですこの王子様……。
「まぁ、とりあえず……その、せ、説明を続けさせていただきます」
非常に言い難そうな声をあげ、手に持ったハンカチで額をしきりに拭きながら宰相様が勝手に事実を話し始めてしまいました。
え、この状況で、まだ、私の協力があると思っているのですか?
宰相様のお話しによれば……本筋はほぼほぼ割愛しますが……。
第二王子は幼い頃からの婚約者である辺境伯家の婚約者が、自分には興味が無いようなそぶりを見せるため気に入らなかった。で、学園に転入する形で入学した男爵令嬢が好みのタイプで、可愛く笑って甘えて来るから好きになり相思相愛になったと……。
そんなある日、婚約者に虐められていると男爵令嬢は泣きながら告白、恋人である馬鹿……失礼、第二王子はそれをそのまま婚約者に問いただしてしまう。結果、王家に辺境伯家から苦情と言うよりは「お前のとこの息子何考えとんじゃぼけー、うちの娘中洲とはいい根性しとるの~?」と言うような内容――私の妄想ですが――の書面が届いて事が発覚したらしい。
「――どうか、お願いできないでしょうか?」
「ご家庭の事はご家庭で解決を……今更ですから言わせていただきますが、白黒つける前に浮気したこい――第二王子が悪いのでは? 自分の尻は自分で拭いてください。うましかに割く時間はありませんから」
再びお願いの体制に入った宰相様を前に、より一層笑顔を深め完全拒否の姿勢を示せばマリアーヌ様を始めとした各々が深く項垂れました。顔を上げていたのは私を睨む第二王子と微笑むアレだけです。
「お、お前のような――「あぁ、そうだ。リア、この後良かったらお茶に行かないか?」
完全に第二王子とその場の空気を無視したアレの発言に視線を向けることなく「お断りします」と返事を返します。まぁ、アレのお蔭で、第二王子は再び黙ったのです。
あぁ、笑いたい。腹の底から指をさして爆笑したい!
「何か解決策などはありませんか?」
宰相様の言葉に、このまま拘束されるのは嫌なので少しだけ考えてみます。と言っても私が考えられるのは一般常識なんですけど……。考えると言っても、協力はするつもりないので前もって伝えます。
「今回の件、ひとまず私は協力はしませんが、一緒に考えるだけは考えます。よろしいですか?」
「あぁ、そうしてくれ」
元気のない声の国王様が許可してくれました。これで言質は取れたと思っていいでしょう。とりあえずは気になったことを聞いていきましょう。
「それではまず先んず、気になった事なのですが……今回の件に関して、お二人の意見は聞かれたのですか?」
「……長期休暇中だったため、これから行いたいとは考えていました」
「休暇中だから……? 虐めの現場云々の前にまずは、件の令嬢お二人の言い分を聞くのは当然ではないのですか?」
あれ? 私の常識がおかしいのでしょうか? 常識的な話をするのならばどちらの話も聞いて、その上で判断するはずです。
「件の婚約者様を追求したと仰っていましたが、その時はどのような状況だったのですか?」
「それは……」
私の問いに答えようとした第二王子が、またも言葉に詰まります。それに答えたのはマリアーヌ様でした。
「わたくしがご説明いたしますわ。あの時、殿下は男爵令嬢の言葉だけを聞き入れ、一方的に辺境伯令嬢を攻め立てたのですわ」
「ま、マリアーヌ!」
「あら、事実を言っただけですわよ?」
何食わぬ顔で視線を逸らしたマリアーヌ様は多分その場にいたのでしょう。
なるほど……そりゃ怒るのが当然ですよね。なんとなく話が見えた為、私は質問をやめました。
「ではこれから皆さんが行うべきである事を言いますので、頑張って解決してください」
そう私は言い、指を一本ずつ立てながら今後するべき事をお伝えしたのです。その内容は、常識のある人なら当然の事なのです。
一、当事者をそれぞれ別の部屋に呼び出し、第三者が話を聞く。その際、相手に違和感を感じないかどうかを視線を見て確認する事。
二、その結果により、辺境伯令嬢に非が無い場合、それ相応の罰もしくは罰金を相手と王子に課す事。そして、相手方に対し誠心誠意ごめんなさいと謝る事。
以上です。
今回の件どう見ても第二王子と男爵令嬢が悪のような気がします。その理由としては、辺境伯家が王家に対し苦情を申し立てたことです。
もし悪事がばれたのであれば逆に王家に何かを言う事はしないような気がします。それについでに聞いた辺境伯家のご令嬢の印象は、律儀で礼儀正しい方のようですからそう思いました。
足を運んでいただきありがとうございます。