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出会から最悪です。

 私がこのお屋敷にお勤めを始めましたのは、つい三月ほど前のことでございます。

 突然、見たことも無い街中に放り出され、放心状態だった私の前に近くを通りかかったバッスルスタイルのドレスを見に纏った女性が、声をかけてくれました。

 

 その方は、貴族のお嬢様だったようで右も左もわからない私へ丁寧に、この街や国についての説明をしてくださいました。


 そして、その方のご自宅に招いて頂きお世話になったのですが、いつまでも落ち込んでいてはご迷惑になるし、自分の稼ぎで食べることができないと悟った私は、その方のご紹介である貴族様御用達の飲食店で働きはじめました。


 働きはじめて3日目……アレがマリアーヌ様をエスコートして店へと訪れます。

 マナーなどとても優雅で美しいと言えるでしょう……しかし、その視線が気持ち悪いものでした。

 食器やグラスなどを片付ける、給仕係をしていた同僚の胸元が見えるたびニヤっとその口元があがるのです。


 本当にありえない……そう思いました。

 マリアーヌ様もご存知だったようで、何度も咳払いをされていたにも関わらず……アレは、気付きません。そんなアレと視線が合った刹那、なんとマリアーヌ様をそっちのけで立ち上がり私の元へと歩いてきました。


 私の目の前に立つと、私の両手を握り、そしてそれを包み込むよう更に両手で両手を掴み……こうのたまったのです「あぁ、美しい人。是非お名前をお教え願えないだろうか?」その瞬間、私の身体には悪寒が走り、今まで感じたことの無いほどの不快感を感じました。


「は? 気持ち悪いです。触らないでいただけませんか?」


 つい、お客様であることを忘れ、本音がそのまま口をついて出てしまいます。その言葉は確かにアレの耳に入ったはずなのに、更にアレは言葉を付けます。


「そんな冷たい事を言わないでレディ。僕のハートは君だけのものだ……」


 そう言うと、私の指先へその汚らしい唇を近づけキスを落とそうとしました。咄嗟に両手の腕を引き寄せ、それを回避します。


「必要性を感じないのでお引取り下さい」


 引き攣った笑みでそう返すのですが、アレは引こうとしません……。

 もう、これセクハラで訴えていいですよね?


「つれない君も美しいね。

 そんな君が私だけに笑いかけてくれたならば……私は天に召されても後悔はしないさ」


「どうぞ、召されて下さい。今すぐ」


 私は、この時このセリフをいいながら、きっと死んだ魚の様な目をしていたことでしょう。

 そんな私の態度を見ていた、婚約者であられるマリアーヌ様が、はぁ~と大きな溜息を吐き出すととても素敵な笑顔でこちらへと歩いていらっしゃいました。


 そして、赤いドレスをふわりと靡かせ、その細く美しいおみ足を振り上げるとアレの背に向け振りぬいたのです。

 優男のような笑顔をしていたアレは、一瞬の内に驚愕と痛恨の表情を乗せるとそのまま横へと吹っ飛んで行ってしまいました。


 店内にいらっしゃったお客様が、驚き固まったのを余所にマリアーヌ様は、吹っ飛んだアレの元へ歩いていくと、その首根っこを掴み引きずりながらお帰りになりました。

 

 そうして、数日後……今度はマリアーヌ様お一人でご来店されます。

 その日も私が給仕を担当しお食事が済んだところで

「ねぇ。あなた……ここより高いお給料をお支払いいたしますから、是非私のお願いを聞いてくださらないかしら?」と仰います。


 お給料が高いのであれば……考える余地があると思いました。


「内容はどういったものでしょうか?」


「うふふっ、簡単なことよ」


 そう言うとマリアーヌ様は、食後のティーをひと口飲まれ、カップを置くと……可愛らしい表情を邪な表情に変えます。


「あのバカを矯正してほしいの」


「お断りします」


 にべも無くお断りする旨を伝え、席を離れようとした私の腕をマリアーヌ様はその細い指からは考えられないほどの握力で掴まれます。

 ふぅ~。と息を吐き出し、お断りする理由を陳べようと口を開いたところでマリアーヌ様の瞳がうるうる潤みだし「ここの5倍は出すわ! お願いよ」と言われてしまいます。


 5倍と言う破格のお値段に……私は頭の中で思考しました。

 お金を取るか、保身的安全を取るか――そして、決断を下しました。


「仕方ありません。お引き受けいたしましょう。本当に5倍なのですね?」


「本当! 嬉しいわ。もちろんきっちり5倍のお給金をお支払いしますわ」


 そう言うと、私を掴んでいた指を離し可愛らしく胸の前で指先を組むと嬉しそうに微笑まれました。

 正直なこの時の私の考えを明かすのならば、嫌ならば辞職をすればいいと現代日本の考えに沿った決断だったのです。


 そうして、それから10日後アレの屋敷へと招かれ、アレのご両親であるヴィルシュ公爵様とその奥様にお会いいたしました。


 侯爵様ご本人は、カイゼル髭を蓄え、髪を後ろに撫で付けられた彫の深いお顔に優しそうな面持ちの紳士でいらっしゃいます。

 奥様は、美しくウェーブをかけた巻き髪をこれまた起用に編みこまれ、その細く白い手足に似合わぬ胸部の出っ張りをお持ちのお方で、そのお顔は慈愛に満ちた面持ちをされておりました。


 まずはご挨拶からはじまり、アレについてのご意見等をお聞きし最後にはよろしく頼むと平民である私へ頭をさげられます。こんな素敵なご両親なのに、何故と不思議に思いつつも雇っていただけるのであればと契約書を交わしました。


 契約書の内容についてきっちり確認をいたしましたが、まさか裏にも内容があるとは思わず……後にこのことから酷く後悔することになったのです。

面白いと思っていただけましたならば、ブックマークなどをいただけますと嬉しいです。


越谷さんの更新ですが、月曜日にしようかと考えています。

時間は夜ということでよろしくお願いします。

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