再び??
翌朝、馬車に乗り昼過ぎには学園のあるデュリニスの街へ到着しました。広大な敷地を有する学園都市と言えばわかりやすいであろうこの街は、王族、貴族、平民など様々な方々が暮らし学んでいるそうです。
そんな街の高台にある白い壁、青い尖塔がある城のような造りの建物が貴族院の校舎なのだとか。
馬車の窓からチラリと見えた街は、学生服をきた若者や貴族と分かりやすい格好の者など様々な人が行き交い非常に活気がありそうです。
ついでに言うと、紙や筆などの販売店が多くあるように見受けました。
数回馬車の入口がノックされ「お待たせ致しました」と言う声がかかります。それに答え中から、入り口の扉を開けばミリス様他使用人仲間達が笑顔で出迎えてくれます。
馬車から降り見上げた学院の校舎の迫力に驚き、眼をみはりました。
「ようこそ、当学院へ」
「サジュタリア教授。お久しぶりです」
学院の入口から上がる柔らかな女性の声に、アレが笑顔を向け取り繕った声音を出しつつ言葉を交わします。
一応、公爵家嫡男らしい事が出来るのですね。正直こういうのは不得意なのかと思っていましたが……あぁ、そうか猫の皮を被るのが上手いから、例のご令嬢のような被害者がいるのですね。
しかし、サジュタリア教授はとてもスタイルがいいのですね。髪色は甘栗色で、瞳の色も同じ色です。お肌も髪もお手入れが行き届いているようですし、服装もどこか高級感を感じます。もしかしたら、この方も貴族なのかもしれませんね。
「――それで、こちらがリア・コシガヤ様ですね?」
「そうです。リア、君もご挨拶を」
妙な納得の仕方をしていた私へ、アレとサジュタリア教授の視線が同時に向きます。
出来る限り何事もなかったかのように取り繕い、笑顔を浮かべてスカートをチョンとつまみご挨拶いたしました。
「お初のお目にかかります。リア・コシガヤとお申します」
「これはご丁寧にありがとうございます」
挨拶をすませ互いに会釈を交わします。「では、参りましょうか? ヴィルシュ君あなたは、寮で今後の準備をしてください」と言うサジュタリア教授の言葉に、入口でアレと別れ校舎の中を案内していただきつつ学園長の部屋へ向かいます。
「こちらは――」と様々な部屋を紹介してくださりながら、学長室へと辿りついた時には、学園の敷地に到着して一時間と言う時間が過ぎておりました。
丁寧でありゆったりとした口調だったため、足を止めることが屡々ありました。内心では学長をこんなに待たせて大丈夫なのか心配でしかたありません。
漸く到着した両開きの良く磨かれた大きな扉の前で止まったサジュタリア教授は、その扉を数回叩き返事を待たずに扉を開けます。
え……流石にそこは返事を待つべきなんじゃないですか?
「……マーヤ君、ノックの意味分かっておるのか?」
どうやら中に板からも同じように思ったらしく、サジュタリア教授へ呆れかえった声がかけられます。言われた教授は気にした素振りもなく「さぁ、どうぞ?」と言って私を中へ招き入れようとなさいます。
いやいや、そこはせめて……相手に答えてあげてください。
予想外にツッコミを入れる回数が多くなりつつ、失礼いたします。と中へ入った私は、大きな執務机の奥に腰掛ける御仁へ視線を向けたのです。
「おぉ! あなたがリア・コシガヤ殿ですな?」
「はい。お初にお目にかかります。リア・コシガヤと申します」
長い髭を右手で好きながら、目じりによった皺を更に深くした御仁は、どうみてもイギリスの魔法学校の映画の校長先生にそっくりです。
「学長。自己紹介しましょう?」
「……そ、そうであったな。儂の名はシーゲル・フォストロンじゃ。この貴族院の学長をさせてもらっておる」
「ご挨拶ありがとうございます」
目上の方にご挨拶頂いたのですからと、それ相応の反応をすればその後は、締まりの無い会話が続き……結局何をどうして欲しいのか分からないままソファーで紅茶を頂きました。
「ご歓談中申し訳ないのですが……私は一体ここで何をすれば宜しいのでしょうか?」
三杯目の紅茶が差し出されると同時に、この状況からいい加減開放してもらうべくここへ呼ばれた理由を問いただします。
本来であればて適正を見る為の試験とかありそうなのに……どうも怪しいですね。マリアーヌ様に騙されたばかりですし……ここは十分に警戒しておく必要があるでしょう。
警戒しながら注意深くお二人へ視線を向け説明を求めました。
視線を彷徨わせ合わせようとしないサジュタリア教授。目は合わせて下さいますが、何も言わずお茶を飲むフォストロン学長……。
数分、否、数十分でしょうか? 長い沈黙の時間が過ぎ脱力した私は、これ以上待てない旨を伝えました。
「はぁ……お話しいただけないようであれば、私は元の仕事に戻らせて頂きます」
では……失礼。と言いかけた私の前で、サジュタリア教授が「学長これ以上は無理ですよ」と諦めた表情と口調を学長に向けたのでした――。
長らくお待たせして申し訳ありませんでした!