プロローグ
軽く短く書きます。
「やあ、君たちの奴隷をくれないかい?」
それが親友との出会いだった。
月夜の晩だった、月明かりが照らす山道。
馬で前を先導する奴隷商人たち、そしてその後ろで鎖につながれ歩く俺たち奴隷。
その前に真っ白なウサギのお面を付けた黒服のそいつは立ちふさがった。
「おい、兄ちゃんそれはいいがよお?金はあんのか?」
と一番前の奴隷商。
「ないよ、そんなもの。僕が金を払うわけないじゃないか。僕は勇者だよ?」
奴隷商人たちがそれを聞いて殺気立つ。
そいつは一人、商人は四人でしかも馬に乗っている、どちらが有利かは火を見るよりも明らかだ。
がそいつは不敵に笑う、いや笑った気がした、お面のせいで表情は見えない。
「タイトルは『奴隷商人惨殺してみたっ!』 て感じかな?」
そいつはそう言うと懐から片手剣を取り出し構える。
奴隷商たちもそれを見て馬上で剣を構える。
「おい、兄ちゃん少し落ち着こう。この国じゃ奴隷は認められてるんだ。そんな義賊みたいなことして困るのは兄ちゃんのほ―――」
そいつは話を聞かないやつであった。
一番前で口を開いて忠告してくれていた親切な奴隷商の頭上に跳躍し馬ごと真っ二つに切り裂く。
そして驚いて口をポカンと開いている残りの奴隷商三人の首をまとめて一気に切り落とす。
そして天に剣を掲げ一言。
「悪の栄えたためしなし!」
それを俺たち奴隷は茫然と見つめていた。
皆の心に浮かんだのは―――なんておかしなやつなんだ。絶対にかかわりたくない。
そんな気持ちだっただろう。
俺達の間を沈黙が包む。
しばらくの間の後俺たちのうちの一人が恐る恐る口を開いた。
「おい、兄ちゃんふざけるなよ。こんなことされて困るのは俺たちの家族なんだ」
そうだそうだと周りの人間も同調する。
奴隷が働く分の金はすでに家族に前払いされている。
もし逃げ出しでもしたら家族が危ないのだ。
それにしっかりと衣食住が提供されるうえ休みももらえる、そのうえもっと言えば一定期間働けば労働から解放されるのだ。
逃げ出す理由がない。
そう、目の前のうさぎのお面がしたことはまったくの無駄。
「はいはい、そういうのいいんでー。助けてくれてありがとうついていきますっ! て言ってもいい人。前に出て!」
パンッパンッと手を叩きながらそいつはそんなことを言う。
俺達は顔を見合わせた。
誰も前に出る者はいないだろう、こんなおかしい事をする奴に付き合いあう奴なんて・・・
「助けてくれてありがとうございます。ついていきます!」
俺は一歩前へ出てそいつに向かってそう言った。
―――俺は周りの奴隷たちとは事情が違う、だから俺がこいつに付き合うのが正解だろう。
「おお、いいねえ。そののり、好きだよう」
そいつはご機嫌だ、クルクルと回りながら俺の片手をとりブンブンと上下させる。
「名前、君名前は?」
「俺の名前はマルク、ただのマルクだ」
―――俺は平凡な人間のマルク、そうだ俺はマルク。
「おお、いい名前だね。うーん、よしっじゃあ君に決めた。君は今日から僕の撮影協力者だ」
そう言いながらガッツポーズ。
―――サツエイ?何を言っているんだこいつは?魔法か何かか・・・
俺は最初から気になっていたことを尋ねることにした。
「その手に持っている丸いガラス付きの黒い箱は何ですか?」
そう、そいつは最初から俺の見たことのないモノを片手に持ってそれをずっと俺たちの方へと向けていた。
「これ? これはカメラだよ。動画投稿者だからね。そして君は今日から僕の動画の主役さ!」
俺にはそいつが何を言っているのか分からなかった。
でも俺にとって強いそいつについていけることは都合がよかった、だから―――
「よろしくお願いします」
それを聞くとそいつは満足そうに名乗りを上げる。
「おお、よろしく! 僕の名前は明、勇者にして異世界の動画投稿者さ」
そこから僕とそいつの旅が始まった。