創世神話ですか、特に興味ありませんけど?
今までにないほど真剣な表情で見つめ合う二人の醸し出す空気に呑まれた私は、呼吸吸う事も忘れ二人を見つめました。
いったい何があったのでしょう? あの本を読めた事の何が問題なのでしょうか?
「それで、人払いをした理由を教えなさい」
「はい……。リアに例の本を見せました」
「うむ」
「彼女は、あの本を読めたそうです」
「な、なんだと!?」
テーブルの上で腕を組み難しい表情をした公爵様が、アレに事情の説明を揉めました。それに答えるようにアレが、私に本を貸し読めた事を伝えます。すると、公爵様が組んでいた両手を解き、机に叩きつけ立ち上がり驚きの声をあげました。
「事実なのです。父上」
「では……リア殿は、堕ち人と言う事か!?」
「可能性は高いです。リア本人にはまだ説明しておりません。まずは急ぎ、父上に報告してからと考えました」
「そうか」
硬い二人の声音に、やっぱりあの本が原因かとあたりをつけました。
”堕ち人”塔言う言葉の意味を知らない私は、オズオズと手を上げお二人に質問をします。
「ご質問よろしいでしょうか?」
私の声に、お二人が私の存在を思い出したかのように、目を見開きこちらを振り向きました。
最初から居たんですよ? ていうか、連れて来たあなたが私の存在を忘れるのはどう言う理由なのでしょうか? 少し、イラっとしますね……。
なんて事を考えつつも顔には出さず、真面目な表情でお聞きしました。
「”堕ち人” とは何の事でしょうか?」
「あぁ、そうか……リア殿、あの本にはどこまで書かれていた?」
「と、仰いますと?」
「”創世神話” についてあの本には何処まで書かれていたのか教えて欲しいのだ」
「なるほど……確か――」
思いだすように、あの方の日記に書かれた”創世神話”の切り抜いたような一文を、読み上げました。
それを聞いていた公爵様は、私の言葉を聞き何度か頷かれます。
そして……それには続きがあるのだと仰い、説明をして下さいました。
【 創世神話 】とは、この世界を作りし神インヴァーリド様が、この世界に作り出した人達へ向け発した言葉なのだそうです。
信じがたいと言うか、ぶっちゃけ神様が存在するかどうかも怪しいと思いましたし、妄想もいい所なのですが……そこは黙って頷いておきます。
そして、世界が作られしばらくした頃、この世界は荒れ果て人々は貧困に苦しんだそうです。
何故、荒れ果てたのかその理由は分かっていない。そう仰った公爵様の言葉に、人と言うのは欲深い生き者ですから、戦争や動乱なのが起きたのだと推測しました。
人々は神に願ったそうです。
この世界に平和と秩序を齎して欲しいと……。そこでこの世界を作った神は人々の願いを聞き入れます。
そして、神が人々のためにした事は、別の世界よりこの世界に秩序と発展をもらたしてくれる人を、数百年に一度この世界に呼び出すようになったそうです。
何処に現れるかは、わからないらしく……確認できたのは私で、三人目なのだとか……ただし、この国では初めてだそうです。
話の続きですが、召喚されたその人物こそが、”堕ち人”で、”陽人”とは、この世界に生まれ育って人の事。と言う事は、陰は堕ち人の事。陽とは、陽人の事なのでしょう。
更に、あの日記では ”結ばれ、祖を産み落とす” と書かれていました。
思い当たる事と言えば、この世界に召喚された誰かとこの世界の住人が結婚して、子供を産むと言う事なのでしょう……。
その子が育ち、この世界に平和と秩序が訪れる?
うーん。意味はなんとなくわかりますが……この世界から、元の世界に戻る方法は無い。そう言われた気がして、気持ち悪いですね。
「あの……一つよろしいでしょうか?」
「あぁ、なんだい?」
「結局、確認された他の二人はどうなったのですか?」
「それは……」そう言って、公爵様は瞼を閉じ首を振ります。
その様子から、既にこの世界で亡くなっているのであろうと予想できました。
「既に亡くなっているのですね……その方々のお子様はいらっしゃるのですか?」
「あぁ、それならば!
一人目の ”堕ち人” の子は、この世界に馬車などの移動手段を作ったそうだ。
二人目の ”堕ち人” の子は、船や化粧品なんかを作ったと聞いている」
「なるほど……それは、本当に子供が作ったのですか?」
「それについては、正直確証が無い。文献にそう記されていた。と言うしかないんだ」
「そうですか」
いつの時代の人が、この世界に連れてこられたのか分からない状態で、これ以上確認する事はできなさそうですね。それに……私が出来る事なんて、武術と家政婦業だけですし特に、問題になるような物は無いはずです。
そう言えば、王様にお願いした。道場の建設はどうなっているのでしょうか? 出来次第、連絡を下さるとはお聞きしましたが……。
既に”創世神話”について興味を失った私は、他国の第三王子について思考を始めていました。
「父上、リアの所属はどうなのですか?」
「うむ……陛下に報告をあげるしかあるまい」
「……彼女を側に置けなくなるのですか?」
「そうは言っても……」
難しい声で、アレが私のことについて公爵様と二人で話し始めた会話を耳にした私は、お二人の会話に割って入ると言う無礼を犯しながら、自己主張をしました。
「あの~?」
「なんだい?」
「できれば、このまま働かせて頂きたいのですが……。お金は生きる為に必要ですし、それにまだ、お坊ちゃまの教育中ですから!」
「君はそれでいいのか? 陛下に”堕ち人”である事を伝えれば、働かずとも死ぬまで遊んで暮らせる」
「自分の食いぶちは自分で稼げ! が、うちの家訓ですからお気になさらずに!」
「ふむ、陛下には君の意思と堕ち人である事のみお伝えするようにしよう」
公爵様の甘い言葉をスパっと断りました。
堅苦しいのは好きではありませんし、好きでも無い男の元に嫁がされたりするのも嫌なので、このまま現状維持がいいでしょう。
アレに関しては、イラっとしますが……自由とは比べ物になりませんからね……。
なんて事を考えている内に、公爵様が「この事は他言無用だ」そう言い残し、私達が退室するのと一緒に、ご自身も部屋を後にされました。