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お試し試合

 全員が靴を脱ぎ、汚れを掃除し終えました。

 その場に正座で座るアレのまねをして、正座をするマリアーヌ様と見知らぬ男性二人。隣国の王子は、当然のように胡坐をかきすわっています。

 騎士たちは鎧装備の為か、片膝をつき私が動くのを待っていました。


 するとアレが、騎士様に下半身の鎧を脱ぐよう指示を出します。いそいそと脱ぎ始めた騎士様たちは、鎧を角に置くと元の場所に戻り正座をしました。

 全員が話す事をやめ静かになったところで、漸く立ち上がり指導を開始します。


「皆さまには、本日より漢となっていただきます」

「男?」

「フン! 私はもう既に男として生まれている! 必要など――「シッ!」」


 話の腰を折ろうとした、隣国のバカの口へアレの手が伸びました。

 二週間ほど訓練をしただけなのに、アレはちゃんと学んでいる事を実感させてくれます。その事に、心の底から安堵しつつ、隣国の王子へと視線を向けました。


「男ではなく、漢です。

 男性と言う意味ではありませんよ?

 ハッキリ申しますが、あなた方の中で、私に勝てる方はおりません」

「なんだと!」

「まぁ、それは……フフフ」


 ざわつく道場の中を見回しながら、敢て挑発します。こう言うのは実戦で分からせた方が早いですからね。

 私の思惑を理解しているらしいマリアーヌ様が、実に楽しそうに笑っていますが……その笑顔が、何処となく怖いですよ? あの方は何処まで、分かっているのでしょうか? 敵じゃ無くて良かったです。


 誰か名乗り出ないか? そう思いながら見ていた私の視線の先で、一人の騎士が手をあげました。


「失礼ですが、自分はとても信じられません。よろしければ、お手合わせ願えませんでしょうか?」


 ナイスです! これで、実践する事ができます。


「それでは、えーっと、騎士様どうぞこちらへ」


 身長180センチ前後、体重は多分70キロ前後はありそうな赤茶の髪の騎士様が、私の横へと移動してきます。

 その方を横に立たせ、まずは自己紹介をお願いします。


「それでは、所属とお名前をお願いできますか?」

「はい。第二騎士団所属、ルニ・ムークスです。」


 堂々と名乗られたムークス様。

 とてもご立派です! 得意な武器で戦闘した方がより、私の実力がわかるでしょうから、武器を聞きしましょうか……。


「ありがとうございます。ムークス様は、お得意な武器はなんでしょうか?」

「自分は、剣術を得意としております」

「わかりました」


 彼の得意武器が剣と言う事で、壁に置かれた木剣を一本はずし彼に手渡します。


「それでは、これより私と軽く実践訓練いたしましょう。私は素手の方が得意ですので、素手で、貴方様は剣をお使い下さい。『参った』と言った方が負けです。よろしいですか?」

「了解した」

「マリアーヌ様。申し訳ありませんが、始めの合図のみお願いしても?」

「えぇ、わかりましたわ!」


 五メートルほどの距離をあけ、彼と対峙します。

 耳が痛くなるほど静まり返った道場内に、マリアーヌ様の「始め!」と言う声が響きました。


 それと同時に踏み出したのは騎士様です。

 木剣を両手で持ち、上段に斬りかかってきます。

 

 型は美しいです。威力も中々にありそうですが、甘いです。

 

 騎士様の木剣を右に交わし、しゃがんだまま足元に左足を滑らせバランスを崩させます。更に、背負う形で前に回り込み、鎧の首根っこと左手を同時にひっつかみ、そのまま背負い投げを決めます。

 ダン! と言う音と共に騎士様が大の字になります。そして、掌を刀の形にみたて、首元にコツンとあてました。


「ま、まいった」

「はい。お疲れ様です」


 寝転がったままの彼に手を差し出し、立たせます。


「ムークス様には、ご協力頂き感謝申し上げます。どうぞ、お席へお戻り下さい」

「失礼する」


 彼が元の位置に戻り、説明をはじめました。

 私が教えるのは、皆さまが知らない武術であり体術である事。男女共に学べば、確実に自分の身を守れる程度にはなる事。これを学ぶには、当然ながら忍耐・辛抱・努力が必要な事などなど、一時間ほど説明しました。

 説明する間中、正座ないし、胡坐をかいていた彼らは説明が終わるころには動く事もままらないような状態でしょう。

 あえて、その状況を作るためゆっくりと話したのですがね。


「では、皆さままずは、座禅をいたしましょう。ただ、座るだけではありませんよ。無の心です。雑念を払い、ただ静かに目を閉じ、大気に身をまかせましょう」


 皆さまにお手本を見せるかのように座禅をくみます。

 それを見ていた皆さまが、座りなおそうとした刹那、いろんな方向から「ヒ!」「ギャ!」「うおっ」と言った声があがりました。

 ひと際うるさかったのは、バカと見知らぬ男性二人です。


「な、なんなのだこれは! 僕、僕の足が!」

「あ、あにうえ……足が、足が動きません!」

「これは、まいったね……」


 騎士の皆さまは、私の言葉に足のしびれを我慢して座禅をくみました。


「もうよろしいですか?」

「まだだ! まだ足が動かん」

「私もまだ……痛くて」

「すみません。私もまだ痛いです」

「皆さまは、その程度でブチブチと仰るのですね。もし、ここが敵陣で、私が敵だったらすぐさま、殺してますね」


 私の言葉に、顔を引き攣らせてなお座禅を組もうとしない三人に辟易します。

 騎士様たちはすでに、座禅を始めていますし……いい加減始めて欲しいですね。それにしても、甘え過ぎではないでしょうか? 習う気が無いのであればもう結構ですと追いだしたいところです。


 そう考え、チラっとマリアーヌ様に視線を向けた私は、マリアーヌ様の視線を追って右へ頭ごと視線を動かしました。

 そこには、窓から覗く陛下と宰相・そして公爵様がいたのです。


足を運んで頂きありがとうございます。

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