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誤解ですか?

 部屋に戻ったアレが着替えをすると言うことで、まずは服を脱いで貰いガウンを渡して差し上げます。

 胴着のままだったなら、多少汚れても良かったのに……ワザワザ上質な服に着替えたにも関わらず、自業自得だとは言え可哀そうだなと思ってしまう辺り、私にもまだ情けが残っているようです。


 マリアーヌ様の怒りを買わないように注意すればいいだけでしょうに、どうしてこうも地雷を踏みたがるのか。

 コレの行動の原理が全く理解できないと思いつつ、入浴の準備を整え終わりアレに声をかけしました。


「お坊ちゃま。お風呂の準備が整いました。どうぞ浴室へ」

「あ、あぁ。ありがとうリア」

「いえ……」


 何とも殊勝な態度です。

 正直何かを企んでいるのではないかと疑ってしまうほどでした……。

 入浴の為、浴室に入って行くアレが、何か言いたそうな顔で私を見ました。


 その顔が、いつものような感じではなく……少しだけ気になった事から、扉を少しだけ開け自分からアレに声をかけました。


「お坊ちゃま、何かご用が御有りだったのですか?」

「そ、その……少し相談したい事があったんだ」

「左様でございますか……お伺いしても?」


 湯につかるような音がした後、ゆっくりとアレは口を開き言葉を零しました。


「な、何故……私はこう、上手く出来ないのだろうか……?」

「はっ、はい?」

「わ、わたしには、この世に存在する全ての女性が美しく見えるんだ! なのにだ、私は出会ってしまったんだ、運命に導かれた女性に――」


 あぁ、恋愛脳のバカ男なんですねこの人……。

 あれほど、神妙な顔と声で何を言い出すかと思えば、とちくるった事を……。呆れるを通り越して、下らない聞く価値が無いと思ってしまいました。

 どうでもいい話を熱弁するアレを放置して、先ほどから気になっていた扉の隅に溜まったゴミを取り除きました。


「――そう思ったんだ! ……り、リア? 聞いているかい?」

「申し訳ありません。少し気になる事がありまして……もう一度お願いできますでしょうか?」


 突然名を呼ばれ、内容が判らない話をされていた事に気付いた私は、アレにもう一度話して欲しいと頼みます。すると、アレは少し戸惑いながらもまた同じように話してくれました。


「――そう思っていた矢先私は、リアに出会って、自分の考えが愚かだった事に気付いたんだっ!

 リアほど美しい女性はいないと、この人生全てを捧げても君に愛されたいとそう思ったんだ。と言う話をしていたんだが……リアはどう思う?」

「そう……ですね。私の意見を聞き入れて下さるのであれば、マリアーヌ様を素直に愛された方がよろしいのではないでしょうか?」

「何故、そう思うのかな?」

「旦那様と奥様がそれを望まれているからですよ。お坊ちゃま」


 後が無いと仰っていましたから……とは伝えず、率直な意見を述べました。ザバっとなる水音を背後から聞き、急いでバスタオルとガウンを用意するため動きました。

 とそこに、ミリス様が交代だと伝えてくださいます。


「今上がられたようです」と状況を伝え、部屋を後に本日の仕事を終え部屋に戻ろうとした私の耳に、ミリス様とアレの叫び声にも似た何かが聞こえました。

 その声に後ろを振り返りお二人を見た私は、その光景に唖然といたしました。


 全裸のアレが、ミリス様の背後からその腰を抱きしめ、右手でその顎を持ちキスでもするかのような体勢だったのです。


「し、しししししし、シュリハルト様、何をなさいますかっ!」

「リアっ!! じゃない み、みみみ、ミリス!!」

「このような状況で淑女を抱きしめるなどっ!」

「ち、ちちちちちちち、違うんだっ!」

「何が違うのですかっ! このようなこと……」

 まずは、言い訳をする前にその手を離せばよろしいでしょうに……そうは思いつつも声には出さず二人の様子を眺めました。


 頬を染めたミリス様が、恥じらいながらも注意しようとするも、二人の態勢はそのままで……どうみても恋人同士だ。

 意外とお似合いかもしれないなと向けていた視線を扉の方へ戻すと、そのまま部屋を後にいたしました。




 その日の夕食で、他のメイド仲間の皆さんがミリス様とアレのお話で盛り上がっていました。ミリス様は、その昔現国王陛下にお声をかけられ、名前を聞かれたほど美しい女性なのだそうです。


 その方とアレの浮ついた話となれば、皆さんが話したくなる気持ちも分かりますが……ミリス様の夫である、料理長のシュノーベルさんの前でするべきではないのではないでしょうか?


 今夜あたり、夫婦喧嘩にならなければいいなと思いつつ、雑談にはなを咲かせ、食事を摂り終えた私は今日も一日よく働いたと部屋に戻りました。


 その後、順番が来たため湯あみに向かい済ませます。

 部屋に戻るため階段を登る私の前に、頬を赤く染めたアレが姿を見せました。

 もじもじとハッキリしないその態度に、早く休みたいとジト目を向けつつこちらから声をあげました。


「何のご用でしょうか?」

「あ、その……だなっ!」

「……はぁ。湯ざめしてしまいますからお早くお願いできませんでしょうか?」

「あぁ、すまない。その部屋でのことなんだがっ! あれは、リアだと思ったからやったわけで、別に私はミリスを好いている訳ではないんだ! だから、誤解しないでほしい!」

「は?」

「私が愛しいと思っているのは君だけだ。そう伝えたかった。時間を取らせてすまない」

「はぁ……」

「出来る事なら、君と夢の中でも共に過ごしたい」


 そう言ったアレが、私の横を通り過ぎる間際、私の頬に軽くキスを落とします。そして耳元で「いい夢を……」と囁き階段を下りて行きました。


 一瞬何が起きたのか理解できなかった私は、呆然と去って行くアレを見送りました。


足を運んで頂きありがとうございます!

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