ラドル・ウィンガー
いつもの朝
いつもの部屋
ただ、いつもと違うのは
俺はソファで寝てる事
彼女はもう居ない事
そして…
俺のベッドでスヤスヤと眠る賞金首が居るとゆう事…
俺は起き上がりジェシカの顔を見つめる
整った顔立ち、透き通った肌、綺麗な髪…
高級な人形みたいに完璧な女性像なのだろう
普通の男なら一晩何も手を出さないと言うのは有り得ない筈だ
ただ…彼女には心が無い様に感じる
初めて会った時から…
そう…まるで人形のように…
俺は昨日、久しぶりの休暇だった。
「ラドルおはよっ」
いつもの様に朝、俺に声をかけてくる彼女
「おはよ…」
「見て見てこのドレス、今日から発売するんだ」
彼女…アリスの手には、紫色の綺麗なドレスがある
「アリスがデザインしたのか?」
「そうなの、やっとリーダーに認めて貰える作品が出来たの」
ニコニコと嬉しそうな笑顔を見せる
アリスの夢は将来ブランドを作り上げ、いろんな服を作る事らしい
「素敵なドレスだな」
「ただこのドレス、私には似合わないの」
鏡の前で、ドレスをあてがいながら不満気に自分を見てるアリス。
「この服はもっと綺麗で美しい人じゃなきゃ着こなせないね…売れるかな…値段も高いし…」
確かに、一般人が着こなせる代物では無いな…洋服負けしてしまうだろう
「そのドレス着て俺に見せてくれよ」
「やだよー洋服負けしてるし、似合わないもん」
洋服負けか…
さっき俺が思った言葉だけど
今思えば負けてても別に良いんじゃ無いか?
何かアリスならそう思える
「このドレスは凄くお気に入りなんだけど、自分に似合わない服なんて着れないよ」
「良いじゃ無いか、好きな服を着たら」
「ダメダメ、洋服負けしながら、ラドルの彼女だなんて言ったら、私馬鹿にされるよ、ラドルと釣り合う女じゃ無いって」
「俺は外見なんか気にしない」
「ラドルは良くても私が嫌なの!!」
確かに全人類って言っても過言では無い程、人間は「みてくれ」ってのを気にする
自分ではわからないが、俺はそれが他人よりも少しは良いようだ…
そのせいで、俺には自分に自信のある女しか寄ってこない
そのお陰で嫌と言う程失敗をしてきた
だから、中身を見たつもりでアリスを選んだのだが…
アリスはどうだろう…
俺の中身を見てくれているのだろうか…
俺のどんな所が好きなのだろう…
外見…?
だったら嫌だな…
そもそも俺はアリスの中身を本当に見えているのか?
言葉や仕草…嘘の自分を作る事だってできる
そもそも…
「ラードール?」
アリスが俺の顔を覗き込んでいる。
「っ…何?」
「私仕事に行くけど…、何かぼーっとしちゃってどうしたの?」
「いや…何でも無い、いってらっしゃい。」
「行って来まーす。」
そう言って元気良く仕事に向かったアリス
考えても埒が明かないな…
さてと…何をしようかな…
休日が欲しいと思ってても、いざ休みとなると暇なもんだな。
とりあえずコーヒーを入れ、テレビを点ける
毎朝変わらず、最近の政治、事件、いろいろなニュースをやってる
毎日毎日ネタが尽きず次々と何か起こるもんだな…
その後にある賞金首情報
死んだり捕まった賞金首や新しくリストに入った奴を知らせる
こいつらの命を狙った所で勝てないし、逆に狙われても同じ事だから
コロコロ変わるこの情報を殆どの奴が興味を示さない。
真剣に見てるのは賞金稼ぎくらいだろう
それでもいち早く賞金首に気付き逃げる事はできる筈だ
だがみんなどこかで狙われ無いって言う変な安心感を持ってる
殺人が身近で起きなければ危機感を得れなくなっている
まぁ…こう毎日テレビで殺人事件を取り扱ってたら、危機感も薄れるか…
そんな事を考えている内に写真と名前、ランクが次々に表示されていく
ボス・ビガー SS級
ミンチェ・ルンファ SS級
トザス・マージ SS級
ファー・ディジス S級
クシス・クスス S級
ラフォール・ジ・ケルサー S級
ジェシカ・ティフォル S級
ジェシカ・ティフォル…
上位賞金首で唯一の女性…
誰もが魅了されるルックス
歳は俺と同じくらいか…?
ここ最近で彼女の賞金ランクが一気に上がった
S級だ…
簡単に言うとS級は政府側がその賞金首の死体しか受け付けず、その賞金首を殺した者には死ぬまで欲した物が貰えるという…まぁ一部無理な物も有るみたいだが
因みにSS級は、S級の条件にその子孫も永遠に政府から物を貰えるらしい
その下は
A級…死体のみ、賞金は定められた金額
B級…死体、生体どちらでも可、賞金は定められた金額
ってな感じでいろいろある
話がそれたが
ボス・ビガーは言わずと知れた凶悪犯でSS級で当然
クシス・クススなんかは結構有名な犯罪者だS級でも可笑しく無い
その他の奴らも妥当なクラスだろう…
そして、俺が気になっていて、ここ最近S級になった
ジェシカ・ティフォル
確かに犯罪者は犯罪者なのだが、他の奴らに比べると明らかに犯罪のレベルが低い
S級にする程の者か?
