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意外な一面!

 至れり尽くせりの状況を訝しみながらも、着替えるため休憩用のベットがある部屋へ入室しました。

 一応用心のため、周囲を確認して胴着に着替えます。

 中に着るインナーは、新しい物をえらびました。


「これは、着心地がいいですね……希望通りの綿です。素晴らしい出来栄えです!」


 我儘を聞いて下さった縫製店の店員さんに、感謝しつつその肌触り素晴らしさに感動しました。

 胴着に着替え終わり、メイドさんが待つ部屋へ移動します。


 私の姿を見た彼女は、瞬きする僅かな時間だけ驚きの視線を向けました。ですが、すぐにその視線は消えてしまいます。

 流石プロですね……私もあぁ言う風になれればいいのですが……。

 そう思いつつ自分の不甲斐なさを感じ、まだまだこれから頑張らなければならないと再確認しました。


「それでは、ご案内いたします」

「宜しくお願いいたします」


 目礼して部屋の扉を開けたメイドさんが、前を歩き約束の場所まで案内してくれました。

 廊下を歩く道すがら、出来る限り他者に気付かれないよう道を覚えるべく周囲を目線を動かす事で確認します。


 何故目線だけなのかと言えば、日本に居た頃の話ですが……仕事の研修で直属の上司から「お客様のご自宅内で、視線を彷徨わせるのははしたない事」そう習っていたためです。

 その事が私自身の身体や脳内に染みついてしまっているため、首を動かす事無く周囲を確認してしまうのです。


 騎士様もいらっしゃいますが、どちらかと言えば文官の方が多い区画なのかもしれませんね。豪華な飾りなどはなく、執務室の扉が目立つような感じの通路を右へ曲がる。

 そのまま直進して……、あの噴水は目印にできそうですね。

 などなど、己の脳内に部屋までの地図を描きました。


 騎士や兵士の姿が目立つようになった所で、メイドさんが立ち止まり私の方を振り返ります。

 そして、徐に先の通路に手を伸ばし視線を向けました。


「こちらの先にあります訓練場が、リア・クマガヤ様の道場になります」

「そうですか」


 丁寧な言葉遣いで、この先に道場がある事を説明して下さいました。


「それと……大変申し上げにくいのですが」そう言ったん区切って、少しだけ声音を落とす彼女はこうも付け加えた。

「ここは国に使える王国騎士や兵士の訓練場兼、詰所にもなっております……ですから、その……ご注意ください」

 

 そう言われてしまった。

 注意とは、何に注意するのでしょうか? よく分かりませんが、注意はしておきましょう。

 

「わかりました。ご説明いただきありがとうございます」


 微笑みを浮かべて、感謝の念を伝えれば彼女も少しほっとした顔で頷きました。

 再び前を歩き始めた彼女について歩を進め、漸く道場が見えてきます。


 そこには、予想以上の人数の騎士たちが周囲を囲み、用意された観覧用のテーブルと思われるものにアレ、マリアーヌ様、隣国のソレと見慣れない男の人が座っておりました。

 三人と、見知らぬ男性はどうやら顔見知りのようで、一見楽しそうに談笑しながらお茶をされています。


 マリアーヌ様の背後に、雄々しい蛇が見えるのは気のせいにしておきましょう。

 また、アレが何かやったのでしょうか? 否、これは隣国のソレのせいですね……。

 足を勧める度、よく見えますね……嫌がる女性にセクハラはよろしくありませんね。


 しかしよくここまで、口頭のみで再現できたものです。そう思いながら、道場の中央に立ちグルと一周見回します。

 体育館のそれとよく似た作りの道場は。真新しい木の香りに包まれ、天井には雨よけの為組み木の上に布が張り巡らされています。

 そして、重要な足元には。板と藁で出来た畳が敷き詰められていました。

 硬さを確かめるため何度か足で踏み、その質感を確かめます。


 どちらも申し分なく、これならば怪我はしないでしょう。

 しかし、色々と気に入りませんね……陛下と宰相様からは、私の自由にしていいと言うお言葉を頂いておりますし……ここは、ひとつキチンと皆さまにご理解頂きましょう。

 

 一度大きく深呼吸をした私は、目をつむり気持ちを落ち着かせます。

 そして、その場にいる全員に聞こえるよう声を張り上げました。


「皆さまにごきげんよう」


 私の声に談笑していた四人と騎士たちが一斉に此方を向きます。

 言葉は丁寧でも、断固として譲らぬ姿勢で臨まねばなりませんね。こう言った輩は、始めが肝心ですからね。


「失礼ながら、ここでは私のルールに従っていただきます。

 まずひとつめ、ここは土足厳禁! 必ず入り口にあるあちらで靴を脱ぎ入室して頂きたいます。

 ふたつめ、ここはサロンではありませんよ? 教えを請うのであれば、貴族、王族であっても座して待つのが通りです!

 みっつめ、ここでは女性に対しセクハラ……じゃ伝わりませんね。不逞な行為は避けて頂きます。

 よっつめ、この道場内だけは貴方がたの身分がどうであれ関係ないと思っておいてくださいませ。

 以上を守れないのであれば、ここから出て行ってくださいませ。

 お帰りは、あちらです!」


 ひとつ、ひとつを分かりやすく丁寧に伝えます。

 最後には入り口を振りかえり、わざとらしく指し示しました――。

 それで、全員が帰るようであればそれでいいです。


 言質は取っておりますし、陛下や宰相様に苦言を言われたとしてもなんとななるでしょう。

 余りにも面倒な場合は、有り金全部を持ってこの国を出て行くだけですしね……。

 

 ハッキリと意思を伝え、道場の中央に正座します。

 しばし待つことになるだろう。そう思っていた矢先、アレが声をあげました。


「全員、靴を脱ぎ入り口へ持って行きましょう。リアの言う事は絶対です!

 マリアーヌ。貴方も靴を脱いで、それから汚れた部分は布を持って拭き掃除を!」


 一番道場と言うものに触れあっているのはアレですけど……まさか、アレが一番に声を上げ、動くとは思いませんでした。

 率先して動くアレに、私はただ静かに驚き注目しました――。


足を運んで頂きありがとうございます!

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