惚れた男②
「ジェシカ・ティフォル様とラドル・ウィンガー様の退室で宜しいですね」
「えぇ。」
「かしこまりました。今日はもう入室は出来ませんので、御了承下さいませ。」
入る時も出る時も、此処では一々確認を取る
刑事とかを入らせない為の対策何だろうけど、役にたつのかは謎ね
そして、手続きを済ませたあたし達は空の下にでる事ができる
「俺の車がある、こっちだ」
車なんて持ってるんだ…良いじゃない。
ラドルが出て直ぐに右に曲がる
数分歩いた所にある駐車場に1台だけ車が止まっていた
全体が真っ黒な車なクーペ
内装も窓もホイールも車体も全て真っ黒
「あの車?」
「あぁ」
ラドルは車の鍵を開けた。
「どうぞ、入ってくれ」
あたしは真っ黒な車に乗り込む
吸い込まれそうな気分…
でも座り心地はとても気持ちが良い
「ラドルの家まで遠いの?」
「いや、車で10分くらいだ」
多分、マニュアル車と呼ばれる方の車なのだろう
ラドルはカチャカチャと操作をしながら車を発進させた。
車内は沈黙が続くけど、外は夜なのに明るく賑やかだ
「ジェシカは誰に誘われたんだ?」
賑やかな大通りを飛ばしながら、沈黙を破るかの様にラドルが話かけてきた
「何が?」
「さっきの…名無しのパーティー」
「あぁ…確か…ボスって名前の人だわ」
あのパーティーは紹介制で誰かに紹介されなければ、入ることは出来ない
あたしは、5年前に初めて償金稼ぎに狙われた時、ボスって人に助けられた。
ボスはあたしの事知ってたから、その縁で紹介された感じかな
大柄で筋肉質で…最近は会ってないわね…
「……ボス・ビガーか?」
「フルネームまでは知らないわ」
「そうか…」
ラドルはチラッと深刻そうな表情を見せ走りつづけた。
そして、しばらく無言のまま走り続けた
数分後、車は森の奥深くのある場所に付くと目の前には物凄く大きな門が現れた。
縦、横共に30メートルは有るだろう
何の門なのかわからない…
ただ色は白っぽいけど、内側から青白く輝いていて、近付くと勝手に扉が開いていく
門の両サイドには女性と男性の銅像がたっている…これも人間の2倍くらい有り大きい…
「大きくて綺麗な門ね…何の門かしら…」
ラドルはそのまま車をくぐらせた…
くぐり抜けた後、さっきまでは無かった物が突然姿を現した。
「これは…」
目の前には、さっきの門より比べ物にならないくらい大きな城が建っていた
周りには魔法で創られた柵があり、ランダムに模様を変えている
多分城までは100メートルは離れているだろうけど、その迫力はここからでもわかる。
まるでお姫様のお城の様に美しく、ゴージャスで、色とりどりの明かりで照らされとても美しい
「さっきの門をくぐれば、城が現れる魔法がかけられている。まぁ…誰でも通れるものじゃ無いけどな」
「素敵…あたしもこんな魔法を使いたいわ…」
「あの城の13階が俺の部屋だ…あの建物は下が賭博城で…上の階が寮とかになってるんだ」
「仕事場?」
「そんな所だ。しかし中に居るのは金と暇を持て余した大富豪ばかりじゃない…
一攫千金を狙った奴らもいる…そんな奴らが自分の命を容易く賭ける
大富豪はその負ける姿を見て楽しむ、腐った奴らが多い」
「そうなんだ…」
車は真っ直ぐ進んだ所にある、下り坂に行き、城の地下へ進んだ。
地下に入ると天井から地面まで一面に星が輝き、宇宙にでも居るような…そんな気分にさせられる
「此処は車庫になっていて、一台一台のスペース全てに今見てる星柄の壁が囲んでいる。
だから何も無い様に感じて
知らないとその壁にぶつかってしまうし、此処の地図を把握していないと出る事も出来ない」
「車庫までお洒落なのね…」
「お洒落とかじゃ無いさ。この建物の出入り口はここしか無くて、負けた奴が逃げようとした時、簡単に出れない用にしているだけだ
分かり難いかも知れんが、この場所はとても広く、1万台以上の車が入る。
迷ったら、とてもじゃ無いが出る事は不可能だ。」
「そうなんだ…」
あたしはキラキラと輝く部屋をしばらく見つめた
進んでいても進んでるのかわからない。
曲がってもわからない。
コレが錯覚ってやつなのかな?
