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思い出したというか思い知らされた前世の常識

異世界転生。RPG的な世界でチート能力を使って俺強ハーレム作成や、乙女ゲームの悪役令嬢になり逆ざまぁを仕掛ける等々。そんなジャンルの小説。

結構検索して読んでいたなぁとはっきり思い出したのは、15歳の春。王立学園の中等部に進学し、とある授業内容に衝撃を受けて昏倒した後、高熱にうなされ一週間後に目覚めた時だった。




ぼんやりとした視界に見慣れた天井が映る。ディアナ=ローディルはあまりよく動かない自分の体に疑問を持ちながら、辛うじて首を左右に動かした。

「お嬢様?お気付きになられましたか?」

ディアナが意思を持って動いたことに気付いたのは、ベッドサイドでずっと待機していたらしいメイドのラーリアだ。

しょぼしょぼと瞬きを繰り返すディアナの顔色を手早く確認すると、寝室の扉に向かって外の誰かに声をかける。

医者を、と細切れに聞こえる単語から、どうにも心配をかけていたようだと判断したディアナはとりあえず現状を把握することにして、何を見てぶっ倒れたのかを思い出して後悔して唸り声を上げた。

「お嬢様、落ち着いてください。すぐに医者が参りますから…!」

ベッドの上で頭を抱えたディアナの姿を見てとり、すぐさまラーリアが側に寄ってくる。

「ラーリア…」

「はい、お嬢様。如何なさいましたか?」

なんだか頭が痛いがそれどころじゃない。寝ている間に他人の人生を送り、産まれて死んだ気がするがそんなもんはとりあえず置いておく。

それよりも確認しなければならないことがある。

「ラーリア、あのね…。私、授業中に倒れたのかしら?」

「はい。お嬢様は授業中に急に倒れられたとうかがっております。それから7日が経ちました」

「そう。…あのねラーリア」

「はい、お嬢様」

ディアナはそっと、ディアナの呼び掛けに応じるラーリアに顔を向けた。ラーリアは既婚では無いが、今年で21歳になる成人した大人の女性だ。加えて、ディアナ付きになってかれこれ10年は経つ、侍従として信頼できる人間でもある。

だから、主人が寝起きで、昏倒して7日振りに起きた直後でも、馬鹿な質問にも真摯に答えてくれる筈だ。

「ラーリア…。教えてほしいんだけど、赤ちゃんはどうやって産まれるの?」

「はい。赤子はキャベツ畑で採れるものでございます」

どこか痛ましそうに顔を歪めながら、ラーリアははっきりとよくわからないことを言った。


異世界。

そう、世界が違えば常識だって違うんだろう。

赤ちゃんはどこから来るの?コウノトリが運んできたり、橋の下で拾ったり、泥を捏ねた人形が人形でなくなったり。

ディアナの生きている世界では、赤ん坊はキャベツ畑で採れるものらしい。


絵本の中では様々な産まれ方をする人間だが、なんとなく、漠然と、習ってはいないが常識として。何時頃からかディアナは、赤子は成人した男女がエッチなことをあはんうふんして股からスポンと出てくるものだと思い込んでいた。

だから、授業で農業実習をした結果、採れたてキャベツの皮を捲ったら産声を上げられてパニックに陥ったのだ。何が起こったのか見当も付かず、アワアワと学友に問い掛けたら苦笑いをされ、教師に泣きついたら真面目な顔で諭された。

「ローディルさん?騒ぎ立てるのは令嬢として相応しくありませんよ?事後のキャベツを収穫してしまったのはお気の毒ですが、この玉は学園で処分します。…全く、在学中の不純異性交遊なんて珍しくも無いでしょうに」

教師が何を言っているのか、ディアナの理解が追い付かない間に、ディアナの手の中のキャベツの中から伸ばされた小さな小さな手がディアナに触れた。

そこで、ディアナの記憶は途切れている。

ディアナの生きている世界では、赤ん坊はキャベツ畑で採れるものらしい。

ちょっと、いや大分受け入れがたい異世界もあったもんである。

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