政府はこの女の何かに恐れているのか?
そんな事考えてる間に賞金首情報は終わった
良かった…俺はまだ入って無い
賞金稼ぎでも無い俺が毎日、このテレビを見る理由…
それは俺自身が賞金首になっても可笑しく無い仕事をしているから
だから俺の名前がリストに入って無いか確かめるのか日課になった
下手に賞金稼ぎに命を狙われるなんてゴメンだ
さてと…
ひと安心した所で外にでも出て息抜きするかな。
俺は部屋から地下へ行き車に乗り込む
星が一杯の駐車場を出ようとした時、一台の白いリムジンが目に入った
あの車は…社長…?
俺の真ん前に止まったその車は窓をあけ、後部座席から社長が顔をだした
…やっぱり
俺は車から降り、軽く御辞儀をした。
社交辞令だ
「ラドル・ウィンガー、君の噂は聞いているよ、良い仕事をしているらしいじゃないか」
「ありがとうございます。」
一体俺に何の用があるんだ?
せっかくの休日だってのに
「今日は休日だろう?どうだ…私と一緒に楽しいパーティーに行かんかね?」
パーティー…?
何のパーティーだ…?
どうせ、お偉いさんが集まってお世辞を言いあうだけなんだろ
絶対に行きたく無いんだが…
「光栄です。」
だが俺に断る権利は無い。
「じゃあ早くその車を置いて、私の車に乗りなさい」
俺は急いで車を車庫に戻した
くそっ…せっかくの休日が…
「ワインは嫌いかね?」
「いいえ。」
何が嫌で車でワインなんか飲まなきゃいけないんだ
グラスに注がれた赤い液体を俺はじっと見つめた
「今から行く場所だが…決して他人に話してはいけない、名前の無いパーティーだ」
「名前の無いパーティー…ですか?」
なんだそれ?
それが名前なのかそれとも、本当に名無しなのか?
「あぁ…君だから、誘えるパーティーでもある」
「どういう事ですか?」
「つまり…犯罪者しか集まらないパーティーだ。そこに集まる奴らはちょっとやそっとの悪じゃ無い」
なっ…そんな所に俺を連れて行くつもりなのか?
そもそも、俺はまだ賞金首じゃ無いし…
人殺しをしてるなんて世間一般には知られて無いハズ…
しかも人殺しは故意じゃない、仕事だ。
そんな俺が入れるのか?そのパーティーに…
社長のコネか何かか?
だとしたら社長も相当な悪だな
まぁ…闇カジノの経営者ならあり得るか…
「そんな所にどんな用があるのですか?」
「深追いはしない方が良い。
それより、君にはそのパーティーである任務をこなしてもらう。」
任務…?
そんな事をしたら休日の意味が全く無いじゃないか
「任務って何ですか?」
当然の如く俺にその任務を断る権利は無く
ただやるしか無いのだが…
「ある女を君の部屋に連れ込んで欲しい」
「ある女…?」
「この女だ。知っているか?」
社長が俺に紙を渡した
知ってるも何も…
「えぇ…今朝もテレビで見ましたよ。S級賞金首…ジェシカ・ティフォル…」
何故か大した殺人もしてないのにS級賞金首まで一気に上がった女だ…
だが殺人鬼には変わりない…こんな女に近寄るなんて、死にに行く様なものだ
「その女は気に入った男になら直ぐ付いて行く…だが魔法の実力は確かな物だ…危険もある、その分の給料を弾もう。出来るか?」
「もし気に入られなければどうすれば良いんです?」
「その女は毎日、このパーティーに来ている。何回でもチャンスはある」
……………。
つまり、家に連れ込むまで何回もパーティーに行けって事か…
でも、家に連れ込めても、俺にはアリスがいる…
いくら何でもそれはマズいんじゃ無いのか?
「社長…俺には彼女がいて…その…」
「他の女を連れ込むのは宜しく無いと?安心しなさい、私から事情を話して別の部屋を用意しよう」
有り難いんだか何だか訳がわからないな…
「それより…さっきから進んで無いが…どうなってるんだ?」
社長がいきなり運転手に話しかけた
確かにさっきから前に進んで無いな…
「申し訳ございません。何かあったみたいで、えらく渋滞しておりまして…」
何があったんだ?…俺は外を覗いた
ここは…アリスの職場の近くだ
そして少し先の路地で警察や救急隊等がせわしなく動いている
交通事故でもあったのだろう…
車がノロノロと進みながら俺はその事故現場をぼーっと眺めた
車が事故現場をトロトロと通り過ぎようとした時…
見えた…
あれは…
アリスだ…
苦しみながらも何かを睨むような顔をしている
「アリスっ!!!!」
俺は思わず車から飛び出し、運ばれているアリスのもとへ駆け寄ったが、周りにいた警備員に阻まれる。
「離せっ!!アリスにっ…アリスに何があった!」
「彼女の知り合いか?落ち着け。彼女は手遅れだ」
手遅れ…?
アリスが…?
アリスの上に白い布が被せられているのを見ながら俺の頭の中で『死』という文字が浮かぶ
いや…まだ…まだ間に合うかもしれない
「医者は…医者はいないのか!?」
「残念だが、どんなに腕の良い医者でも人の命は生き返らせれないよ」