するとラドルは車を止めた
「ここが俺の車庫だ」
そう言ってゴソゴソとポケットをあさり何かを取り出したラドル。
ラドルは何か小型のリモコンのボタンを押した。
すると、何も無かったかの様に見えた場所から、車一台分の白い壁の部屋がゆっくりと姿を現す
扉が開いたのだろう…
入り口からは白い壁の部屋ははっきりわかるけど、その他からは全く何も無い様に見える
錯覚ってやっぱり怖いわね
ラドルはそのまま車を後ろ向きに車庫に入れる
入れ終わると車庫の扉は自動的に閉まった。
「今度は真っ白な部屋ね」
「あぁ。こっちに来てくれ」
ラドルは車の後ろ側に行き、またさっきの小型リモコンを押した。
「今度は何が起こるの?」
「この壁はエレベーターの扉だ」
直ぐにチンと鳴ると共に、真っ白な壁が両側に別れ
その中に海の中の様な個室が現れる
海藻に魚、様々な魚介類が動き回っている
「綺麗…これも魔法?」
「あぁ」
乗り込むと、エレベーターは閉じ直ぐに動き始めた
『気付いたか?ジェシカ。さっきから見てるアート混じりの魔法、全て同一人物の魔法だ』
だから何なのよ?
『誰だか知らんが…結構強い魔法を使えるな』
へぇ…
キメライナよりも?
『私には及ばないが、お前では適わないだろうな』
どおゆう事よ
『お前はまだ私の魔力を使いこなせていない。だからこの魔法を使ってる奴がはっきりわかるまで、安易に人を殺さない事だ。返り討ちにされるぞ』
何かムカつくわねそいつ。
『その男に誰の魔法か聞いてみたらどうだ?』
そうね…聞いてみようかしら…
エレベーターは、チンと鳴り、扉がゆっくりと開いた。
「ここが俺の部屋だ」
ラドルがエレベーターから出ると、自動的に電気が部屋を明るくした
その部屋には
真っ黒なテレビ、真っ黒なベッド、真っ黒なキッチン、真っ黒なテーブルと、家具全てが真っ黒な物で、部屋の壁は対照的に真っ白だった
「結構広いのね」
「適当にソファに座って、コーヒーと紅茶どっちが良い?」
「コーヒーが良いわ」
ラドルはコクリと頷くとお湯を沸かし始めた
あたしはその間部屋を見て回る…
結構広めの部屋…
入って直ぐ左がキッチン、右がバスルーム
奥の壁は全面ガラス…真っ黒なカーテンが外を隠してるけど…
その右側にわベッド…、結構大きめね
開いたスペースにテレビやテーブル、ソファ等が綺麗に並べられている
テレビの横の棚を見たあたしは、その上に飾ってある写真に目をとられた
ラドルとブス女が仲良く写っている
誰このブス…?
ブスの癖にあたしのラドルに馴れ馴れしいわね
「この女の人は誰?」
「……元カノ…だ。」
何それ。
もう別れてんじゃない、いつまで飾ってるのよ。
未練たらしい男ね
「今でも好きなの?」
「あぁ」
あたしの心が一瞬砕ける感覚がした
何この感じ…モヤモヤする。
この女…この女が全ていけないのよ
この女の存在がいけないのよ
元カノのくせして…いつまでラドルの心をもてあそぶ気なの?
許せない
殺してあげるわ
「じゃあ、あたしがその事伝えてあげる、もしかしたら上手くいくかも知れないでしょ?。彼女はどこに居るの?」
「もう…この世に居ない。
コーヒー、ここに置くぞ」
コーヒーの入った真っ黒なコップがテーブルに置かれた
この世にはいないって…もう死んでるって事?
