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呼び出しですか?

 私の願いは結局叶う事無く……数日後にはマリアーヌ様のお家や王宮まで巻き込んで、隣国の王子に稽古を付けると言う事になってしまいました。


 面倒な事この上無い。


 正直に言えば、今すぐ辞表を叩きつけ一人のんびり田舎の家で引き籠り生活を送りたいと思いましたが……そこは抜け目のないマリアーヌ様がしっかりと、王宮と言うより国王様にお願いして特別給与を頂ける事になりました。


 成功した暁には、王都の一等地に私の家を建ててくれると言う眉唾物の報酬をぶら下げられた私は、逡巡の後ヤルと返事をしてしまったのです。


 返事をして3日後、王宮に呼ばれた私は現在国王陛下の前に立っております……。

 非常に胃が痛い状況の中、件の第二王子と面会した訳です。


「これはまた、見目麗しいメイドですね。陛下ぁ~」

「そ、そうかの?」

「えぇ、とても美しい娘でございますぅ~。

 マリアーヌ嬢も美しいが……このメイドもまた美しいぃ~」


 フェス王国の第二王子は、見た目とても賢そうに見えます。ですが、その実話してみれば、頭が少し足りないと言う事がよくわかりました。

 何故か話す度、オペラ歌手のような発声と身振り手振りをなさいます。

 

 この仕事は受けるべきでは無かったかもしれないと、心底後悔しつつ何故前情報をくれなかったのかとマリアーヌ様を見れば、ふふっと頬笑みを浮かべられた後、視線を見事にはずされてしまいました。


「それでじゃ……えー。リア殿。そなたが、その珍しいことを教えてくれるのだな?」


 国王陛下が話を元に戻すため咳払いをされ、言い淀みながらもそう言われました。

 め、珍しい事……?

 え……まさか、マリアーヌ様内容をごまかしてお伝えになったのですか?


 何やら国王陛下ぐるみな気もしますね……不安しかないのですが、その場での発言を平民である私が出来るはずも無くすなおに「はい」とお答えしました。

 「うむ」と頷かれた国王様に何か必要な物はあるか? と聞かれた私は国王様にいくつかお願いをいたします。

 もちろん、必要な物であり欠かせない場所の提供を……。


 その説明を口頭でするのは面倒なので、後日公爵家へ来て頂き見て頂き御用頂くことをお約束して頂きその場を下がります。

 

 その後控室にて、マリアーヌ様とアレでお茶をしようとしたところに現れた第二王子を含めてお茶をする事になった訳ですが……。

 空気が重い。なんでこんなに空気が重いのかそう思い見回した室内の人物達。


 私が入れたお茶をニコニコ微笑みながら飲む空気の読めないシュリハルトお坊ちゃま。マリアーヌ様に歌いながら口説き文句を言う第二王子。

 口説かれ続けるマリアーヌ様はと言えば、本当にウザイと言わんばかりの表情と仕草で空気の読めない男に助けを求めていらっしゃいました。


 そろそろ助けないとまた、回し蹴り食らいますよ? と思いながらも、メイドの私に口出す事は出来ず……仕方なく、アレへお菓子を乗せた皿を手渡しながら耳打ちしたのです。


「そろそろ、マリアーヌ様へ手助けしてさし上げませんと……キレられますよ」と伝えれば、アレは横に視線を向け「殿下申し訳ありませんが……彼女は私のこ、こんやくしゃなので……」そう言って、マリアーヌ様の腰へと手を回しました。


「シュリハルト様……」


 ぽっと頬を染めるマリアーヌ様が本当に愛らしく可愛いと思いました。そんな感想を頂いたところに、オペラ歌手もどきの王子が怒っているのか微妙な感じのオペラを披露します。


「公爵家ぇ~ごときのぉ~婚約者などやめてぇ~私の元へぇ――「お断りしますわ」」


 あ、そこは最後まで言わせないのですね……。そう冷たく王子をあしらうマリアーヌ様に突っ込みを入れ、早く解散にならないかと窓の外を見つめました。

 胃が痛むほどの状況から解放されたのは、それから数時間後……漸く馬車に乗り込みマリアーヌ様をお屋敷まで送ります。


 マリアーヌ様の御屋敷に到着したところで、両手を握りマリアーヌ様に「本当にお願いね」と何度も念押しされてしまいました。


 割り合わない仕事を引きうけてしまったと後悔しながらも「はい……出来る限りはやらせていただきます」とお伝えしておきます。

「本当に本当によろしくね!」と言いながら馬車を降りられるマリアーヌ様に、何度か頷きました。


 マリアーヌ様をお屋敷まで送った帰りの馬車の中、アレと二人きりになったところで、アレが「その……すまない……私があんな事を言ったばかりに……」なんて殊勝な様子で謝って来ます。


 謝るぐらいなら最初から私を巻き込まないで欲しいと思いながら、アレにジト目を向け「イイエ、オキニナサラズ」とだけ返事をしておきました。

 早く部屋に帰りたい……そう思う私の正面に座るアレが、指先で遊びながら窓の外を見たまま何かを思い出したかのように私へ声をかけました。


「そうだ。リアに見せたいものがあったんだ……」

「……?」

「実は、珍しい物を手に入れてね……君に見せたいと思ったんだ」

「珍しい物……ですか?」


 珍しいもの……ですか? 妖しさ満点ですね。呼び出すための嘘の可能性がありますから注意いたしましょう。


「あぁ、私や父上にも読めない文字で書かれた本なんだが、リアは読書が好きだとマリアーヌが言っていたから、珍しい本を買ってみた」

「はぁ……?」


 いつから私は読書好きになっていたのでしょうか? 確かに、マリアーヌ様にお願いして図書館などに行った事はありますね。でも、本を読むためではなく、あの本を探すために……ですけど……。


 ですが、公爵様やアレが読めないと言う事は、もしかしたら……あの本かもしれない。やっと、帰れるかもしれないと言う期待に胸が膨らみました。

 屋敷に着き時間ができたら部屋に来いと言うアレの言葉に、日本へ戻れるかもしれないと警戒心を失くした私は、行く事を承諾してしまったのです。


足を運んで頂きありがとうございます。

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