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言い訳ていうか、話違うよ?

 次の日、早朝に出る予定の馬車に乗るため、宿を出て馬車乗り場へと移動します。追いかけられようと何かを言われ説得されようと、本気でどうでもいいのです。

 未だ収まらぬ怒りに悶々しながら、馬車を待っていると直ぐ側で豪奢な馬車が一台停車しました。見慣れたその馬車から降りたのは、顔を青くしたアレと俯いたマリアーヌ様でした。


「リア!!」

「……」

「なんですか?」


 名前を呼び駆け寄るアレに、八つ当たり気味に睨みつけ冷たく何かと言い放ちます。その場でピタっと止まったアレは僅かに俯きながらも再び私へと歩み寄りました。

 馬車を降りたまま動かないマリアーヌ様は、俯き表情が見えません。


「リア。事情はマリアーヌと学長から聞いた。話がしたい」

「申し訳ありませんが、私はもうあなた方に関わりたくありません。ですので何を言われようと二度と皆さんに関わるつもりはありません。もし国が捕えると言うのであれば、その場で死を選びましょう」

「何を!! ダメだ。自分から死ぬなんて言っちゃだめだ!」


 今回の事で国がどのように動いてくるのか分からない。完全に私の中では決裂した事柄である以上、捕えられる可能性もあるのだ。ならば、己を守るため……そうするしかない。私には、身分も地位も自由もないのだから……。


「リア、頼む。話をしよう。誤解があるかもしれないだろう?」


 必死に言い募るアレに首を横に振り、これ以上は無理である事を伝えるが握った手首を離さない。


「申し訳ありませんが、もういいのです」

「良くない! わ、わたしは……」


 先の言葉を詰まらせたアレは左手をきつく握り占め、眉根を寄せ俯きました。そこへ王都行の馬車が到着します。握られたままの手首を持ち上げ、アレの指をゆっくりと外していき、全てが外れたところでお辞儀をします。


「お世話になりました。不躾なお願いになると心得ておりますが、一つだけお願いがございます。もし、次に私と似たような境遇の者が現れましたならば、是非その者にもよくしてやって下さい。頼れるものもなく、たった一人何も知らない場所へ放り出されたその人はきっと心細く、涙を流しているでしょうから……」


 偽善的な言葉かもしれません。ですが、こうして決裂してしまいましたが、私は実際に心を救われました。だから、もし次の人がくるのであれば、その人にも良くしてあげて欲しいと願います。

 顔を上げ背を向け、馬車へと一歩踏み出した私を「待って!」とマリアーヌ様が涙ながらに叫び「全部話すわ。だから、全てを聞いて答えを出して頂戴!」と強く言い切られました。


 聞いたところで答えは変わらないそう思いながらも、明日の馬車に乗る事にして話を聞くことにしました。自分でも甘いと言う思いはあります。ですが……マリアーヌ様にはこれまで出自が不明な私に、何も聞かず働く場を与え暮らしていけるよう取り計らっていただいた音があります。だからこそ、聞くと言う姿勢を取ります。


 アレに再び手を握られ、馬車へと乗せられた私は再び学園の学長室へと戻されます。なんでしょうね。このデジャブ感……。

 開けられた扉の先には、椅子に座る国王様と公爵様、そして学長と初めて見る二十歳前後の男性と宰相が国王様の後ろにいました。

 今、ここにいると言う事は、全員が結託していたと思って間違いないでしょうね。でなければ忙しいお二方がここへ来るはずありません。


「座ってくれ」


 そういった国王様の言葉に逆らい不敬だろうと知りつつも、扉の側に立ったまま私はソファーに座らず話をする体制を取りました。


「このままで結構です。お話があるのでしょう? 手早くお願いできませんか?」


 私の冷めた態度に眉根を寄せ不快感をあらわにする宰相。王子と思われる男性は、立ち上がり私の方へ歩いて来ようと動き出したところで国王様によって「よい」と止められました。

 大きく息をついた国王様は、椅子に座ったまま本来の経緯を話始められました。


「リア殿。今回の件について学長から聞いたそうだな。だが、それにはある情報が秘匿されている。それは――」そう言って先ほど立ち上がろうとした男性に国王様は視線を投げました。


「私の息子である。第二王子のヒースクリフの事だ」

「失礼ですがお聞きしたいことがあります。第一王子様よりも、年は上に思いますが?」


 私の質問に「第二王子様は、側室であるヒルデガルデ様のお子様です」と宰相が答えた。その答えから導き出せるこの国の王位継承権は、正室――王妃様から生まれた子、第一夫人の子、など産んだ母親の位によって決まるのだろう。


「それで、その第二王子様と今回の件がどうつながるのですか?」

「うむ。実はな……ヒースクリフには、幼い頃から婚約していた者がいる。だが、その者がヒースクリフを慕う令嬢を虐めていると言うのだ」


 なんでしょう……この話どこかで聞いたことがあるような、ないような? と言うか、私の聞いた話はどこにいったのでしょうか……??


「あの、度々申し訳ありませんが……私がうかがった内容と異なるような気がするのですが?」


 私の疑問に答えたのはまたもや宰相でした。


「それについては、第二王子の事だと知られないようにするため侯爵家……辺境伯家のご令嬢が婚約者様で、男爵家のご令嬢がいじめられていると主張されている方です。家云々は、より真実味をもっていただく為にこちらで用意したシナリオです」


 なるほど……って、面倒なのはかわらないのですけど? 貴族に命を……って言ってたのに王族が関わっているとは……やっぱり聞かなければよかったです。


「それで、真実を話して、また、私にイジメの現場を作れと?」

「それは……「庶民ごときが、王の言を拒否するとは何様のつもりだ!」


 私の言い方が余程気に食わなかったらしい第二王子は、顔を顰め言葉を発した国王様の言葉をぶった切りイラつくように叫びました。その声に国王様を始めの全員に緊張が走り、視線は私へと向いたのです。


「なるほど、権力を使い拒否すれば今度は、恫喝ですか? 本当にもうお話しすることはないようですね」


 既に騙されていたことが分かっているのです。思ったことを包み隠さず言葉にしたところで何もかわりません。


「なんだと?!」

「あぁ、もうめんどくさいなー!」


 更に恫喝しようとする第二王子にブチっと何かが切れた私は腰に両手を当て仁王立ちして今思っていることを全て静かに怒りを乗せ言葉にしました。


「あんたは……はぁ。王子だからっていい気になるんじゃないわよ? 平民? 庶民? だから言う事を聞け? 貴族が、王族が裕福でいられるのは、その平民や庶民が必死で稼いだお金を税金として納めてくれるからでしょーが! 違うの? 庶民を馬鹿にしたような事いうんじゃないわよ! それから、貴方様も国王なら国王らしく、自分の息子の事ぐらい自分で尻拭かせなさい! 何でもかんでも他人任せにしないで、自分の息子の行動とかその周囲とかきっちり管理して間違っていたら教育するべきでしょう? 周囲の人間の底がしれるわよ? そんなこともできないなら国王とか王族とか止めてしまいなさい! あぁ、腹立つ!」


 言いたいことを言いまくりすっきりとしたところで、呆然とする周囲を見てフンと鼻を鳴らし顔を背けました。


足をお運びいただきありがとうございます。

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