謎が深まりました。
日記を読み始めて三日目、漸く全てを読み終わった私は日記を書いた彼女こと本郷鈴さんを偲びそして、この日記を残してくれたことを感謝しました。
鈴さんはこの世界に突如飛ばされ、私と同じように落ち込み戻る事を願いながらも多くの人に出会い、助けられながら精一杯生きて来たそうです。
そんな人生の中で彼女は一人の男性と出会います。
その方は古代に潰えたとされる魔法を研究の第一人者だったようです。
そこで彼女は一か八かの賭けにでます。
魔法研究をしていた彼に全てを打ち明け、元の世界へ帰る方法を共に探して欲しいと頼んだのです。彼はそんな彼女の願いを聞きそして協力してくれたそうです。
男性は鈴さんとの約束を守り、色々な国にある図書館や古代遺跡に眠る文献を探し解読していったのです。けれど……そう上手くは行かず……。
彼女たちが、それに辿り着いたのは晩年になってからだった。
【 創世神話 】
【 陰陽重なりし時 陰より招かれし堕ち人現る。 】
【 陽人、堕ち人と交わり祖を産み落とす。 】
【 祖の人、陰陽の教えを守り、インヴァーリドの柱となる。 】
場所は書かれていませんでしたが、見つけた本の内容と彼女たちが翻訳した文章がそこには書き写されていました。
創世神話と言うのは、私でも知っているこの世界”インヴァーリド”を作った神様の話しだ。
「私が読んだ『創世神話』には、そんな文句は一文もなかったけど……どういうことなのでしょうか?」
「――あ、リア? 難しい顔をしてどうした?」
そうでした。今は、仕事中でした。
バスローブ姿のアレに声をかけられ、ハッとしてメイドの仕事に集中します。
「いえ、なんでもありません」
「そう? 心配だよ……けれど、美しい君の憂い顔もまた……そそるものだね」
「紅茶をご用意してまります」
不穏な気配を匂わせるアレの言葉を無視して、紅茶の準備をするためカートへ移動しようとした私の手をアレが握り「待って」と声をかけました。
その行動を不審に思いつつも顔に出さず「どうかされましたか?」と聞けば、微笑んだアレが「今日はワインが欲しい」そう言いました。
珍しい事もあるものです……アレは以前失敗してからと言う物ワインやビアー、ウィスキーなどのアルコールは一切飲まなかったはずです。
なんて事を一瞬考え、どうでもいいことだ切り捨てました。
視線をあげアレの言葉に了承の意を返し、ワインの用意をするためキッチンへ向かいました。
料理長に何か軽くつまめるものを作って貰えるよう頼み、キッチンの地下に造られたワインセラーへ向かいました。
初めて入ったワインセラーは、何本ものワインが銘柄や産地ごとに並び、その味と香り度数が書かれたカードがそれぞれに貼られています。
使用人も配慮したとても本格的な作りのワインセラーに公爵様の拘りが伺えました。
そんなワインセラーの中から、アルコール濃度の低い赤ワインを選ぼうとしたのですが……如何せんアレの好みがわかりません。
「ん~。どれがいいのでしょうか?」
数分熟考して、アルコールに香りが余りせずフルーティーなワインを選びました。
選考理由としては、普段アルコールを飲まないアレ飲むので、フルーティーな方が飲みやすいかと考えただけなのですが……。
ワインを抱えワインセラーから顔を出した私を料理長が呼びました。
「リアさん。シュリハルト様はアルコール本当に弱いから、度数低いのがいいよ」
「やはり、そうなのですね……一応これを選んでみたのですが、どうでしょうか?」
そう言って、抱え持っていたワインを料理長に見せれば、料理長はニッと笑ってウィンクをしました。
「大丈夫そうですね。お料理ありがとうございます。頂いたいきます」
「おいたらすぐに、部屋から逃げること!」
良く分からない助言を貰い、私はカートに料理を乗せアレの部屋へ戻りました。
ノックを二回して、入室の返事を待たず「失礼いたします」と声をかけ室内へ入ります。
締め切られたカーテンが見え、明る過ぎない程度のランプの光が暗い室内を照らします。揺らめくランプの光にアレの髪がオレンジに染まりってとても幻想的に見えました。
それも束の間、執務机で何かをしているらしいアレが私の気配に気付き、羊皮紙に走らせていたペンを止めると顔を上げました。
「リア」
「お待たせいたしました。こちらのテーブルにご用意させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼むよ」
「かしこまりました」
作業を止め立ちあがりソファーへ向かうアレに、近くに有ったテーブルを差しここでいいかと聞きました。
手軽につまめるクラッカーにチーズやトマトを乗せたおつまみと、ワイン。そしてワイングラスを置き「それでは、失礼いたします」と退室しようとする私に、アレは「一緒に飲もう」と誘います。
「いえ、結構です」
「そう言わずに……飲めない訳ではないんだろう?」
「アルコールは好きですが、ワインはあまり好きではありませんので……」
「まぁまぁ……一杯だけ付き合って」
腕を掴まれ、ソファーに引き摺りこまれるよう座らされるとワインを注いだグラスを手渡されました。
本来職務中に、主である方と飲酒するなどあってはならないことです。
が……飲まない限りひかなさそうな表情をするアレに仕方なく「一杯だけですよ?」そう言って、ワインに付き合う事にしました。
どうせ飲むなら生ビールをジョッキで……と言いたいところですが仕方ありません。
「リアと過ごせる夜に……」と訳のわからない乾杯の掛け声をかけたアレと、グラスを合わせその香り味を楽しむことなく一息にワインを飲みほしました――。
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