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命あっての物種

 何かを諦めたかのようなお二人は、視線を交わし合い数回溜息と思われるものをつくと真剣な表情になりました。両手を膝の上で組んだ学長は「ここで話した内容は内密で頼む」と言い置き説明? を開始されました。


「……実は、この学園で虐めがあっているのだ……」

「虐めですか?」

「左様……。事の発端は、些細なものだったと聞いている。だが……」


 言葉をきった学長さんは眉間にしわを寄せ何かを思い出したのか、苦々しい表情を見せると黙ってしまった。

 そんな学長さんの言葉を引き継いだのは、サジュタリア教授でした。


「どうやら、辺境伯家のご令嬢が婚約者の侯爵家の男子に男爵家の子女が言いよったと言うものなのです」


 ん? 要は、アレのような男が居たと言う事でしょうか? それとは少し違うのでしょうね……。でもどこかで聞いたようなお話しですね。


「それで?」


 先を促した私に、サジュタリア教授は全容を明かしました。その内容は、本当によく聞いたことがあるようなもので……日本で言うところの悪役令嬢モノに良くある階段から突き落とされた、物を失ったなどの内容を含むそうです。

 まぁ、そこに学園側の調査なども入り、辺境伯家のご令嬢と男爵家のご令嬢の言い分などその他もろもろ調べたそうなのですが犯人は分からず仕舞い。辺境伯の家から抗議が日々届き頭を抱えていたそうだ。

 辺境伯の家と侯爵の家から王家に相談が行き、王様から事情説明を求められた学長は、王城を訪れ諸事情を説明したらしい。

 その帰り際たまたま眼に入った真新しい道場を除いき私の訓練を見学。

 訓練場内で学生のマリアーヌ様とアレの姿を発見し訓練内容を手紙で聞き、これは使えると思ったそうです。


「……と言う事は、私はその虐め云々の為にこの学園に? こちらの都合も考えず……権力まで発動して?」


 怒りの余りプルプルと震える手を拳を作ることでなんとか抑え、学長とサジュタリア教授を見据えます。


「いや、べ、べつに無理強いは――「マリアーヌ様と公爵様を使っておいてよく言えますね?」


 そう、今回この学園に来ることになった理由はマリアーヌ様と公爵様が契約書を使って脅してきたからだ。あの日もういっそのこと契約破棄してやろうかな? とも思いましたが、お金は十分にありますが……こちらの世界での知識が未だ乏しく一人で生きていくには難しいと行動に移せずにいたのです。

 ですが、こんな、こんなくだらないことで……アレにしな垂れかかってまで得た書庫への出入りが……ムカつきます。


「それで? 神聖なる道場で、私に一体何をさせたいのでしょうか?」


 口元をヒクヒクさせながら、己の顔に青筋が浮かんでいるであろう状態でなんとか笑顔を作り学長とサジュタリア教授へ問いかけました。


「それは、その……」

「はっきりと言っていただいていいですか?」

「訓練中、例の二人を組ませてもらおうと思ったのだ」

「は?」

「件の辺境伯家の令嬢と男爵家の令嬢を訓練中組ませ、本当に虐めがあるのかを……その、見てもらおうと思ったのだ。も、もちろん学園側はこのことで君を責めることはない」


 慌てたように付け足された言葉に私は疑問を感じます。

 実際に虐めが有った場合、学園側は責めることはないと言っています。ですが、御令嬢の実家の方はどうなるのでしょうか? 

 私の扱いは、平民です。その平民に対しご令嬢の実家である貴族が何かを言ってきたりしてきた場合、私は自分を守るすべを持っていません。極端な話、命に関わるのではないでしょうか? 


「それは、要するに……私に虐めがしやすいよう現場を作れと言う事ですか?」

「う、うむ。そう、そうとも言うな」

「お断りします!」


 きっぱりと断りを入れたにも拘らず、学長は「だが……」と言い訳めいた事を言い始めました。

 私はこの国の貴族がどういったものかはしりません。ですが……命さえ軽んじられるのはいい加減腹が立ちます。

 未だどうにかして私を引き留めようとする学長を無視して、ソファーから立ち上がった私は扉の方へ向かいました。そして開けた扉を先には、見慣れた顔がありました。


「あら、リアさんじゃない。学長への挨拶は……その顔は、何かありまして?」

「どうも、マリアーヌ様。学園が私を欲した理由を貴方はご存じだったのですか?」


 怒りのオーラを纏う私を見たマリアーヌ様は、言葉身近に私へその理由を聞きました。それに対し私は、彼女にも今回の件を知っていたのではないかと疑いを向けます。

 理由は簡単ですよね。来るタイミングが良すぎる事、私を学園に行くようにした事です。


「今回は授業をするのではなくて?」

「えぇ、確かに授業ですね。それ以外もあるようですが……とにかく、私はこの学園での授業はお断りいたします。こんな下らない事の為に私自身の命を懸ける気はありませんので……」

「ちょっとお待ちになって、何をそんなに怒っているのかしら?」

「理由は学長に聞いてください。

 それから、今までお世話になりました。私は、本日をもって契約を破棄させていただきます。巨額の違約金云々については公爵様とご相談後持ちうる金額をお渡ししておきます。どうぞ後ほど受け取ってください。数日内には公爵家の皆様にご挨拶をしまして、この国から出ていくつもりですのでご心配なく」


 考える事を放棄した私はマリアーヌ様に早口でそう言い残すと自分の鞄を持ち、呼び止める声を無視して学園を後にしました。

 街に降りた私は、気のいい住民の方に辻馬車の乗り場を聞き時間を調べました。馬車の出発は翌朝の五つの鐘が鳴るころだそうで、本日は仕方なく宿を取る事にしました。

足をお運びいただきありがとうございます。

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