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結婚ですか?

 堕ち人だと言われた日から二日。私は再び国王陛下に呼び出され、王宮へと参上しました。

 今回呼び出された場所は執務室だったことから既に、公爵様が陛下に私に意思を伝えてくださっている。そう、感じました。

 

 座り心地の良いソファーに腰掛けるよう促して下さいました国王陛下にお礼を伝えます。私が座り、紅茶が差し出され私、国王陛下、公爵様親子、宰相以外を人払いされました。

 全ての人がいなくなったのを確認された国王陛下は、カイゼル髭に整えられた顔をにこやかに緩ませお話をはじめられました。


「まず問いたい。リア・コシガヤ殿。そなたは、この本が本当に読めたのか?」

 

 そう国王陛下は問いかけながら、例の日記帳に視線を向けられます。


「はい。それは本では無く、私と同じ国からいらっしゃった本郷鈴さんの日記ですね」

「ふむ。間違いないようだな……」

「そうですね。スズ・ホンゴウ、その名を知っているはずが無いですし……」


 どうやら無事に信じて頂けたようですね。

 ホッと一安心したところで、内容について質問を受けました。

 その質問に答えながら私自身、彼女がこの世界でどのように生きたのかをお聞きしました。


 彼女も私と同じく、国に保護される事を拒んだようです。

 同じ日本人ならば、自身の自由と引き換えに富を望むような事はしないでしょう。


「なるほど……ところで、リア・コシガヤ殿」

「はい?」

「私の息子と見合いする気は無いかね? 出来れば……正妃とし――「お、お待ちください!」」


 まさか……ここで縁談の話をされるとは思っていなかった私は、陛下の言葉に絶句。

 私の代わりに陛下の言葉を止めたのは、アレでした。

 そんなアレに、公爵様が焦り止めようとしたのですが……。


「陛下! リアは、私と婚姻するのです!」

「――っ!」

「しゅ、シュリハルト? お前にはマリアーヌと言う婚約者がいるだろう?」

「私は、マリアーヌ嬢では無く……り、リアを愛しています!」

「バカな事を言うんじゃない!

 陛下……申し訳ございません。

 この愚息が陛下のお言葉を止めた挙句……このような……」

「私は、本気です! リアも私の側にいる事を望んでいたではありませんか?!」


 固まったままの私を放置状態で、公爵様は冷や汗を流しながらアレにマリアーヌ様と言う婚約者がいるのに何をいっているんだ。そう諭しますがアレが、この際にと言わんばかりに熱弁。


 私は一言も、アレの側にいる事を望んではいません。

 どこで誤解をしたのだろうか? そう考え、私は自身が発した言葉を思い出しました。

 ”お坊ちゃまの教育中ですから!”

 まさか、この言葉がアレの側にいる事を望んでいる事になっているとは……。


「シュリハルトは、本気なのだな?」

「はい!」

「だが、マリアーヌとリア嬢、双方を妻に持つ事は出来ないと分かっているだろう?」

「そ、それは……」

「堕ち人が女性の場合は、遥か昔より一夫多妻を嫌うと言い伝えられている。

 堕ち人の夫となるものは、生涯その堕ち人だけを愛さねばならないのだぞ?

 お前のように浮気性な男は、向かないのは分かっているだろう?」

「ですがっ!」


 何も言葉を発する事ができないまま、公爵様とアレの親子の会話は進みました。

 国王陛下や宰相様すら口を挟めないようです。

 そんな私たち三人を置き去りに、お二人はお互いの主張を繰り返し続けました。


「お話の途中で申し訳ありませんが……よろしいでしょうか?」


 突如声をあげた私に、その場にいた四人の視線が集まります。

 凄く言い難い……視線が集まっているからではなく、発言し難いこの異様な空気です。

 そんな事を考えていた私に、国王陛下が気を利かせてくださります。


「言いたい事があれば好きに発言して構わない」

「お気遣い下さりありがとうございます。では、遠慮なく……。

 まず、私は現状どなたとの結婚も考えておりません。

 いずれ、そう言う人ができれば……結婚するでしょうけど」

「なっ!!」

「そうか……やはり、思いが無ければ靡かぬか……」

「シュリハルト、リア殿はお前との結婚は考えていないと言っているぞ?

 大人しくマリアーヌ嬢と結婚しなさい」

「陛下……」

「り、リアは今はと言っています! まだ私にも機会はあります!」


 確かに、今は考えていないとは言いましたが……あなたとの婚姻は全くこれから先も考えられませんよ? 口が裂けても言えるはずの無い私は、黙したまま公爵様へ視線を向けました。

 

「機会も何も、既にお前はマリアーヌ嬢と婚約しているだろうに……」


 視線を向けた先の公爵様は、そう言葉を零し頭を抱えます。そんな公爵様の様子に、宰相様が助け舟を出します。


「ここはひとつ、期日を決めてはいかがですか?

 その間にお二人の仲が進展しなかった場合は素直に諦める。

 代わりに、お二人の仲が進展すれば、ご成婚と言う事でどうでしょう?

 もちろん、マリアーヌ嬢にも許可を頂く必要はありますが……」

「それは! 素晴らしい案ですね!」

「――こま、困ります!」


 アレは瞳を輝かせ乗り気のようですが、私は困ります。

 結婚したいという願望はあれど、それはコレとではありませんし……。その間、常に身の危険を考えなければならなくなります。

 マジで、勘弁状態ですし……。


 なんて事を考えていた私を余所に、話し合いは思わぬ方へ向かってしまいました。

 打開策が無い公爵様が、宰相様の提案を受け入れ……後日マリアーヌ様を含め再び話し合いをする事になってしまったのです。


足をお運び頂きありがとうございます。

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