ざまぁ見ろだわ。
この女にラドルは勿体無いもの
こいつの死に顔を見れないのは少し残念だけど、
「彼女の事…忘れられないのね…可哀想…」
あたしはラドルに近寄り顔に手を這わせる
ラドルがあたしを見つめてくる…溶けそう…
あたしは今、あなたの物よ…早く襲いなさい
「あたしが忘れさせてあげる」
ラドルがあたしの手首を掴んだ
「悪いが…今日はそんな気分じゃ無いんだ」
何よそれ、どおゆう事なのよ
あたしは心とは裏腹にポカンとした顔を作る
「彼女が死んだの…今日なんだ。だから…」
ラドルがあたしから目を反らした
だから…何?
今日までは死んだ奴の物で有りたいとか思ってる訳?
「わかった…じゃあもう少しだけ…ラドルの気持ちが落ち着くまで…あたし、待ってるね」
自分でも信じられ無い言葉が出てきた
何言ってるんだろう…あたし…
『いつも気に入らなかったら直ぐ殺すのに、今日はどうしたんだ?風邪なのか?』
うるさいわね
今日は特別に許すだけよ…
「そうか。」
そう微笑んでラドルはあたしの頭をポンポンと叩いた
今日は男とヤらない…何日、いや何年振りだろうか…
何か新鮮な気持ちね
あたしはもう一度ラドルと女が写ってる写真を見た
あれ…?
この女…どっかで…?
「ジェシカは明日も名前のわからない宴に行くのか?」
ラドルの言葉で我に返った
「ううん。行かない」
ラドルは行くのかな?
行くのだったらあたしも行くけど。
「そうか、だったらこれやるよ。」
ラドルはカラフルなコインを何枚かあたしに手渡した
「何これ?」
「明日、俺仕事だから、暇だったらそれで遊んだら良いよ。」
あたしはカラフルなコインをまじまじと見詰める
緑や赤等の色のコインに数字が書いてある
「それはカジノで使うチップだ、ここの1階と2階がカジノになってるから試しにでも遊んでみたら良い」
カジノか…やった事無いな…
面白いのかな?
「ルールが解らなかったら、ディーラーやスタッフに聞いたら良い」
「わかった。」
「くれぐれも、命なんて賭けるなよ」
ラドルは冗談混じりに、笑った
笑顔、つくれるんだ
初めて見たラドルの笑顔…どこか新鮮な感じ…
「今日はもう遅いから俺は寝るよ。ジェシカは適当に眠たくなったら寝て良いよ、ベッドも風呂も着替えも有るから、何でも勝手に使って良いよ」
ラドルはそう言いながら、何処からか毛布を取り出し、「おやすみ」って言葉と共にソファの上で眠りについた
あたしは…暇になったからお風呂に入ろうかな…
風呂場に行き適当にゴソゴソと着替えの服とタオルを取り出した。真っ黒だ
風呂場は…正反対で真っ白…
あたしは真っ白な風呂場の湯船に浸かった。
『エレベーターと地下駐車場の魔法の主が誰か聞くのを忘れたな』
あ…そう言えば…すっかり忘れてた。
『明日はカジノで遊ぶんだろ?魔法の主がわかるまで負けても人は殺すなよ』
わかってるわよ、うるさいわね
『それと、さっきの男と写ってた写真の女…誰か思い出せないのか?』
あのブス女ね…確かにどっかで見たこと有るけど…
わからないわ。
『お前が今日……殺した女じゃ無いのか…?』
――――――――!!!!!!!
あたしの今日1日の記憶がフラッシュバックする…
思い出した…
あの紫のドレスを手に入れる時…殺した
ラドルの彼女…あたしが今日殺したんだわ…
自然に笑いが込み上げてくる
あの女の死に顔…可笑しいったらありゃしない
自分に釣り合わない男と付き合うから死ぬのよ
自業自得だわ。
あたしは良い気分のまま、風呂を出た
真っ黒な部屋着で身を包む
『黒い色は落ち着くな』
キメライナは漆黒龍、そのせいか知らないけど、やたら黒色が好きなのをあたしは知ってる
まぁ…部屋の壁は全く正反対の白なんだけど…
あたしはベッドに寝ころび
少しラドルを見つめながら眠る事にした。
『電気は消さないのか?』
消さないわよ…とゆうか入る時自動でついたから消し方知らないし。
『落ち着かないな…』